Happy Birthday2

Side:☆☆☆



豪華な朝食に大満足のマルコさんや一番隊のクルーは、四番隊にしっかりお礼を告げた後に、本日の予定通り今日はトレーニング室での鍛錬に入った。
ただ、その中でも普通にトレーニングをするのではなく、隊員からのお祝いの言葉とか、一人一人からの様々なプレゼントでそれどころじゃなかった。
私はただ隣に居るだけじゃなくて、マルコさんが受け取ったプレゼントを一旦お預かりして、手に持てなくなったら部屋に運ぶというお手伝いをしていた。
最初、マルコさんはすごく恐縮している様子だったけど、プレゼント攻撃は隊員のみならず、他の隊からも頂いていた為、甘えるよいといって私に任せてくれた。

実はこれ自体、サッチさんから今朝、秘密裏に頼まれたことでもあるんだ。
午前中はマルコさんを、トレーニング室から出さないでくれって。
朝食の時に、マルコさんがお祝いを受けて気がそちらへ行っているときに、こっそりとお願いされたこと。
昨夜のソファの件。
あれは、隊長の皆さんからのプレゼントで、サッチさんがマルコさんの欲しいものを確認するための行為だったらしい。
今朝になってすでにソファを手に入れる手段は確保してあって、午前中に買いに行って部屋に入れたい、と。

普段本当に、物欲のないマルコさんは、確かに欲しいものとなると全くわからない。
部屋に物を増やすことは、あまり好まないし、アクセサリーの類も飛ぶのに邪魔だと言って、身に着けているものはだいたいいつも決まっている。
マルコさんはいいって言ってくれているけど、私もあまり私物を増やさないようにしているくらいだもの。
ただでさえ、執務室を作らず仕事部屋としても利用しているんだ。
私物が増えると、手狭になってしまう。
さらに、私は片付けがあまり得意ではないから、知らないうちに散らかしてしまいそうで。
だからこそ、プレゼントは非常に困るというのは、わかる気がする。
現に、隊の皆さんからのプレゼントは、お酒やそれの為のおつまみ、日用品といった消耗品が多い。


「☆☆☆さん、そんなに酒瓶持って大丈夫っすか?」
「大丈夫です!船大工の筋肉、けっこうあるんですよ。ほら」
「ほらってアンタ…。触んねェよ?ぜってー隊長に蹴っ飛ばされんじゃねェか」


さすがに私ひとりじゃ遂行するのは難しくて、隊の何人かの人には協力を仰いだ。
今もそのうちの一人の人が、お酒の瓶が多くて一人じゃ重いだろうからって手伝ってくれている。
隊の中には若い人も多いから、割と話しやすい人もいて有難い。
今もこうして、楽しく世間話をしながら並んで歩けるくらいには仲良くして頂いている。

マルコさんの部屋の前の廊下まで来た時に、バタバタと後ろから走ってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのあるリズムは、振り返って確認する間もなく私の隣へと本人が追い付いて。


「いやーほんと、あいつ愛されてるね」
「わ、…ありがとうごじます。今日は朝からすごいんです。大人気ですね」


横に並んだサッチさんが私の腕の中の酒瓶を一本一本するりと抜いて、代わりに持ってくれている。
結局、全ての瓶を持って貰ってしまった。
こういうところ、ほんとスマート。
サッチさんも、けっこうもてるっていうのは聞いたことがあるけど、こういうさり気なく優しいところも絶対に理由の一つなんだろうな。


「まーでも、先に見てよ、コレ」
「おれも先に見ていーんすか?」
「別にサプライズってわけじゃねェし、いーっていーって!」


じゃじゃーんって言いながら、酒瓶を持ったまま器用にも扉を開くサッチさん。
いつもの見慣れた部屋の中。
その奥に、見慣れない大きな影が。
今日は快晴で窓から入る光も結構強くて、逆光で反射しまくるそれに目を細めて慣れさせると、全貌が次第に見えてくる。
マルコさんの仕事用の机の向こう、詳しく言うと椅子の向こう側。
窓際には特に何も置いていなかったのが幸いしたのか、そこに新しく置かれたダークグレーのソファ。
2.5人掛けくらいの割と大きめなものだけど、部屋のサイズにぴったりで初めからそこにあったみたいに馴染んでいるように見えた。


「わぁ…素敵」
「だろォ?部屋の鍵も、開けといてくれてありがとな」
「い、いえ、それはマルコさんが」
「ん?…あー、そりゃー…あいつらしーね」


なんだかんだと、皆の気持ちを受け入れてくれる、優しいマルコさんらしい提案だと思った。
私も、見られて困るような私物は置いていないし、二つ返事で了承をしたことなんだ。

机の上に貰ったプレゼントを乗せていくと、もうそろそろ置くところがない程になっていってる。
いつもお酒を置いている棚だってもういっぱいだし、サイドテーブルの上は早々に朝から埋まってしまった。
半年ぶんくらいはありそうな程の、たくさんのみんなからの気持ちだった。
その光景を見て、自然とニマニマしてしまう。
大事にされてるマルコさんも、そんな皆を大事に思っているマルコさんも、素敵。
自然に頬が緩んでしまったんだろう、サッチさんが私の顔をのぞき込んで、同じようにニヤニヤとしているから、一緒に笑い合った。


「まだ増えっかなァ?後で厨房から、酒瓶入れる籠でも持って来てやるよ」
「ああ。頼むよい」


サッチさんの言葉に返事をしようとした私よりも先に、部屋の入口から聞こえるマルコさんの声。
振り返ると、お酒の瓶をまた何本も抱えたマルコさん、それにクルーの数人。
本当に、必要だと思う。
今夜は嵐の予定はないし、船の移動もしないけれど、万が一揺れて倒れでもしたら大変だ。


「もうちょっとしたら呼びに行こうと思ってたのに、いいタイミングで来んじゃねェよ」
「サイズに、色もいい。おまえらからだろ?ありがとよい」
「まっあねェ〜。せっかくだ、一番に座ってみろよ」


マルコさんの腕の中のお酒をサッチさんが受け取ると、ソファの方に誘導していく。
その途中、マルコさんが私の腕を取り一緒に行くことを促してくれた。
間近で見ても、綺麗な色で張りのあるソファだ。
先にマルコさんが座って、私もその隣に腰を下ろそうとすると、ぐいっと掴まれた腕を引かれて、半ばマルコさんの上に倒れ込む形になる。
ギシっと大きくソファが軋む音がした。
それを見てサッチさんが満足そうに何度も頷いている。


「な?絶対必要だろォ?」
「そうだな、…こりゃいい」


サッチさんだって、他のクルーだっているから、この体勢のままじゃ恥ずかしくて。
なんとか身を起こそうと動かしていると、今度は両方の腰から背中にかけてマルコさんの腕に支えられた。
そのまま背後へと倒されるから、慣れないソファの上で、床に落ちてしまうのではないかと一瞬ひやりとした。
だけど私の身体を支えたのは、ぽすっと軽い音を立てただけの柔らかなソファで。
無意識のまま掴んだマルコさんの肩が目の前にある。
そしてゆったりと私の上に乗り上げているマルコさんの身体。
ちょ…。
これは本当に。
本当に…あの時のような。
もう、一気に顔が熱くなっていくのが良く分かった。
皆見てるのに!


「オイオイ、贈っといてなんだけど、そういうのは夜にヤれ、夜に」
「ま、マルコさん、…あの、後で…」
「ああ、今はこれで我慢してやるよい」


そう言ってからすぐに私の頬へ掌をピタッと当てて固定してしまうと、ちゅっと触れるキスをした。
すぐに離れたんだけど、名残惜しそうにしながら、もう一度だけ、今度はソファに強めに押し付けるようなプレッシャーをかけるキスだった。
サッチさんが、あちゃーって言ってるのが聞こえる。
恥ずかしいけど。
すっごく恥ずかしいけど、でも、嬉しい。


「まーそこらへんにしといてくれよ。で、この次はナースんとこに寄ってやれ」
「医務室にか?」
「なんか、見せたいモンがあるんだってよ」


医務室か、とちょっとだけ眉間に皺を寄せながらもう一度呟いている。
分かりやすい程に、嫌そうにしているのが面白くてさすがに笑ってしまったら、マルコさんにコツンと額をたたかれた。
そして私の上からゆっくりと上半身を起こして、私の腕も引いてくれている。

部屋を出ると、厨房や隊に戻るというサッチさんと一番隊と別れ、私達は医務室へと向かった。
行く途中の廊下では、行きかうクルーの皆さんに声をかけられて、お祝いの言葉を伝えられている。
その一人一人にきちんとお礼を告げて、肩をぽんっと叩くマルコさん。
本当に素敵で優しいなと思う。



「マルコ隊長、お誕生日おめでとうございます」


医務室でも、盛大にお祝いの言葉を頂いている。
イルヴァさんを中心に、ナースさん達がほぼ全員医務室にいるのを見るのは初めてで。
美人揃いだから、迫力もものすごかった。
そしてイルヴァさんが、数枚の書類をマルコさんに渡している。
書類に目を通して、一通り見終わったマルコさんの表情は、とても嬉しそうなものに変化していった。


「あなたはご自分のことに関しては、あまり興味もなく喜びませんものね」
「これが一番、嬉しいよい。今後もこのまま頼みてェ」
「ええ、それはもうここにいる全員の悲願ですわ」


いつもの雰囲気とは違って、すごく仲がよさそうに二人とも上機嫌で会話をしている。
サッチさん曰く、珍しいことみたいだけど。
やっぱり私から見たら、長身の二人は並んでいるだけでも絵になって鰓やましいな。
でも、なんだろう?
疑問に思っている私の肩をマルコさんが引き寄せてくれて、目線の高さまで書類を下げてくれている。
何かの数値の表?
医学用語なんだろうか。
端に3つくらいの文字に、数字の羅列。
健康診断表?


「オヤジのだよい」
「ここ一週間程の、船長の診断書よ」
「安定してんだ、体調も」
「私たちがお渡しできるもので、マルコ隊長が一番喜ぶものといえば、船長の健康なのよね」


私にはわからないけど、この数字の並びは健康の範囲内なんだろう。
わからないけど、マルコさんもナースさん達も嬉しそうに笑顔だから、自然と私も同じ表情になったと思う。
オヤジが元気なことは、私にだって嬉しいことだから。


「それから、コレも」


マルコさんにじゃなく、私に向けて渡された包みは真っ赤なリボンが印象的なものだった。
柔らかな袋のそれは、重くはないから、お酒ではなささそう。
中身も柔らかな素材で出来ているんだと思う。
服かな?
何だろう?
マルコさんがそれを手に取ろうとした時に、動きを止めるかのようにイルヴァさんが続けた。


「そちらは日付が変わる前までにお開け下さい」
「今じゃダメかい」
「ええ、後回しでも構いませんわ」
「それに、今夜は宴だと言ってもう甲板に人がお集りですわよ」
「船長もさっきお待ちのようですわよ」


さあさあ、とナースさん達に促されて医務室を出ると、マルコさんは先に、私は頂いたプレゼントを部屋に置いてから甲板に出ることになった。
一旦の分かれ道、イルヴァさんにウィンクされた。
囲むナースさん達も、私の顔を見て何やら楽しそう。
何だろう…?
疑問に思うまま部屋に戻って袋を置いたけれど。
廊下で一番隊の人に偶然会った頃には、もう始まりますよと焦るクルーに促されて走って向かい、そのことは忘れてしまっていた。



**********



日付が変わる直前にようやく二人で部屋に戻って来られた。
今日一日、マルコさんのお誕生日をずっと近くでお祝いできた事実が、私が一番嬉しいマルコさんの誕生日となった。

宴は、最初こそマルコさんへのお祝いが中心ではあったけど。
途中からは、それを理由に飲みたいんだよねっていうくらい、いつも通りの大騒ぎの宴になった。
でも誰もかれもが楽しそう。
オヤジもここぞとばかりに、嬉しそうに大好きなお酒をがぶ飲みしていたし。
それを見たマルコさんは、呆れたようなため息をついていたけど、喜びは滲み出ていて隠しようもなかったと思う。
隊長さん達にもお礼を告げては、乾杯だって何杯もお酒を飲まされていたけど、部屋に戻る足取りは普通の時と同じだった。
普段よりもしっかりしているようにも見えたのは、私のことを抱え上げて部屋に戻ってきたからだと思う。
その勢いは、確実に酔っ払った人そのものではあるけれど。



「おれも今日、休めばよかったよい」
「でもきっと…今日一日のお祝いラッシュは変わりませんよ」
「そうだなァ…締めくくりのお祝い、今貰っても?」
「…はい、そのつもりです…」


言葉を伝え終える前に、すでにマルコさんに抱き上げられて、ベッドへと移動されていく。
背をベッドの上に乗せると同時に、マルコさんの重みも体の上に感じてそれが心地よい。
唇を合わせては、見つめ合い、それからまた唇を重ねていく。
その触れ合いが次第に深まり、呼吸が乱れていくともう止められそうになくて、私も必死にマルコさんの首筋にしがみついた。


「…ッ…明日、も…休みは取ったのかい」
「はい、…連休を頂きました」
「じゃあおれも明日こそ休むよい」
「日付が変わっても、プレゼントは受け付けてくださいますか?」
「眠るまでが、誕生日、ってェことだろう」
「眠るまで…たくさん可愛がってください」
「はぁ…おまえなァ…、まったく、最高の誕生日だよい」


ちゅっちゅとついばむようなキスが顔に降りてきて、私もマルコさんの唇を追いかけて互いに重ね合う。
本当にこのまま…。
思わず指先に力が入って、マルコさんのシャツを強く握りしめた。
その時にふと、脳裏をよぎる昼間の記憶。


「そういえば、ナースさん達からのプレゼント開けてませんね」
「…はぁッ…それ今、言うなよい」
「でも、日付が変わる前に開けてって……しちゃう前に、開けてみませんか?」
「明日でいいだろう?」
「生ものとかだったら、困りますよ?」
「…なワケあるかい」
「でもあれだけ包まれてますし、気になりません?」
「見てェからかい」


はぁ…と深いため息を付きながら、いったん私から身を離して、サイドテーブルの上に置きっぱなしだったプレゼントを手にするマルコさん。
ベッドの端へ座りなおす格好を取るから、私もその横に並んで手元を一緒に覗き込んだ。
綺麗にラッピングされているそれは、なかなかすぐには解けなくてマルコさんの指先がもどかし気に袋の紐を横に引いた。
するりと抜けた赤いリボンが、閉じていた袋の入口を自由にすると、中からは綺麗な薄いピンクのレースが覗いている。


「……この趣味で、おれへ、かよい…」
「何ですか?」


深い深いため息を付きながら、マルコさんが中身を取り出すと。
小さく畳まれているから何なのかはすぐに判断できないけど、全体的にピンクのレースでほとんどが透けている素材になっている。
なんか、嫌な予感がした。
こういう見た目のものを、以前に見たことがあるからだ。
今にも広げてみようとしているマルコさんの手を横から止めようとしたけど、僅かに遅かった。
肩の箇所なんだろう、二本の紐がマルコさんの指に片方づつ引っかかって、全貌を表したそれは…。
薄いピンクのべビードール。
ご丁寧に、すべてがシースルーになっている様子。
そのベビードールと共にひらりと落ちてきた、バースデーカード。
ナースさん達の主張がピタッと二人の間に滑り込んできたようなベッドへの舞い降り方だった。


『生ものですので、今日中にお召し上がりください』


「こりゃあ、いいプレゼントだよい」






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