bed-sharing6

Side:☆☆☆



真っ白いワンピース。
それに合わせた、マルコの靴と似たレースアップサンダル。
マルコが選んだ服は、思ったのと全然違って、割と清楚系のものだった。
割と気温のあるこの島で過ごしやすい、オフショルダーに、ハイウエストでスカートはひざ丈のものだった。
たっぷり布を使っているようで、ふわふわと揺れるスカートに膝がくすぐったい。
それ以上に、目を細めて私を見るマルコの表情はもっと、くすぐったい。


「もっと恥ずかしいくらいの選ぶのかと思ってた…」
「なんだ。覚悟があったんなら、あっちのも好みだよい」


マルコが指す先にある服に目を向けると、うちのナースさん達が着ているようなピッタリとしたものだった。
それに丈がとんでもなく短い。
いやいやいやいや、ムリムリムリムリ。
それは思わず声に出ていたみたいで、マルコがぷっと小さく噴き出して笑った。
ひとしきり笑った後に、マルコが掌を上に向けて私に差し出してきた。
その掌とマルコを何度か見比べ、私は次第に首が斜めになっていくし、マルコがは口角が上がっていくし。


「え?……と…、あ!お金!」
「…なワケあるかい」


はぁぁ〜と大きくため息をつたマルコは、私の片方の手を取って、繋ぐ形に切り替えた。
普通こうだろ、と再度溜息を落としながら、店員さんに軽く挨拶をしてから、その手を引いて店を出てしまった。
荷物の心配を言い出す私を予測していたのだろう、それについては、後でモビーに送っておいて貰うという約束を取り付けてくれた、と説明を先にされた。
ちなみにお会計は、私が更衣室にいる間に済ませてしまっていたらしい。
この後は何もないから約束通りに、その…デートってやつをするんだと思う。
だとしたら、一式入ったバッグやさっきまで着ていた衣服を持ち歩くのは、些か色気に欠けるとは思う。
でもあのバッグには、お財布も入っていた。
もちろん、その所在を心配しているわけではない。
さっきのお店の人たちは、マルコのことも、私が白ひげ海賊団のクルーだということも、きちんと理解しての態度だった。
だとしたら、届ける途中で物がなくなるなんてことは、絶対にないと思う。
それよりも、財布も電伝虫も何もなしで、街を歩くことなんて初めてだ。
むしろ島を歩き回るのは、海図を書く為の資料集めの時くらい。
だからこんな綺麗な服装をして、街を歩くなんてここ最近では本当に記憶にない。
ひらひらとするスカートなんて、子どもの頃の思い出にもほとんど登場してきてはいない。

私の手を引いて前を行くマルコは、いつもより少しだけゆっくりとしたペースで歩いてくれているみたい。
本当にデートのつもりの様子で、屋台やお店を見つけて指しては、食べたいかとか飲みたいかっていうのを訊いてくれている。
そのたびに、繋いだ指先がきゅっと握りしめられるから、私は質問どころではないんだけど。
昨日から随分とマルコと触れ合い、手を繋いで歩き、一緒に寝たりもしたのに、未だにこの状況に慣れなくてドキドキしてしまうから困る。


「マルコ、服とか、靴とか、色々ありがとう」
「おれの方こそ、おれの我儘に付き合ってくれて、ありがとよい」


私の言葉にきちんと振り向いて、正面を向いてくれるマルコ。
お礼の言葉に、お礼で返されると、それに真正面で向き合うことにも、非常に照れてしまう。
どうしていいかわからず、マルコが笑うから私も自然と笑顔になっていくと、繋いでいない方の私の手、左手をマルコが取る。
そして薬指付近を親指で撫でた後に、そっとそこへ唇が触れた。
マルコがそのあと、何事もなかったかのようにしてまた先に足を進めていったけど。
私はもう、心臓が口からこぼれてしまうんじゃないかとか、鳴り響きすぎて耳がうるさいとか、いろいろなことが巡って落ち着かなかった。
なんで薬指?
普通に歩いてるけど…マルコは平気なのかな。
これが、気持ちの温度差なんだろうか。

何件目か、綺麗なアクセサリーを売るお店をマルコが指した時に、その動きが一度止まった。
指した手を気まずそうに下ろしたマルコは、私を呼び止めた手前、そこから一歩踏み出して歩き去るのを戸惑っているみたいだった。
なんだろう?
アクセサリーはいらないよと同じ返答をしようとした私も、お店の方をきちんと見ると…。
ああ…。
納得した。
マルコはお店を指したつもりが、そのお店の前にいたカップルを指してしまう形となってしまっていた。
そしてそのカップル、あろうことかそこで堂々とキスをしている。
まぁ…指しちゃったら失礼だものね。


「いこ、マルコ」
「ああ、別の店にするかよい」


先を促すと、はっと我に返ったマルコも同意を示して、ともに足を進める。
その後は暫く、お互い無言だった。
別に他人のキスを見たくらいで、動揺なんかしないんだけど。
でもね、この街は少し、他のところとは違うみたい。
さっき私が読んだ本が街全体のモチーフになっているんだろう。
気にしてみてみると、街の至る所にお姫様が王子様にキスをしている絵や、それを模したオブジェ等を見つけることが出来た。
それによく見ると、歩いている人々はカップルがほとんどだ。
これはちょっと、気まずい、かも。
こうして手を繋いでいると、私達もそう見えているんだろうかと思えば思う程。
モチーフも柔らかな色合いで、綺麗なんだけどね。


「晩飯、今夜は昨日よりはいい店に入るよい」


気を取り直してか、マルコが声色を変えて言葉を発した。
そう、昨日は、一緒に晩御飯をってなったんだけど、どうしても、マルコが行きたがったお店に、私は入れなかったんだ。
なぜなら、格好が汚かったから。
マルコは気にしないって言ってくれてたけど、私がやっぱりだめだった。
恥ずかしくて。
でも今日なら。


「うん。…楽しみ、に…ッ」


持ち直した会話も、そこでまた途切れてしまった。
ちょうど私たちの目の前にいたカップルが立ち止まってキスをしているところを、運悪く目の当たりにしてしまったから。
もう…っ!
こんな道路のど真ん中でしないでよ。
余計に意識してしまうから。

その後、ぎこちない雰囲気のまま、それでもなんとか晩御飯のお店に入ったのはいいんだけど。
お店の中も、あまり変わらない雰囲気だった。
というよりも、道での方がおとなしいくらいだった。
お酒も入ったお客さん達は、気持ちも盛り上がっているのか、何かにつけてキスをしてる人ばっかりで。
どういう風潮!?
もはや挨拶代わりにしているようにしか見えない人までいる。
気まずさなんて、もう120%増しよ。
マルコだってさっきから落ち着きなく座りなおしたり、時折頭をかいたりしている。
どうしたものか。
そのうち頭をかくんを止めたマルコが、真剣な表情になり、私に体を向けなおした。
そのまま、テーブルの上にある私の手を取り、もう一方の手でぐいっと肩を引き寄せられた。
心臓が、大きく跳ねた。


「☆☆☆…あー…こんだけ周りがしてんだ、おれ達もするかい?」
「え……ちょっ…と、待って……ダメだよ。キスは、好きな人とする、でしょ?」


びっくりした。
台詞にもだけど、マルコがあまりにも真剣な表情をしているから。
だからこそ余計に、こんな軽い雰囲気の中で、キスするなんて出来ない。
こんな風にノリで出来るくらいなら、この間の夜にできたはずだ。
だけどしなかったのはマルコの方で。
雰囲気にや状況、それにきっと男性の理性や性欲を抑えられるだけ、私のことは特に何も思ってはいないんだろう。
それならますます、こんなノリでなんかできない。


「そりゃ…そうだな、大事にしねェとな」
「うん、大事にしてね」
「少し、飲み過ぎたか」
「雰囲気はともかく、食事もお酒も美味しいね、このお店」


はぁ、と深いため息を落として、グラスのお酒を一気に飲み干すマルコ。
身体の位置はそのままだったけど、手だけ元に戻してる。
近くて、ドキドキして。
せっかく理性で断ったのに、心臓の音でバレてしまうかとひやひやした。
でもまた、そのマルコの姿が私には、大きく反省しているように見えた。
うん、良かったと思う。
私はしたかったけど、これきっと、この先思い出しては後悔するのかもしれないけど。
それでもお互いを守れた気がしているから、よしとしておこうと思うんだ。


その後も、割といいペースでお酒を煽り続けたマルコは、お店を出る頃には足元がふらつくようにはなっていた。
私もマルコに倣って飲んでいたから、けっこう酔いが回ってしまってはいるけど、マルコ程じゃないなという感じだ。
モビーに戻る為、足を進めていたけれど、さすがに一人で歩けそうもないマルコに、肩を貸した。
力強く体を引き寄せられているから、肩を貸しているのか抱かれているのか、ちょっとはっきりしない状況だけど。
気持ちいい。
触れられているところが。
それに強く肩に食い込むマルコの指先が、私の心臓も鷲掴みしているかのようで、きゅんと高鳴る。

酔いは回っていると思う。
でも頭の中は極めて冷静になっていった。
自分でもよくわからない程に。
だから二人の足がモビーに近づくにつれて、離れるのが寂しいと強く思うようになっていく。
もうすでにここからは、遠くにモビーの姿が見えている。
キスはしなくても、また一緒に寝てくれるだろうか。
この間みたいに。
朝まで抱きしめて眠ってくれるだろうか。
今日は朝から図書館に付き合ってくれて、膝枕をして、服まで買ってくれて。
だから今日の最後にもう一度だけ甘えても許されるだろうか。
私自身は決して酔った勢いではない。
だけど酔ったふり、勢いに任せてお願いしても許されるかな。
キスはしなくてもいいから、他に、もしもマルコの心の中に他の誰かがいるのなら、申し訳ないけども。


「マルコ、私…今日はひとりで寝たくないよ」
「……☆☆☆?」
「今は何も交換するものは持ってないけど、…また、添い寝をお願いしてもいい?」


勇気を出して伝えた言葉、それははっきりとマルコにも聞こえただろう。
その証拠に、マルコの足がピタリと止まった。
がっちりと肩を抱かれていた私も、必然的に足止めされてしまう。
な、なに…?
どうして何も言わないの?
マルコの顔が、怖くて見れないよ。
あまりに沈黙が続くから、苦しくてまた言葉を続けてしまった。


「支払いは、明日でも…いい、か……な…?」


言葉に乗せて、もう一度だけ勇気を振り絞って隣のマルコの顔を見上げた。
その瞬間、目に入ってきたのは、なんとも形容しがたい表情をしたマルコの顏。
複雑そうなその表情は、眉尻が下がっていて、半分笑っているようにも見えて、その真意が全く分からなかった。
それを見てしまったら、私はそれ以上何も言葉が出なくなって、しばらく無言のまま見つめ合った。
そのうち、マルコが小さく、ほんとうに小さく吐息を漏らすようにして笑った。


「こんなに酔っぱらっちまってたら、手を出さねェ自身がねェよい」


いいのにって言いかけた言葉は、必死に飲み込んだ。
そんなことを言えるような雰囲気じゃなかったから。
笑っているはずのマルコの表情が苦しそうにも見えたから。


「キスが好きな奴とってんなら、ソレも同じだろ?」
「そ、…そうだね」
「そうだよい」
「そっか…、そうだね」
「ああ、大事にしねェとな」


さっきのお店での会話の再来で、その口調をわざと同じくしている様子で、それが面白くて二人で噴き出して笑った。
笑いながら歩く道のりは、さっきよりもずっと軽くて。
あっさりとモビーへと到着してしまった。
甲板に上がり、昨日別れた互いの部屋へ向かう、分かれ道。
そこでおやすみをしようと思ったんだけど、思いのほか、マルコの酔いが回っていてとても一人で返せる状況じゃなかった。
だから、肩を貸したまま、私がマルコの部屋まで送ることになった。


「こりゃあ、逆だなァ」
「今日はずっと、付き合ってもらったからお礼だよ」
「…楽しかったよい」
「うん」


いろいろなことがあったけど、楽しかった。
これに尽きると思う。
どんな事情があったり、何が起こったとしても、好きな人と二人で出かけることは嬉しくて、ドキドキして、楽しかった。
マルコにも、そんな風に言って貰えたから、今日は大満足だよ。

マルコの自室に辿り着いて、鍵を普段かけないという扉を開くと、室内は机の上のランプが灯っていて明るかった。
机の上を見ると、書類がいくつか載っているから、部屋に戻るだろうマルコの為にクルーが気を利かせて灯したんだろう。
揺れるランプの灯りの中、マルコをベッドまで運んでいく。
そこへ体を下ろしてあげると、ふわりとマルコの香りが立ち込めるようだった。
くっついていた時も、マルコを強く感じていたけれど、ベッドからのそれは更に強くてめまいが起こりそう。


「眩しいよい……悪い、ランプを消してくれねェかい」


眩しそうに目を細め、片腕を顔の上にあげてしんどそうにしているから、その場を離れて机に向かった。
マルコの香りに包まれて、私の心臓はドキドキしっぱなしだったから、冷ますにはちょうどいい。


「じゃあ、消すよ?」

「あれ…もう、寝ちゃった?」


声をかけてから消そうと思ったのに、意外に早くマルコが寝入ってしまった様子だった。
直前まで会話をしていたというのに。
よっぽど飲んで酔ってたんだろう。
こんなマルコは初めて見た。
そのまま消して部屋を出るべきなんだろう。
そう思ってはいるんだけど。
恋心というのは恐ろしい。
寝顔、見たいな、なんて思ってしまうんだから。
この間一緒に寝たというのに、寝顔は見ることが出来なかったから。
音を立てないようにそっと近づいていくと、マルコの寝息が聞こえてくる。
規則正しいその呼吸音と共に、胸が僅かに上下を繰り返している。
そして、さっきまで顔を覆っていた腕は胸元に下ろし、寝顔がはっきりと私にも見ることが出来た。

…可愛い。

いつもは強気な眉毛も目力も、おやすみしているかのように穏やかな寝顔。
無防備なこの姿、なんて可愛らしいの…!
おとなしく眠るその姿をじっと見つめていると、上下している胸元にある左手に目がいった。
今日、マルコの唇が私に触れた場所。
それと同じ個所、左手の薬指に目が行く。
何度か、唇と交互に見つめると、ドキドキと更に胸が高鳴っていくのを感じた。
眠っている時になんて、ダメ。
そんなことはわかっている。
だけど、どうしても抑えきれない衝動に、ついに駆られてしまうことになった。

せめてそれ以外が触れて気づかれないようにと、垂れる後ろ髪を片手で抑えてそっと身をかがめていく。
そこだけに触れられるように、上下するその動きに合わせて、軽く、本当にごく軽く薬指の根本に唇を触れさせた。
私のよりも骨ばっているマルコの指。
ダイレクトに唇に伝わると、悪いことをしている気持ちになり、後ろめたさから離れようと顔を上げた。
…つもりだったんだけど、ガッという勢いで髪の毛を抑えていた手首をがっちり掴まれた。


「ひゃあッ!」
「☆☆☆、今、何した?」
「お、起きて…たの!?」





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