One sided relationship 5

Side:☆☆☆



今日だけは、絶対に休んじゃいけないと思ったから、よくは眠れなかったけど朝は必死に身体を起こして起きた。
昨晩の交差点だけは、目を閉じて足綾に通り過ぎることにはした。
通勤途中、電車の中も、歩いている時も、会社に着いてからも、しんどくて堪らない。
重苦しいからだをなんとか奮い立たせて、仕事をしているという状態だった。
だけど、そういうプライベートなことは誰にも気付かれないようにと、必死に耐えた。
失恋くらいで仕事が出来なくなるなんて、情けないもんね。
そういうのは、きっとマルコ部長は嫌うと思うから。
せめて迷惑だけはかけたくない。
就業中、一度だけ盗み見たマルコ部長も、ちゃんとデスクに着いていて真剣な表情で仕事をしていたから。
やっぱり格好いい、なんて未練たらしく思ってしまったから、慌てて目線を外したけども。

もう少しで終業を迎えるといった時刻、何やら少しマルコ部長の方で騒がしい音が聞こえてきた気がした。
…きっと、女子社員にお酒の席に誘われているんだろう。
そんな風に思うと、そちらを見るのもなんだか切なくて、パソコンに一点集中をした。


「珍しいこともあるもんですね」
「おれも初めて見たわ」
「何かあったんですか?」


先輩と課長が首を捻りながら眉を下げてこちらに向かってくるのが見える。
二人とも、ものすごく不思議そうな顔をしているから、さすがに私も声をかけた。


「マルコ部長がさ…って、お前わかる?部長」
「いや課長、前に同じ席で飲んだじゃないっすか、こいつその席にいましたって」
「知ってます、…当たり前じゃないですか、うちの部長ですよ」
「そういや、そーだったかァ?いやね、部長が、熱出たらしいんだよ」
「え…っ…風邪、ですか?」
「多分な。人生でもほぼ初めてらしいぜ」
「鬼の霍乱かなァ」
「…で、部長は…?」
「そりゃ、もう帰ったよ。定時にだけど」
「いやーあの人、帰れって言われても職務を全うするまではとかって、全然言うこときかねェらしいぜ」


すげェなぁなんて、二人の雑談はその後も続いてはいたけれど。
私はもう、すでにその会話の内容は入ってこなかった。
風邪…?
マルコ部長が?
昨日は元気、だったよね?
熱は高いんだろうか。
一人暮らしって言ってたけど、薬はあるんだろうか?
ご飯は?
ちゃんと帰れた?
様々なことが巡ってしまい、とにかく目の前の仕事を終わらせて、私も急いで会社を出た。
最寄りの駅まで向かい、駅前のドラッグストアに駆け込む。
こういう時に必要なものって…。
焦り過ぎて思考が上手くまとまらないから、スマホで調べていくつかピックアップした。
スポーツドリンク500ml、レトルトパウチのおかゆ、一般的な風邪薬、ゼリー飲料。
それからあって困らない物として、冷却シート、汗拭きシート。
ドリンクなんて思わず3本も購入しちゃったから、割と重かったけど、両手に分けて持ってマンションまでの道を急いだ。
途中のコンビニで、バニラのアイスも購入。
そして自然に足を止めてしまったのは、いつもの交差点、いつも、ここで別れた交差点。
…昨夜振られた場所。

ふとここで、現実に意識が向いた感じがした。
思うがままに突き進んで、ここまで一気に買い物を済ませてきてしまったけど。
昨日振られたのに、家まで行っていいの?
これこそ、付きまとわれて迷惑するのでは?
ただただ心配だというだけで、ここまで突き進んできてしまった。
…でも、ご近所さんって言ってたし!
何かあった時の為に、と連絡先まで交換したんだし。
私は部長の部下なわけだし。
部下が上司を心配するのは当然!
それに買ったものだって、無駄になるのは勿体ない。

自分なりに必死に理由を付けて、今まで向かったことのない、いつもマルコ部長が進んで行く方の道へ足を踏み入れた。
交差点から見えるマンションの入り口は、横から見るのと正面から見るのとじゃ少し違っていて。
すごく新鮮で。
ここが、マルコ部長が住んでいるマンション。
一階の集合ポストで部屋の場所を確認すると、5階までエレベーターで移動した。

扉の前に着いて、インターホンを押そうにも、ここでまた躊躇してしまう。
自分を奮い立たせてようやくここまで来たというのに。
だって、インターホンを押そうとする人さし指が震えるから。
カタカタと小さく震えてしまうそれを、支えることも出来ず、何度も戸惑っては下ろしてしまう。
ダメダメ。
差し入れだけでも置いて帰ろうって決めたでしょ。
とにかく、後のことは考えずに、思い切ってインターホンを押した。

ッポーン、とここでも鳴ったという合図の音が響いている。
インターホンからマルコ部長の声がすると思っていた。
名乗った時に、帰れと言われたら、大人しく帰ろう。
そんな決意をしていた時、中からバタバタと割と大き目の足音が、すぐ近くで聞こえる。
あれ、インターホンには出ない…?

困惑していると、ガチャと音を立ててその扉が開いた。
細い隙間からマルコ部長の姿が見えて、隙間が次第に広がっていくと、はっきりとその姿が私の目の前に現れた。


「…☆☆☆?」


突然扉が開いたから、私も困惑したけど、私の姿を見たマルコ部長も当然困惑しているのがわかる。
いつもは細い目が、今はかなり開かれて私を凝視しているから。
そりゃそうだ。
昨日振った部下だ。
プライベートな自宅にまで押しかけて来ちゃってるんだから。


「お疲れ様です。…風邪だって聞いたんで、差し入れを…」


差し入れを渡したら、すぐに帰ろう。
そう思える程、困惑したマルコ部長の態度が、今度は深いため息に変わってしまっているから。
掌を両目に当てて、もう一度深いため息をついている。
ああ…こんな風に、困らせたいわけじゃないんです。
眉間に皺まで寄っているのが見える。


「ご近所さんなんで、何か困った時には…て、思って」


手にした袋をマルコ部長の方へと差し出した。
それをチラリと見て、また溜め息を落としている。
何か、言ってください。
帰れ、でもいいから。
ちゃんと守って、帰りますから。
マルコ部長の玄関で、何とも言えない重い空気が二人の間を通過する。
でも大丈夫。
昨日よりは、ずっとマシ。
もう好きなんて言って困らせないから、受け取って下さい。
願うように、持ち上げた袋をもう一度だけマルコ部長の方へと差し出した。


「お前な…せっかく、おれが……」
「…え……?」


差しだした腕を引かれ、つられて身体が玄関の中に入ってしまうと、三和土に裸足のまま降りてきたマルコ部長に両手で囲われた。
勢いに負けて手から離してしまった袋が、ペットボトルの重さの分、勢いよく床に落ちて大きな音が出ている。
さっきまでマンションの廊下にいたのに、今はマルコ部長の部屋の玄関の中、そして腕の中。
背後ではゆっくりと閉まっていく扉が、外からの光を遮断していき、それが一筋の光になった後に辺りを薄暗がりにしていく。
わけがわからなかった。
頬に当たるのは、マルコ部長が来ている薄いTシャツ一枚。
背中と後頭部には、掌の感触があってしっかりと体に押し付けられている。


「独身の男の部屋に、一人で来るやつがあるかよい」


擦れたような声色で、それでも昨日の言い方よりもずっと優しい。
ああ、これは私の知ってる、愛しい人の喋り方。
昨日振られたというのに、今日また抱きしめられている。
それになんだか、マルコ部長だって言動がめちゃくちゃだ。
それでも触れ合えることが嬉しくて、私もマルコ部長の背中に両手を回してそっと抱きしめ返した。
それを合図に、私に密着するマルコ部長の身体が、次第に私に寄り掛かってくるように感じ始めた。
最初は愛しい重みではあったのに、だんだんと重さが増していく。
ちょ…と、支えきれなくなりそう。
…って!
この人、病人!


「部長、しんどいんですよね?ベッドまで行けますか?」
「ああ、…ひとりで行ける」
「何言ってんですか、ふらふらして!」
「男の一人暮らしの部屋に若ェ女が簡単に入るな」
「一人で立ててから言って下さい」


私に寄り掛かりながら言う台詞じゃない。
突っ込みながらも、ここで倒れられたらベッドまで私一人では運べないと思う。
イゾウさんのお店の番号なら、調べればきっとわかるだろうけど。
今はとにかく、ベッドまで運ぼう。
ふらふらしてる部長の足元を気にしながら、さっき落として散乱している差し入れは、後で拾おうと思った。
それらを踏まないように注意しながら、マルコ部長に肩を貸しながらリビングへと入って行く。
おしゃれなリビングだった。
…っていうことは後にして、その隣の部屋、扉が開いている先の部屋がきっと寝室だと思う。
私がそっちに足を向けると、部長もふらふらになりながら一緒に来てくれているし。

寝室に入ると、さっきまで寝ていただろう布団の乱れ方が、なんだかすごく、可愛いと思った。
不謹慎!
とにかく部長をベッドへと連れていき、とにかくあまり揺らさないようにそっとそこへと下ろした。
ベッドサイドに座るマルコ部長。
私はとりあえず、床に膝をついて部長があまり首を動かさなくていい高さにくるように座った。
さっきは気が付かなかったけど、よく見ると頬が赤い。
熱がまだ高い証拠だ。


「熱、測りました?」
「…38度」
「薬は?」
「飲んでねェ」
「何か食べました?」
「………めんどくせェ」
「何子供みたいなこと言ってるんですか」


何普通に会話できちゃってるんだろう。
それになんだか今日は、やけにマルコ部長が可愛くて。
弱弱しい感じが堪らない。


「おかゆ買ってきたんで、あっためてきますね」
「おかゆは嫌いだよい」
「何わがまま言ってるんですか」
「味がしねェ」
「味ありますって!じゃあ、うちに卵があるので取ってきます」


なんとなく、おかゆに味を付けるなら、卵だという気がして、自分でもいい提案だと思ったのに。
立ち上がろうとした私の腕を引いて、マルコ部長がそれを阻む。
この期に及んで、卵は嫌いだよい、とでも言うんだろうか。
だとしたら、何か別の、うどんとか持ってこようかなァ。


「卵なら冷蔵庫に入ってるから、それを使ってくれ」
「はい、…冷蔵庫開けてもいいんですか?」
「当たり前だろう、だから……ここに居てくれ」


そう言いながら、私の髪を滑らせるように頭部からゆっくり撫で下ろされると、今私の頬の方がマルコ部長よりも赤くなっている気がする。
これに返事をすると、泣いてしまいそうだったから、ゆっくりと一度頷いて見せた。
マルコ部長は、いくらかほっとしたように小さく笑った。
やっぱりまだ顔は赤いし、おかゆが出来るまでベッドに横になって貰いたくて、お願いしたら、素直にそこに入ってくれる。
いつもと違って、少しだけ下がった眉で私を見上げる表情が、可愛すぎてどうしよう。
本当に振られたんだよね…?
諦めるつもりですごした昨夜。
今日だって、ちゃんと部下の役割を果たそうと必死に仕事をしたというのに。
そんなことをぼんやりと考えながら、寝室の扉を閉めた。
さっき落とした差し入れも拾わなければならない。
おかゆのパウチもあるし、アイスだって買ってきてしまったんだから。



簡単なものだったけど、つくった卵粥を美味しいと完食してくれて、熱に効く薬もちゃんと飲んでくれて、持参したスポーツドリンクも枕元に置いた。
アイスは後日食べるということで、冷凍庫に入れた。
再びベッドへと身体を横にしたマルコ部長に、私がしてあげられることはもう何もなさそう。
あとはゆっくり寝るだけだと思うから。
後片付けをして帰ろうと思った。
少しくらいは触っても、怒られないんじゃないかなって思って、まだ熱があるかどうか額へと掌で触れてみる。
そこはやっぱり、私の手よりもずっと熱い。


「まだ熱ありますね」
「冷たい手が気持ちいいよい」
「あ、シートありますよ。冷えるやつ」
「☆☆☆、お前の手がいい」
「部長……じゃあ、こうしちゃいます」


なんだか切ない気持ちにはなったけど、手がいいと言われたから、顔中ペタペタと両手で触った。
ベッドサイドに腰かけさせて貰って、上から掌を当てるようにしてペタペタと。
うざくなって、シートの方がいいってなるように。
だってこんな…。
こんな風にいちゃいちゃしてたら、全然諦められないもの。
今日だって意外な一面を見て、ますます好きになっちゃってる。


「おい、くすぐってェ」
「だって手がいいんですよね?」
「やめろよい」
「じゃあ大人しく、シートの方にします?」
「いや、お前の手の方が好きだ」


ぺたぺたと移動させていた手首を掴まれ、真下から真剣な眼差しで伝えられた。
好きだ、なんて、手のことなのに、心臓が一瞬で鷲掴みされたかのよう。
違う、これは違う。
昨日を思い出して!
振られたんだよ。
なのに、なんで…。


「昨日は、悪かったな」
「き、きのう……いえ、…」
「熱を出すなんて、生まれて初めての経験だよい」
「は、はぁ……って、…え…今まで一度もないんですか?」
「丈夫な身体が取り柄のガキだったからな。だから、あんなので風邪引くなんて思ってもみなかった」
「あんなの…?」


はぁ、と小さくため息を落としている。
そして酷く言いにくそうに、私を見つめた後に、それを横に反らした。
変わらず、私の腕を掴む指は、力が篭っていたけども。


「昨夜断ったくせに、お前のことが気になって……ベランダに出て、待ってた」
「……あの後、ですか?夜寒かったじゃない、です…か…」
「部屋の灯りも点かねェし、…どうしてんのかは、想像が付いた」
「頑張りましたよ、朝は笑って出社したでしょ?」
「…せっかくおれが、年相応の関係にしてやろうと。おっさんから脱却させてやろうと……なのに何、部屋まで来てんだい」


再び目線が私に戻ってきて、間近で絡み合う。
しばらく見詰め合った後、上半身をゆっくりと起こしたマルコ部長の顔が、私に近づいてきて。
至近距離で止められ、吐息のかかる距離まで縮められてから、ちゅっと短いキスをされた。
それは瞬きをすることすら出来ない、本当に短い触れ合いだった。


「おっさんを本気にさせたんだから、覚悟しとけよい」
「え…、え…っと、ちょ…と、待って…え?」
「だから…鈍いやつだな。……☆☆☆、好きだ」
「…だって、昨日……?」
「熱下がったら、イチから全部説明してやるよい」


首筋から差しいれられた手で、後頭部を引き寄せられて、今度は割と強めに唇が重なり合った。
次のキスは、目を閉じることができたけど。
未だに混乱している。
混乱はしてるんだけど、もう、好きって、マルコ部長が好きって言ってくれたから、それだけで十分。
一度離れた唇が、また角度を変えて重なり合う。
ベッドの上、こんなキスをされたら…。
ドキドキして、マルコ部長のTシャツを握りしめた時、キスが止んでしまった。
名残惜しさに、思わず願ってしまう。


「も…もう一回、して、ください」
「期待してるとこ悪いが、風邪がうつるからこれ以上はお預けってェことで」
「き、期待なんて…ッ」
「今夜は病人だ、言うこときけよい」
「わかってます、無理はさせられません」
「無理、ねェ…?」


楽しげに唇の端を持ち上げて笑うマルコさんは、何かごそごそと体の位置を変えているようで。
ベッドの中央に座る格好になっていたハズなのに、今は向こう側の端の方へと移動していて。
それから視線を私の背後へとやるから、私もそちらを振り返ると、クローゼットがそこにあった。


「中にシャツだとか服が入っているから、着替えろよい」
「着替えって……泊まっていく、ってことですか?」
「察しが良くて助かるよい」
「ええええ、だって、病人だし…」
「病人だからだろ、夜中に何かが起きたらどうすんだい」


ポンポンと自分の隣、開けたベッドの上を掌で叩いている。
そこに寝ろ、ということなんだと思う。


「わかりました。…泊まらせて頂きますから、…だから…先に、片付けとか、支度をさせて下さい」


これは有無を言わさずだろうから、とにかくマルコ部長には先に横になって頂くことにした。
薬が効いてきているのもあったんだろうと思う。
大人しくベッドの端で身体を横にしたマルコ部長は、暫くするとすぅすぅと寝息を立てて眠ってしまった。

それから台所を片付けて、クローゼットから着てもだるだるにならなさそうなシャツを借りて着替え。
眠る部長の隣に、私も横になった。
触れるか触れないかの距離で身体を横にすると、意識と感触だけがやけに敏感になってしまう。
呼吸音に慣れた頃には、身じろぐ仕草にまたドキっと心を乱し、眠れたのは夜中を回ってからだった。



**********



なんだかちょっとした息苦しさと、それから官能的な身体への刺激で虚ろだった頭が次第に目覚めてくる。
夢の中で、マルコ部長に抱かれていた。
そんなちょっとだけ申し訳ない思いと、幸せを感じていた夢から覚めるのは、少しだけ名残惜しいものだった。
けど…。


「ん、ぁ…あッ」


身体へ刺激を与えられていたのは夢ではなくて、意識がはっきりしてくると、これが現実だと理解できる。
昨夜借りた衣服は、上半身はすでに脱がされた状態だった。
隣に寝ていたはずのマルコ部長が、今は私の上に乗り上げている。


「あ、…ちょ…ッ…ん、んぁあッ」


首筋を舌先で舐め上げられ、片方の胸の尖りは指で挟まれたまま左右に揺すられている。
意識よりも先に身体は反応してしまっていたようで、硬く尖るそれがマルコ部長の指によって押し込まれると、声が上がった。
私が起きたのがわかったんだろう、首筋から顔を上げたマルコ部長と間近で目が合う。
そのまま、昨夜はされなかったキスが、唇に降りてきた。
ちゅっちゅっと幾度も啄まれ、ペロリと舐められてからまた至近距離で見つめられる。
昨夜はあんなに、へろへろだったのに。
もう、いつものマルコ部長。
いや、それ以上の。


「部長…ッ…熱、は?」
「心配かけたな、もうすっかり具合がいいよい」
「良かったです…でも、だからってこんな、いきなりッ」
「だから言ったろ、おっさんを本気にさせたんだ、覚悟しろよい」
「ぶちょ…ッ……だめ…ッ」
「ベッドの中の役職は……背徳感があっていいなァ」


ああ、もう…!
すっかりマルコ部長のペースになってしまっている。
昨夜とは全然違うけど、どっちかというと、こっちが本来のマルコ部長だと思う。
でもさすがに、今日もまた仕事があるから。
ギリギリのところで、タイムリミットが来てしまった。
お互い呼吸を乱しながら、ベッドの上で冷静になる様子は、少しだけ可笑しかったけど。
でもシャワーを浴びて、私は着替えを自分の部屋に取りにいかなくちゃいけない。
まさか昨日と同じ服では出社できないし。
マンション、近くて本当に良かった。


「☆☆☆、今夜は…いいんだよな」
「…そんなこと、改めて訊かないで下さい」
「じゃあ今夜は、こっちにお前を連れ帰るからな」
「はい、一緒に帰りましょう」
「ああ、一緒に帰ろうな」



**********

Last night



「オーナー、誰もいない席にお酒並べて、どうしたんすか?」
「いいや、…ただ、上手くいったかねェ」
「……うん?」


閉店後のカウンターに乗せた二つのカクテル。
今夜は誰が飲むとも決まっていない酒は、静かにその場に佇むのみだ。
こんな風に寄り添って、あの二人も居てくれりゃいいと願う。
また連れ立って店に来てくれるように、と。



カクテル言葉

カーディナル…優しい嘘
モスコミュール…けんかをしたらその日のうちに仲直りをする



Side:Izou


〜HAPPY ENDING OF A STORY〜




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