Ti adoro

夜勤明け、本当なら朝のミーティングが終われば帰れる予定だった。
だけど今日に限って、交代である日勤の人が来なかった。
別にサボったわけじゃないから、仕方がないとは思ってる。
だからその人に文句はないのだけど…。
それでも身体が心底しんどい。
ただでさえきつい夜勤明けなんだ、自宅に早々に帰って休みたかったというのが本音だった。
半分寝かけながら歩いた岐路で、私はどこか道を曲がり間違えたのだと思う。
駅へと向かっていると思っていた道のりは、気が付いたら全く知らない路地へと入り込んでいた。
しまった…!
ここは一体どこなのか。
元来た道を戻れば駅への道へ通じるのかと振り返ってみても、全く見たことのない景色が広がるだけだった。
これは困った…もしかして、迷子?
誰かに訪ねようにも人影もまばらで、どうしようもない。
立ち止まり、とにかくスマホで位置状況を確認しようとポケットを探っていると…。
真横にあった扉が勢いよく開いて、私の肩を掠めた。


「うわぁお!…わ、悪ィ、痛かった?」
「こ、こちらこそすみません、開くと思ってなかったんで…!」
「そォだよねェ、こんな真っ暗じゃ開いてんのかどうかも怪しい店だよなァ」


雑居ビルの一階の、あまりに飾り気のない殺風景な佇まいだった。
だからそこがお店だなんて、扉が開く今の今まで全く気が付かなかった程だ。
確かによく見ると、小さな出窓からは灯りが僅かに漏れているのだけが見える。
扉から出てきた大きな男の人。
今時リーゼントでガッチリ髪の毛を固めて、髭の形もなんだか個性的だ。
身体付きやいかつい顔の割に、屈託なく笑顔を向けてくる人だった。
コック服を着ているし、口ぶりからここは飲食店なのだろうと推測できる。
もしかして、扉よりも大きな身体なんじゃないだろうか。
もはや普通サイズの扉が小さいのか何なのか、見ていてよくわからなくなりそうだった。
彼は大きな身体を縮めるようにして店内に半分程身体を入り込ませ、中へと大きな声で叫んでいた。


「エース!外の電飾付けてくれ〜〜!」
『いいぜ〜、…これか?』


奥にいる人の声がしたと同時に、頭上にあった電飾が点いた。
と思ったけど、一度消えてまた点いて、パッパッと瞬きでもするように数回パチパチした後に、ようやくきちんと灯った。
中の蛍光灯の寿命が、そろそろ近いんだと思う。
そこに浮かび上がる、店名と思われる文字。

TRATTORIA 白ひげ

ちょ…。
ダッサ…。

トラットリアっていうくらいだから、イタリアンなんだろうけど。
それに続ける白ひげ、はどうかと思う。
和食ならわかるんだけど。
でも、そういう偏見は良くないな、うん。
でもやっぱり…面白い…。
普段なら絶対、こんなことで笑ったりはしないんだけど。
でも…寝てない頭で、わけがわからなくなってたんだと思う。
失礼ながら、盛大に吹き出してしまった。


「ぶふっ……」
「お?なんか楽しそうだなァ、あ、そうそう、ドアぶつけた詫びに一杯奢るからどーぞ!」
「い、いや、すみません、…大丈夫ですし帰ります、痛くないし」
「えぇ〜?これからデートとか?」
「残念ながら、そんな色気のあるお話なんてありません」
「じゃあいいじゃん、ね?一杯だけ!」


ぐいっと半ば強引に腕を引かれて入った店の中は、外の殺風景さとはまるで逆で、オレンジ色を基調とした柔らかな光に包まれた落ち着いた雰囲気だった。
それ程座席数はないように思える。
カウンターの数席、テーブル席が3つ程。
その二つは男性グループで埋められてしまっている。
というか、男性しかいないお店だった。
こんなに店内はお洒落なのに。
はい、どーぞ、と勧められた席はカウンターの一席で、隣にはすでにお客さんがいる。
その人はワイングラスを片手に、横目で私を見た後に椅子を引いてくれた。
ハーフアップにして纏めている黒い髪が綺麗…。
そして紳士的な仕草にドキっとした。


「この店に女性客なんて、初めて見たな」
「そ、たまには華がねェと!」
「客が来ねェのはおれ達ばっかりのせいじゃないだろうよ」
「そーだそーだ、サッチの顔が悪い!」


カウンターにいた人、それから後ろのテーブル席で食事をしていた人達、なんだか全員が会話に馴染んでくるところを見ると、全員常連客のようだった。
でも、確かに最初、店内にお客さんがいることに、驚いたんだ。
こんな…なんて言い方は失礼だけど、路地にある、おまけにお店の看板は電飾が着いていなかった。
開店しているのだろうかどころか、お店なのかすら怪しい佇まいだ。
こんなにも、賑わっていることに驚いたというのが、最初このお店に入った時の印象だった。

飲み始めてからだいぶ経過しているのだろうか、テーブル席の人達の声は楽しげでとても大きな笑い声だった。
ドッと歓声のような大きな声が上がり、びくっと肩を震わせてしまう程で。
隣の人は、悪いね、と肩を竦めて申し訳なさそうにしているけど、時折その会話にも混ざれるほどには親しいのだと思う。
突如知らない店に、知らない集団に放り込まれた私は、申し訳ないことにその場にいる人を観察してしまう。
よく見ると、皆年齢も体格も、雰囲気もものすごくバラバラな人達だった。
なのにとても仲良しで、楽しそうに会話をしていて羨ましく成る程だ。
そしてカウンターの向こうでは、これまた楽しそうに料理をしているさっきのリーゼントの人。
料理が出来る度に、エプロンをつけた若い男の子に運んで貰っている。
おそらく、この子がエースと呼ばれたさっき電飾のスイッチを入れた彼だろう。


「これ、店からの奢りだってよ」


エースと呼ばれる子が乱雑に持ってきたグラス。
その中には、ぷつぷつと気泡が生まれては上昇して消えていく綺麗な色のスパークリング。


「おいエース!こいつらとは違ェんだよ、もっと丁重に扱え!」
「あぁ?なら給料寄越せってんだ!」
「お前がタダ食いした分、払ってから言え!」


乱暴にドンっと置かれた小皿には、彩の綺麗なピクルスが並んでいた。
置いた勢いでミニトマトだけがころりと転がる。
それすら計算に入ってましたと言わんばかりに、綺麗に並べられたそれは、失礼ながら今も乱暴な言葉を放っている人が作っているとは思えない程に繊細だった。
人参、ブロッコリー、ラディッシュ、れんこん、パプリカ…
あとはそんなに職に詳しいわけじゃないからわからないけど、イタリアっぽい葉っぱとか、いろいろ乗ってて綺麗。


「あいつの見た目は人外だが、味はおれも保障するぜ。あいつの料理は何食っても美味い」
「美味しくてこんなに綺麗なんて、天才!」
「うお、君イイコだねぇ〜サッチさん天才!ってわけでおれ人間のサッチ、隣のがイゾウ、…で?」
「あ、☆☆☆です」
「☆☆☆ちゃんね、晩飯まだ………」


サッチさんが言い終える前に、バンっと勢いよくお店の扉が開くから、思わず全員でそちらを見てしまった。
一瞬静かになった時に聞こえてきたのはジャズだった。
ずっと鳴っていたんだろうけど、店内の喧騒の中では全く聞こえるはずもなかったと今気が付く。
暗がりから現れたのは、サッチさん程大きくはないものの、背の高い男性だった。
金髪で個性的な髪型、思いっきり眉間に皺を寄せて不機嫌そうな出で立ちで入ってくる。


「んで、あれがマルコ」
「んでおれがエース!」


おれはジョズ、おれはハルタ、おれは…おれは…って何人もの自己紹介が続いた。
そのうちおれが先だっていう感じでまた喧嘩が始まってしまうから面白い。
だって喧嘩というよりも、男子高校生がじゃれているみたいだから。
マルコと呼ばれた人は慣れた手つきでスーツの上着を脱ぎ、一瞬迷ったものの、いつもカウンターに座るんだろう、私の隣の更に隣へそれを放る。
手にしていた鞄もそこへ乗せると、ネクタイを右手で掴んで左右に揺らして緩めつつ、私の隣へ腰を下ろした。
イゾウさんがワインの瓶をぐっとマルコさんへ向けると、それを片手の掌を向けて首を左右に振っている。


「今日、車だよい」
「そうか、じゃあ☆☆☆さん、飲める方か?」
「はい…でも?」
「スパークリングは飲み切らねェとだろ、作法はよく知らねェけど」
「頂きます」


イゾウさんが私のグラスに注いでくれるから、私もイゾウさんにそれを注ぎ返す。
注ぎ終えた頃、エースさんがマルコさんのところへ、細長いグラスを運んできていたところだった。
またしてもドンッと置くから、サッチさんの怒鳴り声が響いてきていた。


「じゃあ、改めて…」
「お仕事お疲れ様です」
「ああ、☆☆☆さん…でいいのかい、お前もだろい、仕事帰り」


3人で小さく、コンと音を鳴らす日本式の乾杯をした。

私もマルコさんも、晩御飯がまだということでサッチさんにお願いをして、3人で会話をした。
ここにいる皆さんの関係を教えて貰ったり、私の仕事の話をしたり。
やがて運ばれてきた料理はどれも美味しくて、その度にサッチさんを褒めると、天才!と返ってきた。
どうやらその褒め言葉が気に入ってくれたらしくて、何度も言っていた。
最後の方は、エースさんにしつこい!と蹴られていたけども。
イゾウさんは見た目通りクールな人なのかと思っていたら、お酒が進むごとに饒舌になっていってくれて楽しかったし。
マルコさんは素面にも関わらず、次第に酔っていく私達によく付き合ってくれていたと思う。
というより、最初不機嫌そうだと感じたのは、仕事に疲れているいつもの彼の癖のようなものらしく、会話が弾むうちに笑顔も見せてくれてそれがとても可愛かった。
可愛い?
そうだ、可愛いと思った。
私よりも年上のこの人を、そう思ってしまったんだ。
マイナスからのスタートは、それ以上嫌いになることはないから、好きになっていくだけ、というのはよく言ったもので。
そのうちイゾウさんは、明日早いんだと先に帰ってしまい、明日土曜日でおやすみだというマルコさんと、今日は夜勤明けの日勤で明日は当然休みの私が残った。
ワインを飲んでおしゃべりになっていく私と、食事を終えた後もその話に付き合ってくれているマルコさん。
私が一方的に話すのではなく、きちんとマルコさんも自分の話を交えてくれるから、本当に話やすくて心地よかった。
二人になっても会話は続き、お酒も進んでしまい結局はイゾウさんと二人ではあるものの、ワインをひと瓶開けることになってしまった。



**********



突如、バチンと目が覚めた。
ん?
あれ?
え?
今日何曜日?
今日、早く起きる日?
仕事…の、日?
大混乱中の頭をなんとか起こして、視点をようやく合わせた。
驚いて目を見開いていると、目の前には、……誰?。
どうやら私、テーブルに突っ伏して眠ってしまっていたらしい。
昨日のことがぼんやりと思い出されていく。
ああ、この人…マルコ、さん。
マルコさんは眼鏡をかけていて、ノートパソコンに向かって何か文字を打っているところらしかった。
最も私が目覚めたことによってこちらを向いてくれて、その動きは止めてしまっていたけれど。


「目ェ覚めたかい」
「あ、あれ?私…寝て…?」
「気持ちよさそうに寝ててなァ。さすがに起こすのも可哀そうで」
「え!?今…ッ……さん、じ…」
「寝不足で飲んだら、そうなるだろうよい」


マルコさんの背後の風景を眺めてみると、そこは昨日立ち寄ったお店で。
入った時にいたお客さん達はもう他に一人もいない様子だった。
厨房にいたサッチさんや、エースさんの姿も今はない。
店内の電飾もほとんど落とされていて、点いているのは私達の真上のもののみだった。


「す、すみません、私…あぁ…なんてことを…」
「寝顔見ながら仕事出来たんだ、こっちは得した気分だったよい」


マルコさんがパソコンを小気味よくパチンと閉じて、そこを軽く拳で小突く。
あぁあああ、なんって恥ずかしいことを!
おまけになんだかいい匂いがすると思ったら、肩にはしっかりマルコさんのスーツの上着をかけて頂いていたようだった。
何から何まで…。
お酒を飲んで店で熟睡する女なんて、一体どんな奴だと思われているのだろうか。
ものすごく恥ずかしい思いが込み上げてきた。
もうこのお店には来れない…。
恥ずかしくて申し訳なくて…。
でもサッチさんには謝罪しに来なくてはならないかもしれない…。


「顔が赤ェのは、今照れてるからかい?」


マルコさんの指の背が突如私の頬に触れた。
恥ずかしくて堪らないのに、更に照れるようなことをされると…。
もっともっと、頬が染まって熱くなっていく気がした。
触れられている箇所が、更に熱を持っていく感覚にも陥る。


「もう店には来れねェ、なんて思わないでやってくれよい。他の客が来るなんてことは、滅多にねェんだ」
「うッ……あの、ご迷惑じゃなければ、…私で良ければ…」


考えが見透かされたような気がして、言葉に詰まった。
そんな風に間近で眉を下げて言われたら、否定なんて出来るはずがなかった。
だけど肯定して良かったと、すぐに想うことができたんだ。
そう返事をした途端の、マルコさんの顔といったら。
もう、なんていうのだろうか、すっごい笑顔。
ニコって輝くような眩しい笑みを向けられると、さっき熱くなっていた頬がまた色を付けていく気がした。


「それと…きちんと確認しときてェんだが、イゾウの連れってことじゃねェんだよな?」
「え?…あの…はい、今日、初対面です」
「当然サッチのでもねェよな」
「はい、お店の前で今日初めて会いました」
「なら問題ねェな」


マルコさんがさっき閉じたパソコンを持ち、隣にある鞄に縦にしまっていくのを黙って見てしまった。
今の質問の意味は?
それが分からない程、子供ではない。
だけど察することは出来ても、心が着いていかない感覚だった。
ただひたすら、その意味が頭の中を駆け巡る。
さっき触れられた頬は、また真っ赤になっている気がする。


「帰って寝るんだろい?」
「はい…明日、っていうか今日は一日寝ちゃうと思います」
「それなら、送るよい」
「い、いえいえ、お気になさらず…」
「電車も動いてねェ、この時間、タクシーを拾うのも奇跡に近いとおれは思うが、☆☆☆さんはどう思う?」


素直に送って頂くことにした。
マルコさんに上着を返してお礼を言うと、女は素直な方が可愛いよい、と代わりに頭を撫でられてしまう。
大きくて無骨な手なのに、すごく優しくて、あったかくて…。

それからお互いに身支度を整えて、お店の灯りを落とすと暗い路地に出た。
扉の鍵をマルコさんが外側から掛けているから、昨夜聞いた気心の知れた仲というのは、よほど深いものなんだろうと思う。
マルコさんが手にしているのは、私が先程返した上着と、さっきのPCが入っている鞄のみで。
鞄に店の鍵を仕舞い込むと、ちょっとそこで待ってろ、と路地の方へと消えて行ってしまう。
その背を見送り、私は更に照れてしまうんだ。
だって、見えちゃったから。
上着もなくて、ネクタイも半分以上解けた状態、その上シャツのボタンを三つ程開けていたマルコさんの胸板。
スーツの上からでも隠し切れていない逞しい体つきではあったけど、隙間から見えた胸筋の凄まじいコト。
きっちりズボンに仕舞われていたシャツの、無駄のない越元。
ほっそりしているのに、すとんとシャツがズボンに入っているのは贅肉なんか全くない証拠だ。
抜群のスタイルの良さは、暗がりのシルエットだけでも素敵で。
こんな男性がこの世にいるのかと、改めて思った。
今日会ったばかりなのに。
もうすでに、マルコさんのことばかり考えてしまっている自分に少し笑っていると、路地の方から車のライトが此方を照らしつつ曲がって来た。
目の前に止まる車。
私のよく知る運転席側の扉がこちらにあるのに、中にマルコさんの姿が見えない。
スーッと窓が下りて、僅かに屈んだマルコさんがこちらを覗いている。
左ハンドル…!


「乗れるかい?」
「は、はい…お邪魔、します…ッ」


扉を開いて中に乗りこむと当然のように革張りの手触りの椅子。
そして広い。
私なんて、すっぽり椅子に収まってしまう程。
ひぃいい、これ、ベントレーだ…。
ベントレーコンチネンタル。
これは、格が違う…。

シャツの腕を捲り上げて運転しているマルコさん。
その腕はまた、綺麗な程に無駄なく筋肉が着いており、力が入る度に筋肉が動いていて素敵だった。
車の凄さも衝撃的だったけど、それ以上に運転しているマルコさんが格好良過ぎた。
チラチラと何度も見てしまい、危うく説明する自宅までの道を間違えるところだった。
いつまでも見ていたい。
でも、見ていると照れてしまう。
色々な葛藤が巡った。
何度目かに、チラリとマルコさんを横目で見た時に、ぷっと小さく彼が笑った。


「おれの顔に何か着いてるかよい」
「いッ…いえ、あの…大丈夫です」


マルコさんの笑い声は、やがて外の景色が見慣れたものになり、自宅付近になるまで続いた。
それがやけに楽しげで、私はますます恥ずかしくなるばかりだ。
そりゃ見てたけど…。
格好いいなって、見惚れていたけど。
そして音もなく車がすっと止まると、そこは私のマンション前だった。
到着してしまった。
もう外は明るくなってきている。
そろそろ4時も過ぎる頃だ、朝日が出て当然なんだけども。
マルコさんの顔が見えるということは、赤く染まる私の顔も見えてしまっているということで…。
シートベルトを外し、改めて身体をマルコさんの方に向けて一度お辞儀をした。


「ありがとうございました。また…サッチさんのお店で」
「サッチの店で、か。それもいいが…休みが合う時に、映画でも…?」


はい、と言おうとしてマルコさんを見上げると、着いている車のハザードの点滅が辺りを規則的に照らす。
マルコさんの顔も、それに合わせて何度も照らされているのが見える。
きっと、私のも。
キス、したいな。
マルコさんの顔を見ていると、そんな気分にさせられる。
今は何故かへの字に曲げられているその厚めの唇に、触れてみたい。
いやそれは、いくらなんでもまずいでしょ。
今日会ったばかりなんだから。
なんとか理性が勝って、笑顔を向けることに成功した。
マルコさんはというと、さっきとは違って同じく私を見てニコニコと笑みを向けてくれている。
良かった…変な気起こさなくて。
私の勤務が不定期なのもあって、映画に行くという約束だけをその場でして、後程連絡を取り合うことにした。
スマホに残る、マルコさんの電話番号と、文字伝達システムのID。


「じゃあ、おやすみ。またな」
「おやすみなさい、お気をつけて」


舗道に降りた私を残し、マルコさんが片手を上げながら車を発進させた。
音もなくスーっと進んでいくそれは、いい車の証でもあった。
すぐにエントランスに入ることも出来たけど、マルコさんの車が見えなくなるまで、そこで見送った。

やがて朝日が昇る。
完全に朝になる前に、部屋に入って眠ってしまおう。
起きた時に、夢だったなんてことのないよう、起きて確認しよう。
マルコさんの電話番号を。





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