Happy Birthday

Side:☆☆☆



モビーディック号は気候の過ごしやすい島の近郊で停泊中。
小さな揺れが心地のいい夜だ。

ベッドの上、二人でのぞき込むマルコさんの掌の上の懐中時計。
これは前回の島で、秒単位できっちり時刻を合わせてきたものだ。
カチコチと鳴るそれを見ていると、ようやく秒針が12時へと辿り着いた。
日付が、変わる。


「マルコさん、お誕生日おめでとうございます」
「お、すっげェな!☆☆☆が作ったのかい?」
「はい、設計も切り出しも組み立ても、一応全部私が。なので、完全な手作りです」
「さっそく明日から使わせて貰う、ありがとよい」


一番最初におめでとうを伝えたかった。
間近で目を合わせると、プレゼントしたものを手にしたまま、嬉しそうに笑みを向けてくれている。
プレゼントしたのは、組み木のシステムを利用して作った書類入れ。
マルコさんの私物は、ほとんどが理にかなっているもので、無駄なものは一切ない。
だから自分で作ったものにしようって決めてたから。
何とか間に合って、この日を迎えられて本当に嬉しかった。

それに…。
日付が変わるまで起きていたいという、私のお願いを、誕生日の主役なのに聞き入れて叶えてくれた愛しい人。
だから力いっぱい、全力で愛してるを込めてマルコさんの唇にキスをした。
いつも私がされているように、今夜は私がマルコさんの両頬を掌で包み込む。
ちゅっちゅっと何度も短いキスをすると、くすぐったそうにマルコさんが身じろいだ。
私の方はというと、このキスがすごく気持ちがいい。
マルコさんの唇がぷっくりとしていて、厚みのあるものだからこそ余計に。
だから触れ合わせるだけじゃ足りなくて、下唇を私のそれで挟むようにして動かすと、いつの間にか腰に回されたマルコさんの指先が衣服を掴んでいる感覚がある。
そして背も支えられて、そこからすでに後退できない程の力が加われている。
私だってこのまま体を離す気はないから、…そうなっちゃうだろうと思う。
マルコさんが懐中時計をベッドへ放ったんだろう、横の方では鎖が互いにぶつかり合っている高めの音が聞こえた。
頬へ当てていた両腕をマルコさんの首筋に回すと、一気に密着していく互いの身体が心地いい。
自由になっただろうマルコさんのもう一方の手が、私の太ももを撫で上げていくと、体の芯に響いていくことがゾクリと腰を疼かせる。
キスも次第に激しくなっていって、唇が離れているのか触れているのかさえ区別がつきにくくなっていたし、呼吸さえ忘れる程に夢中になっていく。
太ももを這うマルコさんの指先が、スカートをたくし上げて私の下着の横の紐に触れ、指先に絡めて遊び始めた矢先、廊下をバタバタと駆けてくる足音が部屋に響いた。


「…ッ…はぁ〜……このまま、抱きたかったよい…」
「今日はお誕生日の、主役ですもんね」


互いに唇を名残惜しくも離し、互いに同時に小さくため息を落とした。
変わって私は可笑しくて笑ってしまい、マルコさんのそれは更に深くなっていったけど。
むき出しになっていた太ももを、マルコさんの指先がスカートの裾をつまんで隠した直後、バタンと大きな音を立てて扉が開いた。


「ハッピバァ〜スデ〜〜イ!!」


開いた扉から現れたのは、二人の予想通りの人物。
真っ白いコック服に、輝くような満面の笑みを浮かべたサッチさん。
その手には、酒瓶、そしてトレーの上には彩り綺麗な食材が乗せられている。
マルコさんのため息が、今まで聞いたことのない程に深い音を立てると、サッチさんの首が斜めに傾げられていく。


「あれ?…イチャ付いてねェの?」
「そう予想してたんなら、邪魔すんじゃねェよい」
「いや〜、真っ最中ってのもちょっと心配したんだけどな、誕生日だからいっか〜って思ってよ?」
「デリカシーって言葉を知らねェのかい」
「服着てくれてて、良かった良かった」
「ダメだ…言葉が通じねェ…」


マルコさんの言うことなんて全く意に介さないといった様子のサッチさんは、そのまま室内へと足を進めてきている。
ドンっと酒瓶とトレーを机の上に乗せ、部屋にあるグラスを三つ取り出してそれも並べた。
勝手知ったるというのはよく言ったもので、一連の動きに無駄がない。
部屋に来慣れているというのも含め、すでに事前にこうすると決めてきているのだろう。
もう一度大きくため息を落としたマルコさんは、上に乗り上げていた私の身体をそっと持ち上げて、ベッドの上に下ろす。
優しい手の動きは、スカートの中が見えないようにと触れてくれていて、そういうところもスマートだなと感じる。
私の頭をポンポンと優しく撫でた後、立ち上がってサッチさんの方へと向かう背中をじっと見つめてしまった。
はぁ〜ってまた深いため息を付きながら、首筋の後ろを掌で撫で、机の上を覗き込んでいる。
マルコさんは、後ろ姿だって格好いい。
ぽーっと見惚れてしまっていると、サッチさんが口元を緩めながら私を見て、ちょいちょいと手招きをしている。
机の上にはグラスが3つ、食する為のピックも3本きちんと揃えられていた。
ベッドを降りて机に近づいていくと、マルコさんの椅子の隣に、いつもは来客用になっている椅子が移動させられている。
それは私も以前に部屋を訪れた時に座っていた椅子だった。
この部屋には基本的に、椅子は二脚しかない。
それを並べてしまうとサッチさんは…?
さすがに進められた椅子に座れないで迷っていると、勝手知ったるといった様子のサッチさんが、いつもはお酒を並べている棚の下のスペースから小さな丸椅子を取り出した。
そんなところに椅子が!
全然知らなかった。
物の少ないこの部屋なのに。
知らないことがまだまだあるということに驚きを隠せなかった。
その椅子を引き摺ってきて、ちょうどマルコさんの真正面になるように置いた。
居座る気がよいって、マルコさんが嫌そうに言うけど、まるで聞こえていないかのように自然に椅子に座っているサッチさん。


「マルコ、おまえって欲しいモン、なんかあんの?」
「特にはねェ。生活できるモンは揃ってるからなァ」
「ソファは?くつろいでイチャつきてェなって時はどーしてんの?」


サッチさんの質問に対して、無言のままベッドを指すマルコさん。
サッチさんは、マルコさんの指の先のベッドを見て、マルコさんを見て、それから私を見た。
その後、意味のない小声でこそっとマルコさんに耳打ちをした。
ちなみに絶対わざとだと思うけど、それは私にだって聞こえている。


「イチャついて盛り上がって、そのままソファでヤッちまうってのも、背徳感がってイイぜ?」
「……そりゃ、悪かねェなァ…」
「だろォ!?」


二人とも、盛り上がってしまってお酒がすごく進んでいるから、これはきっと深夜まで続くんだろうと思った。
でもこの部屋にソファ。
想像してみると、いいかもしれない。
どこに置いたらいいのかなって考えながらも、次第にお酒の入ったマルコさんの視線に熱が入ってきて私を見るから、余計にドキドキした。



**********



Side:Marco



ダダダダダッ…
ドゴォン!
バタンッ!


「マルコ!おまえ、今日誕生日なんだってな!そういうことは早く言えよ!」


まだ薄暗い早朝の出来事。
けたたましい足音に、勢いよく開く扉、中の人物の事情など気にも留めないその態度。
なんだってうちの船員は、落ち着きねェ上に、プライバシーってもんを知らねェんだ。
それにノックの後、確認せず扉を開けンのもデフォってわけかい。
っつぅか、ドアを拳で破壊しそうな音はノックと受け取ったらいいのかすら、疑問が湧く。

昨夜はサッチと3人、割と深酒をしちまった。
思いのほか、話が盛り上がったし酒も肴も美味かった。
特にソファの件は最高だ。
昨夜の時点では、すでに贈り物ってことで決定した様子だったが。
悪くねェと思った。
むしろ、有難い、と。
誰かに提案された家具を置くなんてことになるとはな。
確かにそっち方面でも楽しめそうではあるが、☆☆☆の為にもいいだろう。
そんな風に、思考を巡らせていたばかりに寝るのが深夜になっちまった。
サッチが帰った後は、当然ながら肌を合わせるどころではなく、かろうじて衣服だけ脱いでベッドへ転がるように潜り込んだ。


「エース…今何時だと思ってんだい」
「へっへ〜、これ、持ってきてやったぜ!」


辺りの薄暗い感じからして、未だ5時前といったところだろうか。
エースの手には、短剣が握りしめられている。
得意そうに持ち上げたその先には、大きめの肉塊が突き刺さっているようだが…。
腕の中の☆☆☆は、大きな物音にも関わらず小さな寝息を立てて眠っている。
薄い下着のみを着用している為、そっと腕を引き抜きシーツに包んで見えないようにと巻きつけた。
たとえ相手がエースだろうと、誰が肌なんか見せてやるかいっての。
昨夜はすべて脱ぐ時間さえなかった。
だが今は、それがありがたかった。
おれも上半身は何も身に着けてはいないが、下半身はハーフパンツのままでなら、ベッドから抜けるのも可能だ。
眠る☆☆☆を起こさないよう、揺らさずそっとベッドから降りると、嬉しそうに飛び跳ね兼ねねェエースの元へと向かう。


「おれはお前に、肉の塊が好みだと言ったことはあったかい?」
「いや、知らねェ。でもプレゼントってのは、自分の好物を送るモンなんだろ?」


あまりに屈託なく笑う表情に、こちらはぐっと言葉が詰まる。
非常識かと思えば、こうして一般的なことも口にしやがる。
こんなナリしてんのに、挨拶だってきちんと出来んだ。
誰だい、エースに常識を教えたヤツは!
もっときちんと教え込んでおけよい。

さすがに持参したものを受け取り拒否するわけにもいかねェ。
だがこの部屋には、そんなに大きな食べ物を乗せる皿なんてねェんだ。
なんだって毎度、直に持ってきやがる…。
皿に乗せてこい、皿に。

棚へ目線を遣っても目的の物は当然見つけられず、ため息を付いたところで、廊下の端からこちらへと勢いよく駆けてくる足音が聞こえてきた。
ああ、案の定かい。
もう皿を準備する必要がなくなったと理解して、エースの真正面まで移動した。
足音は大きくなり、やがておれの部屋の前までやってきたと思った時、大きな音と共にエースの笑顔が縦に大きく震えた。


「…ッてェェエエエエエッ!!」
「朝食のメイン盗んだの、やっぱりお前かエースゥゥゥゥゥ!!」


思った通り、エースの持参した肉はサッチの厨房から盗んだものだった。
なんでもいいが…おれの部屋で騒ぐな。
☆☆☆が起きるだろう。
今起きてみろ、無防備な☆☆☆のことだ、下着姿でベッドからその身を起こすだろうが。
視界に入れやがったら、絶対に今のサッチ以上の鉄拳じゃ済まさねェからな。
絶対にだ。
だから早く帰れ。


「エース、プレゼントってのは自分の好み以前の問題で、盗んだモンはそれに値しねェよい」
「だって置いてあったから!」
「ありゃ切ろうとして、下準備して置いてあったんだよ、バカヤロウ!」
「イテッ!」
「これは朝飯だ。マルコ、楽しみに待っとけ!」


サッチはエースをもう一度殴ってから、首にかけているネックレスを掴んで引き摺って行った。
苦しそうにもがくエースが見えたが、これ以上騒がれても困る為、部屋の扉は閉じておいた。
そのまま、鍵をかけようと指を移動させる。
だが、そこで手を止めた。
本来なら、かけたいところではあるんだがな。
今日のところは、さすがになァ。
仕方ねェ。
そのままにしたところで、再び☆☆☆の眠るベッドへと戻ると、シーツの中の☆☆☆の身体を後ろから抱きしめ、目を閉じた。

あまい深い眠りには付けず、うとうととしていた矢先、腕の中の☆☆☆が目を覚ましたらしい。
もぞもぞと動く小さな揺れが心地よい。
こちらへと体を向けているのだろう、腕の中で☆☆☆の身体が反転していくのがわかった。
間近でおれの寝顔を眺めている様子。
☆☆☆が小さく笑ったのが吐息で伝わると、堪らず目を開いた。


「わッ…マルコさん、おはようござ…ッ…ん、ッ…」


驚いている☆☆☆が可愛くて、すぐさま唇を塞いだ。
触れては離し、幾度か繰り返してから顔を見下ろすと、もうすでに頬を染めて笑みを浮かべている。
こういう表情が見られるのも、共に同じ部屋で朝を迎える特権だ。
☆☆☆の下着の前を外そうと合わせ目に手をかけた時、待ってましたと言わんばかりに廊下をかけてくる音が聞こえた。
監視電伝虫でも設置されてんじゃねェのかという程、毎度タイミングが悪ィのは何なんだ。
朝だけあって、おれの欲はすでに膨らみを増していて、☆☆☆の太ももへと押し付けていたというのに。
それに気が付いた☆☆☆は更に頬を染め、まんざらでもない良い雰囲気だったというのに。
…ったく、お預けもいいところだ。


「起きるかい」
「は、はいッ…!」


身を起こす直前に、ベッドへ押し付けるようにキスをすると、今度はノックもなしに扉が開いた。
飛び込んできたのは、うちの隊員だ。


「隊長ぉおおお〜〜〜??おおおぁあ…あ、す、すすすす、すみませんっす!」
「ノック、忘れんじゃねェよい」
「は、はいッ…すんません!」
「朝飯だろう?今行く」


隊の中では一番若ェヤツだ。
さすがに焦ったんだろう、頭を何度も掻きながら頭を下げている。
これは…誰にどの部分から常識を教えてやりゃいいんだ…。
随分と頭を悩ませる案件だ。

☆☆☆の手を引いてベッドから起き上がろうと、途中で止めた。
…ああ、さすがに着替えの時は鍵をかけるか。
そう思い直したのは、☆☆☆の姿が煽情的で、おれを誘うから。
それに下着のまま、わずかに透けるその体、他の奴に見せてたまるかよい。
未だ戸口で佇んでいる隊員へ目を遣り、後で行く旨を伝えると、察した様子で慌てて扉を閉めて廊下へと出て行った。
それを見届け、今度こそベッドから共に起き上がった。


「今日、ずっと一緒に居てもいいですか?」
「構わねェが…?」
「お休みを頂いたんです」
「ああ、そりゃ、嬉しい限りだよい」


互いに着替えを済ませてからの、☆☆☆の提案。
頬を染めておれに訴える姿は、やけに色を付けている様子で今すぐにでもベッドへ押し戻してやりたくなる。
今日一日、夜までこれに耐えんのかい…。
あまり触れ合うと、ますます思いは募るばかりではあるものの、☆☆☆に触りたいと思う衝動には勝てず。
彼女の腰へ両手を回して抱きしめると、背伸びをした☆☆☆が両手をおれの首筋へ伸ばしてくる。
それを助けるように腰を屈めて、その後持ち上げるように抱きしめた。
どんなにおれが喜びを感じているかが伝わるよう、しっかりと抱きしめると、☆☆☆からも腕の力が強まっていく。
ああ、この小さな身体を抱きしめることが、おれの最上の幸せだよい。


抱き合うことを解くのには抵抗はあったものの、さすがに呼ばれてりゃ行かねェわけにはいかず。
名残惜しさに、床へ下ろす直前にキスをしてから、部屋を出た。
食堂へと向かうと厨房に一番近い箇所に、宴でも開催されんのかという程の食事が準備されていた。
サッチ曰く、これは四番隊から、一番隊への祝いなんだと。
中央にあるおれの席らしき場所には、カットフルーツの大皿にパイナップルが綺麗に並べられているようだ。


「おまえらにはいつも世話んなってっからな、何かと。ほら、ここ座れよ」
「ああ、遠慮なく頂くよい」
「…おおっとォ!☆☆☆ちゃんも座れって」


黙ってその場を離れようとしていたんだろう、☆☆☆の手をサッチが掴んだ。
サッチがその手をおれへと近づけるから、迷わずしっかり握りしめてやった。
離すかよい。


「あ、あの、でも私…隊が」
「そんなの関係あるかい」
「そーだよ、☆☆☆ちゃんが隣に座んないでどォすんのって話だぜ?」
「今日はおれの我儘に付き合ってくれると嬉しいよい」


渋る☆☆☆の手を取り、軽く引いてやるとようやく頷いた。
周りでは口笛を吹いて冷やかす輩もいたが、最近は慣れたものだ。

それからその場にいる全員、どこの隊なのかは関係なしに、乾杯をした。
輪の中心で祝われることには些かくすぐったさを感じるものの、途中からはオヤジも加わり酒のない宴となった。
オヤジもいつも通り豪快に笑っているし体調は良さそうだ。
それに隣で常に☆☆☆が笑っている。

誕生日ってのも、悪かねェな。





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