bed-sharing4

Side:Marco



二日かけて島の外周を一周した後、モビーに帰還する前に☆☆☆を乗せて空へと飛び立った。
その時の☆☆☆のはしゃぎ方がただひたすらに可愛くて、響く声がこの身に今も刻まれている程だ。
この二日間で随分といろいろなことを話した。
それに随分と触れた。
直にでも、服越しにでも。
触れたというよりも、自然と触りてェと思っちまった。
顔に砂なんかついてねェ。
理由を付けねェと、おれが触っていいものなのかと躊躇したからだ。
そんなにまでして求めている自分とは対照的に、無防備に笑う☆☆☆。
隣で無邪気に笑う☆☆☆の顔を見ていると、胸が痛むというかイラつくというか。
それでも無骨に扱うことだけはしたくなく、最後まで紳士的には振舞えた、とは思うんだが。
モビーの甲板に降り立ち、明日は図書館へ赴くとのことで、それも付き合う約束をし☆☆☆を部屋に帰した。
帰す直前にも、部屋に連れ帰りたいという衝動を抑えきれず、体が勝手に動いて手を出しちまったが、☆☆☆は平然としたものだった。
おればかり、惑わされている。

自室へと向かう途中の廊下を歩いていても、胸がチリチリと熱く焼けるような感覚は消えねェ。
むしろ☆☆☆と離れたことでますます募るばかりだ。
原因はわかっている。
そりゃそうだ。
自分でも呆れる程、強引にことを進めた。
触れ合うと気持ちがいいという☆☆☆の言葉を利用して。
でもあれだけ意思表示をしたんだ、普通気が付かねェか?
なのに☆☆☆はいつも通り、時折見せる同様はあるものの、至極いつも通り。
そんなハズはねェと思ったんだが…。
男女のことだ、絶対はねェっつーことかい。
逆におれの方が煽られて撃沈させられた。

自室の扉を開くと、普段洗濯物を放り込んでいる籠へ向けて手にしていたリュックを投げた。
二日間、☆☆☆に背負われていたそれ。
中を出して片付けたいのは山々だが、そうする気分ではなかった。
自然と漏れる大きな溜息もそのままに、ベッドへと身を沈めていった。

そう、撃沈したのはまさに自分の方。
仰向けになり、天井へ向けて突き出した自らの左手。
昨夜この手で、☆☆☆を抱いていた。
この掌で☆☆☆の肌に触れ、頭を撫で…。
そしてその後、眠る☆☆☆をベッドに残しシャワー室で自らを慰めた。
なんとも情けねェ。
いやあれは仕方がねェ。
今こんな風に自分を窘めることしか出来ない、不甲斐ない自分。

ちょっとはねェのかよ、心揺さぶられてドキドキしちまうってェことが。
なんだってあんなに普通の態度が取れんだ。
それになんだ。
寝るときにあんなに無防備な格好するんじゃねェよい。
下着、付けてたか?
付けてたよな!?
あんなに柔らけェのは反則だろうよい…。
顔に押し付けられた時が一番まずかった。
耐えるために咄嗟にオヤジの顔を思い浮かべたくらいだ。
それに何度、深呼吸をすることでやり過ごしたと思ってんだい。
わかってんのかい、あいつは。
☆☆☆の煽りに更に体が熱を持ったってのは言うまでもない。
モビーに戻ってきてから、しかも自室で一人、心の中で悪態をついたところで仕方ねェってのはきちんと理解しているつもりだが。
それでも…。
☆☆☆の普通の態度が気に入らねェ。
上げていた左手を握りしめ、そのままベッドへと落とした。

その時ノック音と同時に扉が開いた。
廊下から差し込む光が眩しく、部屋の暗さを物語っていた。


「パンパカパーン!……あれ…誰も、いねェ?」


廊下からの侵入者はサッチで、返事もねェのに勝手に入ってくるのはいつも通りだ。
ベッドに横たわるおれに気づいていない様子で、そのまま室内へと入ってくるのが見えている。
それもそうか。
寝るでもねェ、まだ早い時間にベッドで休んでいることなんて、まず今までにないんだ。
部屋にいないとわかればそのまま去るのかと思いきや部屋の真ん中まで堂々と入ってくるサッチ。
中央にある机に酒の瓶をドンと乗せた後に、横に置いてあったランプに火を灯している。
部屋の真ん中がボウッと明るくなると、おれの存在に気が付いた様子のサッチが、座りかけていた椅子から転がり落ちた。


「まァいいや、先に飲んでよー………お、わぁあッ!」
「ノックしながら入ってくるのはおかしいと思わねェのか?」
「びっ…くりした…おまえいたの!?何してんの!?」
「…寝てんだよい、悪ィか」
「いや、悪かねェけど……いるなら言えよ」


椅子とともに床に転がったサッチが、再び立ち上がるのに合わせておれもベッドから身を起こす。
目線の高さが上がったことでテーブルの上も見えるようになり、その上に乗っている酒の瓶とグラス、数種類の肴が確認できた。
食うためのスティックが三本ある。
おそらくこいつのことだ、☆☆☆も居ると予測してのことだろう。
むしろ…☆☆☆が居ると仮定して、ノックと共に入室するってェのは何を考えてんだかわからねェが。


「二日間歩いて疲れたの?…おまえが?」
「そんなんじゃねェよい」


よく見るとグラスも3つある。
そのうちの二つをひっくり返し、酒を乱暴に注ぐと片方のグラスから机に酒が零れた。
机に近寄るおれに、もう一方のグラスを差し出しながら、サッチは机に乗せたままのグラスに口を寄せて今にも再びこぼれそうになっている酒を啜りながら飲み込んでいた。
書類があったなら、今すぐにでも追い出してるところだ。
受け取ったグラスで乾杯の意味でサッチのそれにコツンと当ててやると、表面が揺れてサッチの顔にかかっているのが見えた。
何やら文句を言っている様子ではあったが、ザマーミロと思うのは、おれが今現在、進行形でイラついているからなのだろう。


「てっきり、燃え上がって二人で居んのかと思ったぜ」
「それ目的で付いてったわけじゃねェ」
「でも、いーことはあったろ?」
「まァ…どっちかっつーと、マイナスだとは思うよい」


昨夜のことを思い浮かべると、無意識のうちにため息が出てしまう。
しまった…。
本当に無意識だった。
それはほんの小さなため息であったため、聞こえてねェかと思いきや、ニヤリと口元が歪むサッチを見るとしっかり聞こえちまっているようだ。
今度はおれのグラスに、サッチのグラスを当てられる。
わかったよ、話してやるよ。
聞きてェんだろ?
絶対言いたくねェこともあるが、それ以外は言ってやる。
だから…


「肉持ってこい」
「はァ?…なんだって今から精力付けようとしてんの、おまえ?」



**********



Side:Thach



ありゃ、相当溜まってんなァ。
干し肉を切って、サッチ特製わさびオイルをかければ出来上がり!
って、あまりものだけどな。
この島では物資も豊富で次の航海の分の食料はバッチリ確保できそうだし。
こういう保存食の入れ替えも大事大事。
何より、我らが一番隊隊長殿が面白いことに…じゃなくて、悩んでらっしゃるみてェだから、ここはひとつ美味いもんでも食わせて喋らせよう。
さっきのツマミに、これがあれば十分だろ。
何が聞けるのか、楽しみだぜ。

肉を皿に乗せて鼻歌を歌いながらマルコの部屋へと向かう。
最初に入った時と同じようにノックと同時に扉を開くと、室内ではさっきとは打って変わって噎せ返るような酒の匂いが充満していた。


「うっわ、…なんだこりゃ!?」
「サッチ、遅ェぞ。何時間かかってんだい」
「ほんの十分程度だっつの。…はァ?何おまえ、一人でひと瓶開けたの?早くね?」


部屋を開けたのは本当にほんの10分くらい。
その間に、マルコはおれの持参した酒を一本飲み切っていたらしい。
ちょっと、マルコさん?
それけっこう度数の強い酒っすけど、大丈夫…?
って、絶対大丈夫じゃねェよな。
そして顔も真っ赤だし、何より、完全に酔っている。
本来ならマルコは酒が強ェ。
へべれけになったクルーを介抱することはあっても、されることなんて絶対にない男だ。
それがこの様。
やっべぇ…。
すっげぇ面白れェ。


「おまえ、酒飲む前に何か食ったのか?」
「☆☆☆と食事してから戻ったから、大丈夫だ」
「なんだ、調査とか言いながらけっこうデートみたいなことしてんじゃねェの」


違う、とか言いながらも更に酒を煽るマルコ。
聞けば明日も約束があるという。
マジでこいつら、いつくっつくんかねェ。
マルコと☆☆☆は、誰がどう見たってお互いに好き同士。
それはこの船のクルーなら誰もが知っている事実だ。
知らねェのは本人たちくらいなものだ。
マルコだって気が付きながらも、確証が持てねェだけってくらい。
なのにこれまで、もどかしいっつーか、そこで行けよ!ってところで遠慮しちまったりとかで、一向に素直になれない二人。
昨日マルコが付いていくっていうし、一泊だっつーから、これはくっついて帰ってくるんだろうなァなんて、微笑ましく見送ったのに。
なんでこいつ、今夜ここで悪態ついてんの?
断片的に言うから、あんまり情景が想像できなくて苦労してっけど、なんだかいろいろ大変だったのはよくわかる。


「その割に、おれの提案には嬉しそうに頷くんだよい」
「ああ、あれだろ?☆☆☆の、うんってにっこり笑うやつ。あれは、…可愛いよなァ」
「…可愛い」


いやいや、おっさんが頬赤らめても!
いや違うか。
酒に酔ってるだけか。
☆☆☆の表情を思い出しているのか、グラスをじっと見つめたまま、もう一度可愛いと呟いている。
かと思いきや、グラスを一気に傾けて中身を飲み干しちまった。
だから、ペースが速ェって!
さりげなく酒瓶を遠ざけてやろうとしても、さすが瞬発力はおれは叶わず、瓶をすぐに手中に収めるマルコ。
普段は頼りになるけど、こういう時だとマルコの能力の高さはめんどくせェな。

確かに、☆☆☆のあれは可愛いと思う。
くらっときちまうクルーも少なからずいるはずだ。
うん、って語尾にハート付いているみたいに頷くんだけど、マジですげぇ可愛い。
本人にその自覚はないかもしれねェな。
くらっときちまったうちの一人が、マルコなわけなんだけどね。


「だからキスしようとしたら、嫌がりもしねェが、動揺も反応もしねェ」
「お、おう…」


なんか色々、突っ込みどころが満載なんですけどォ!?
しかもなんか、未遂に終わったみてぇな言い方してるし。
嫌がらないってのは、おれ達からしたら当然にも思えるけどね。


「寝る時も無防備な格好しやがって…」
「は?…一緒に寝たの?」
「襲ってやろうと思っても、平然としてやがる」
「待って待って、情報の更新が追い付かねェんだけど!?」
「あんなふわふわで気持ちがいいの抱きしめて…我慢できると思うかってェの」


はぁああ〜〜〜と深ぁ〜〜い溜息を落として、項垂れるマルコ。
いやもうなんか、ちょっとの間に矢継ぎ早に情報入れられて、混乱中よ、おれ?
目の前にいる男は、普段おれ達のよく知る一番隊隊長じゃなくて、ただの一人の男だった。
こんな姿は見たことねェ。
マルコが、あのマルコが。
女一人に翻弄されている。
普段クルーを叱り飛ばしている威厳を、どこかに置き忘れてきちまっている。
こいつ、こんな風に恋に振り回されるタイプだったんだなァ。
改めて、意外な一面を見ることが出来た。
まァ多分、酒で本心が出ちまってるだけで、覚めた明日にはもういつも通りになってんだろうけどね。

それにしても、おかしいな。
この船じゃ誰もが知ってる、☆☆☆がマルコに惚れてるってこと。
おれが見る限り、マルコが何かする度に☆☆☆の目線はずっと一点集中だし。
むしろ、マルコと会話する時なんて、笑顔200%増しって感じなのに。
まぁ逆もだけどね。
☆☆☆が近寄って会話しているマルコだって、少し距離があれば自分の方に引き寄せて会話してるし。
この間なんて、マルコが☆☆☆の顔にかかる髪の毛を上げただけでも、頬染めちゃって可愛いったら。
なのに、振られたわけではなさそうなマルコの言い分。
振られるなんて100%あり得ねェ。
ぐいぐいいっちゃったけど、☆☆☆の反応が薄くて一人で勝手にから回ったってことか?
全然わかんねェ。

当のマルコはというと、酒の二本目もおれと一緒にほぼ空けてしまって、もうフラフラになっている。
下着くらい付けろ、と意味不明なことを独り言のように呟いている。
もしも、ノーブラーな☆☆☆を抱きしめて眠ったんだとすれば、男として同情はする。
一睡もできなかった可能性だってある。
むしろキスすらしてねェなら、生殺しもいいところだ。
おれなら有無を言わさず襲ってるわ、割とマジで。
何があったのかよくわかんねェし、イチから説明して欲しいところだったけど、マルコの奴がもう限界。
机に突っ伏して、もうほとんど寝てる。
むにゃむにゃと、まだ悪態をついている様子だったけど、明日も早いらしいから、とりあえずベッドへ放り投げてやった。
ぶぇ、と変な声を出してベッドの奥の壁にぶち当たってたけど、頑丈だから大丈夫だろう。

それにしても、キスしようとして抵抗しないなら、そのままいっちゃえっておれは思うけどね。
一体どんな反応してほしかったんだよ?
☆☆☆はおまえのことが好きなんだぞ?
抵抗するわけ……って、あれ?
何か大事なこと忘れている気がするけど。
マルコのやつ、ちゃんと好きって言ったのか?
そういうことは一度も言ってなかったよな?
つぅかむしろ、こいつ告白とかしたことあんの?
されてるのは見かけたことあるけど。
自分からって…?
まさか、まさかだよな。
眠っちまったマルコを見たって返事ができるわけでもねェだろうから、今は問い詰めないでやるけど。


野次馬根性満載だけど、今度☆☆☆にも聞いてみよう。
マルコの部屋の灯りを消し、瓶やら皿やらを回収して、厨房へと戻った。



**********



Side:☆☆☆



びっ…くりした。


自室まで早足で戻ってきた。
出来るだけ平常心で、何事もなかったかのように、普段通りに戻って来れたとは思う。
早足にしたから心臓がバクバクいっているのか、それともマルコにドキドキしているのかわからない程、胸の鼓動が早い。
原因はそのどちらにもありそうだけど。
後ろ手で扉を閉める。
閉めたそれに寄り掛かったまま、足の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
床に座り込む形となったけど、ひんやりとした床の冷たさが、火照った体には気持ちが良い。

それよりも!
それよりも!!
さっきの別れ際のあれは、何!?

甲板で、二日間も付き合ってくれたマルコにお礼を言って、改めて明日の約束もした。
明日は図書館に行く。
調べものがあると言ったら、マルコが海図が出来上がるまで付き合うと言ってくれたからだ。
ついでに、私が絶対持っていないだろうとのことで、白いワンピースも買いに行こう、と。
明日はまた朝から出発だから、お互い早々に部屋に戻って寝ようってことになったんだけど。


「明日、楽しみにしてるよい」
「期待して貰える程、似合うとは思えないんだけどね」


持って貰っていたリュックとマルコのそれを交換して、おやすみを言う直前の会話。
自分でも似合うとは思えないそれに、すでに今の時点で戸惑いを隠せない。
首を傾げて困った表情が自然に出てしまった。
そうしたら傾けた方の頬にマルコの掌が伸びてきて、顔の位置を元に戻される感覚がある。
顎の下には親指を添えられて目線の高さを合わせられると、私を見下ろすマルコとしっかり目が合ってしまった。
細められたそれは、なんとも言えない、普段あまり見たことのないような、厳しい目線だった。
目を合わせたまま、何も言わないマルコ。
私もかける言葉が見つからなくて、同じように黙ってしまっていた。
暫くそうしていると、顎から離れた親指が、私の下唇を端から端まで撫でていく。
引かれた感覚にうっすらとそれが開いてしまうと、唇の上下の中心部分に、親指の腹でそっと押し付けられた。
意外とぷくっとしているマルコの指が触れて、動揺してしまい、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
これは、何!?
変わらず動けずにいると、ふっとマルコが小さく笑って、ゆっくり親指が離れていった。
そして、おやすみ、と小さく呟いてから私に背を向けて、自室へ向かう廊下を進んでいく。
暫く、マルコの背を見送った私だったけど、我に返ると、途端にがくがくと膝が揺れた。
ここで力が抜けるわけにはいかない。
だからこそ、早足で自室に戻ってきたわけなんだけど。

マルコが私に触れる時は毎回必ず理由がある時だ。
何かが起きて頭を撫でる時、昨日はほっぺたに砂が付いていたから拭ってくれたり。
会話をしていて周りのクルーがうるさくて声が聞こえない時に、腰を引き寄せられたり。
毎回必ず理由があって。
むしろ、理由もなく触れたりなんてしない。
だからこそ、さっきのは何だったのか。
あんな風に触られたことなんて、一度もないから。
本気で焦ったんだけど。
マルコはいつも通りだったな。
全然平気そうで、むしろ、無表情だった。

それでも。
明日には約束がある。
図書館へ行くだけなんだけど。
服屋にも行く予定をしている。
さすがに、今夜みたいにぼろぼろの格好で一緒に食事をするわけにはいかない。
だけど、服屋に行く服がない!

持って帰ってきた荷物を解くより先に、慌てて部屋を飛び出した私は、ナースさんのいる部屋へ駆け込んだ。


「お願い、服貸して!」





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