屋敷を出て二日。
 森や山しか見えなかった景色が、だいぶ変ってきた。
「わぁーっ! すっごーい!」
 今日は天気が良かったから、老人の横に座って景色を眺めていた。
 故郷にはないような造りをした家々が立ち並ぶ様は、まるで異国に来た気分になる。
「もうすぐ王都に着く?」
 老人はというと、きゃっきゃ、とはしゃぐリーシェを微笑ましく見ていた。
「半日もすれば着くはずじゃ。リーシェ様はどちらに?」
「公爵様の屋敷よ」
「ふむ、だとしたら、王都の入り口までしか遅れませんのう」
「え? なんで?」
 図々しいにもほどがあるが、リーシェはてっきり乗せていってもらえるものだと思っていた。
 不思議そうな顔をしていると、老人は苦笑しながら口を開く。
「リーシェ様は勘違いしておられるようじゃ。わしは、たかが平民。貴族様の屋敷近くに行けるような身分ではないのです。それに、王都までという約束じゃった」
 聞いて、「あ」と思わず声を出す。
(確かに、そんな約束だった気がするわ)
 それに、言われてみればそうだ。故郷は、身分関係なく仲が良かったが、王都ではどうだろう。
 以前、姉が言っていた。
『よそに来て初めて知ったの。領民、つまり平民と貴族は仲良く出来ないの。治める側と治められる側で、価値観が違うのよ』
『私たち以外の貴族は、みんな誇り高くて、自分が上! って思ってるからなのよ? 自分より劣っている人と普通にお話なんてしたくないの』
 と。そのときは、ずっと故郷にいるから良いもん! なんて思っていたけれど、今になってもっと違うことも聞いておくべきだったと後悔する。
「そんな顔をしないでください、リーシェ様」と老人。頭を撫でて優しく微笑んでくれた。
「それよりも、前をご覧ください」
 老人は進行方向を指差した。
 指差された先を見ると、そこに見えたのは大きな壁。
「あの中に、町があります。わしが、お連れできるのはここまでです」
 荷馬車のスピードが落ちて、壁から少し離れたとこで動きが止まる。
「……ありがとう、ゲンお爺ちゃん」
 手荷物を持って荷馬車から降りると、にっこりと笑った。
 笑顔で別れると、大きな壁があるほうへと向かう。ふと、荷馬車の音が小さく聞こえて振り返る。
(あれ? なんで)
 なんで今来た道を戻っているんだろう。
 荷馬車は来た道と反対方向に進んでいた。
(お爺ちゃん……)
 胸のうちがジンと熱くなる。
 きっと、老人の行き先は随分と前に通り過ぎていたのだろう。
(ありがとう)
 心のうちでもう一度お礼を言って、また歩き出した。

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