なんでサッチ隊長?5

Side:☆☆☆



ここ3日程、隠れている。
正確には、女性部屋に食糧を大量に持ち込んで、潜伏している。
何から隠れているかっていうと、言わなくてもわかると思うけど、サッチ隊長からだ。

あの日…サッチ隊長の部屋を訪ねてベッドに押し倒された日。
服の上から触られただけで、それ以上は何もされなかった。
おまけにサッチ隊長は自ら果てた後は、一切身体には触ってくることもなかった。
私から身体を密着させて抱き着いたら、ちゃんと抱きしめ返してはくれるんだけど。
例えば、下半身に手を伸ばしていくとやんわりとそれを取られて、接触を阻まれてしまう。
キスをしようと身を伸び上がらせても、強めに抱きしめられることで、阻止されてしまう。
その繰り返しで。
全く意味がわからないまま、いつの間にか知らないうちに深い眠りに落ちてしまったようで、気がついたら朝だった。
サッチ隊長の部屋で眠ることが数回あったから、すっかりあの匂いにも、強い腕枕にも慣れてしまったという、大失態だった。
朝まで一緒にいたって、服の乱れすらなくきちんとした格好で帰される私。
性欲のはけ口にすらなれない状態。
なんだか無性に情けなくて惨めで。
振られてしまったのは事実で、いずれ忘れていかなければ船にすら乗ってもいられない。
忘れなんきゃいけないのに、ここ最近、スキンシップも多いし、話すことも増えた。
忘れなきゃ、諦めなきゃって思う程、私の中で隊長の存在が大きくなっていく。
ただの隊長って思う日を迎えなくちゃいけないのに。
島に着く度に女を抱きに行く背中を、笑って見送る日々を過ごしていかなきゃならないのに。
こんな気持ちのまま、今はサッチ隊長にだけは会いたくなくて、身を隠していたんだ。


だけどさすがに、空腹には勝てなくて。
持ち込んだ食糧が底をついたのが、今朝。
夕方になってからは、おなかの虫が騒ぎ出した為、仕方なく女性部屋をこっそり出てみたんだ。

久しぶりに出た船内は、いつも通りではあるんだけど、クルーも出払っていて見張り番の隊しか居ないから、すごく静か。
自分の足音さえ、廊下に響き渡ってしまうから、慎重に足を進めた。
厨房に何か残っていたら、こっそり拝借してしまおう。
どうせ出港の時は、大量に食材を詰め込むんだ。
少しくらい、一人分くらい、食べてしまったところでバレない、バレない。
後は、そーっと誰にも見つからないように、こっそり厨房に忍び込むだけ。
こそこそと廊下を渡り、食堂の入り口に貼りついて中を覗き込む。
うん、誰もいない。
このまま厨房まで行って…


「何やってんだ?」
「………ひぇッ…!」


突然後ろから声をかけられて、ありえない程驚いて声を上げてしまった。
声だけで誰なのかわかってしまう。
私が間違うハズのない人物。
恐る恐る振り返ると、サッチ隊長の姿。
私のことを不思議そうに首を傾げて眺めている。
その両手には、食材の入った袋が提げられていた。


「まァ、丁度良かった。飯作るから一緒に食おうぜ?」


顎で厨房の方を示し、そのまま私に背を向けて歩きだしてしまう隊長。
私が絶対ついてくるものだと思っているんだろう。
振り返ることすらしない。
そりゃ、もちろん着いて行っちゃうけど。
なんてタイミングの悪い男だ。
一番会いたくない時に、後ろから現れるだなんて。
ほんと、憎たらしくて…好き。
隊長に続いて私も厨房に入ると、さっそく調理台に今日の戦利品を並べている。
手伝うと申し出ても、首を左右に振られて、椅子を用意されてしまった。
どうやら、そこへ腰かけろということらしい。


「お前は座ってろ、サッチスペシャル作ってやるよ」


あまりに楽しげに、にこやかな笑顔で言われるから、示された椅子に座ってしまった。
鼻歌を歌いながらも、軽やかな包丁捌き。
音程は外れているけど。
手際の良さ。
時々真剣な眼差しになって料理を向き合う姿勢。
ああ、それに、ここから始まったんだよね。
傷を拭いて貰ったあの日から。
この場所で。
黙っていれば料理している姿は素直に格好いい。
部下にだって慕われている。
それに、なんだかんだ言って優しい。
やっぱり、好きになって良かったなって思える瞬間だった。
思わずぽーっと見とれてしまっていると、サッチ隊長と目が合ってしまう。
無言のまま、目を合わせてくれているんだけど。
なんでそんな優しい目をするの。
どうして、そんな目で私を見るの。
抱くことすらしないくせに。


「うお〜、隊長!すっげぇいい匂い!」
「すっげー腹減ってきた!」
「悪ィな、お前らの分はねーわ」


匂に釣られたクルーが寄って来ても、片手を上げて謝っている。
その時ですら、休むことなく料理を仕上げていくから、もう4品くらいは出来上がっていっていると思う。
それにつれて、いくら手際が良くても使用済みの調理器具も、さすがに洗い切れずに増えていっているから、せめて洗い物だけは申し出てお手伝いをした。
サンキュ、なんてまた甘い声で言うから、こっちも照れてしまう。
火照った頬を見られたくなくて、背中を向けて洗い物をした。
あれ、こんなところにきちんと洗剤って置いてあったっけ?
位置が変わっている気がするけど、前よりずっと使いやすい。
そう思ってから、あちこち見回してみると、きちんと整理整頓されている厨房内。
それに掃除もきちんと行き届いていて、床も調理台もすごく綺麗。
知らない間に大掃除でも行ったんだろうか…?


「よし、肉焼いたら完璧!☆☆☆、そこの棚からお前の好きな酒出していいぞ」
「…私の、ですか?」
「ああ、もちろん。おれの奢り」


洗い終えたフライパンを伏せて、言われた棚へと向かうと、何本も並ぶお酒の瓶。
サッチ隊長のコレクション兼お酒の在庫のいくつかの入る棚。
そこには隊長の好みのお酒の銘柄ばかりのハズが、新しく仕入れたのか、新品の瓶が何本か鎮座していた。
それは紛れもなく、私が美味しいと言ったお酒の数本で。
いつの隊の飲み会だったか、どこかの島のどこかのお店で、たまたま近くで宴を楽しんでいただけだったハズ。
偶然?
それとも…。
こんなことされたら、ますます好きになっちゃうよ。
ありがたく、素直に自分の好みの種類を2本程手に取ると、何度も頷きながら満足そうに私を見つめる瞳。
だから止めて。
どうしてそんな優しい目をするの。


「よし、んじゃおれの部屋でゆっくり食おうぜ」


いつの間にか完成していたらしい、サッチスペシャルは、ワンプレートになっていて、綺麗に盛り付け荒れていた。
それが二皿。
さっき私が選んだお酒。
それを大きなトレーに乗せて、一人で持ち上げてしまう隊長。
お手伝いしようにも、いいからいいから、って言いながら先に足を進めてしまう。
何が何だかわからないまま廊下を渡りついていくと、結局サッチ隊長の部屋に入るまでに私が手伝ったことは、扉を開けることだけだった。

隊長が先に入って、私が後から室内へ足を踏み入れると、なんだか部屋が片付いている気がする。
それに、いつも漂う異様な男臭いというか、汗臭い部屋の中が、匂わなくなっている気がする?
もしくは、サッチスペシャルの料理に負けただけかもしれないけど。
まァ座れ、なんて言われて、乾杯なんかしちゃって、料理を一口頂くと、まさに絶品だった。
あまりの美味しさに、夢中で全品一口ずつ味見と理由付けて、食べてしまったくらい。
スペシャルというだけある。
こういう繊細な味付けとか、盛り付けやなんかは、普段の大皿料理からは想像もつかないけれど。
もともと、こういう繊細な料理の方が得意なんだろうと思う。
だって、盛り付け、味、香り、焼き加減、全てが完璧。
どれを食べても美味しくて、顔が緩んでしまう。
サッチ隊長は、そんな私のことを満足そうに見ながら、お酒を飲み進めていた。


他愛ない世間話をしながら、料理を食べつくしてしまい、いつも通り笑い声もだしながら会話をして、穏やかな時間が過ぎて行った。
何をこんなに平和に過ごしているんだろう。
この数日、避けまくっていたことが嘘みたい。
信じられないくらいに楽しくて、でもこの時間がとても儚いもののようにも感じた。

サッチ隊長が、おれ天才!って言いながらお酒のグラスを持って、ベッドへと移動してそこに腰を下ろした。
黙ってそれを見つめていると、ポンポンと自分の隣を軽く叩いて示される。
来い、っていうことだろうか。
散々迷って、辞めようかとも思ったんだけど。
サッチ隊長の表情があまりにも優しくて、促されるままに腰を上げてしまった。
緊張して落としてしまいそうだったから、お酒はそのままテーブルに置いていく。
ドキドキしている鼓動が、聞こえる程に、速く脈打ってうるさい。
やっぱり、好き。
この大きくて、優しくて、変態だけどそれでも、好き。


「お前、この数日何してた?」
「船に、いました」
「おれもずっと船に居たんだぜ?」


え?
船に居た?
接岸しているのに?
ずっと?
拳一つ分間を開けてベッドに腰を下ろすとすぐにされた質問。
サッチ隊長の答えにも、疑問符しか浮かばない。
さすがに肯定出来ず、随分と怪訝な表情をしてしまっていると思う。


「嘘」
「嘘ついてどーすんの」
「だって、島は?」
「この数日、ずーっと船ん中にいて厨房掃除して、片付けて〜」
「嘘…」
「ちゃんと洗濯だってしたんだぜ、シーツいい匂いだろォ?」
「嘘…」
「島に降りたのは、さっきの買い出しの時だけだぜ」
「お、女の子に会いに行ったんでしょう?」
「行ってねーって」
「嘘…」
「行けるわけねーって!」


何言ってるの、意味わかんない。
いつもは女の人抱きに、真っ先に飛び出していくじゃない。
隊が休みだったら何日も帰ってこないなんて当たり前のくせに。
毎晩、毎晩、違う女抱いたって、自慢してたのに!
私いつも聞かされてて。
何言ってるのかわかんない。
禁欲とか、意味わかんない。
そんなこと言われたって、信じられるわけ…


もうめちゃくちゃに。
叫んでた。
思いっきり、感情をぶつけてしまった。
後先のことなんて、考えられない程に、大混乱した。
隣のサッチ隊長に無遠慮に拳を突き立てると、何度も何度も殴った。
サッチ隊長はそれを全て胸板で受け入れて。
そのうち、突然両方の頬を掴まれて上を向かされ、口を塞がれた。
塞がれたっていうか…キス、された…?


「な、なに…するんですか…っ!」
「女の黙らせ方なんて、他に知らねーよ!」


真剣な顔をして、そしてちょっとだけ焦っているようにも見えるサッチ隊長は、再び目を閉じて、今度は優しく唇を重ね合わせてくる。
抵抗、すれば出来たんだろうけど、そうすることが出来なかった。
寧ろ、自分が望んでいたことだから。
あんなにヒステリーに叫んでいたのに、今は自分も目を閉じて、サッチ隊長の唇を受けている。
殴っていた拳は、握りしめたままだけど、さっきと違うのは隊長のシャツを握りしめているから。
何度か重ね合わせた後、ゆっくりと背中をベッドへと沈められていく。
二人で一緒にベッドに横になるのは、ここ最近で何度も経験したけど。
いつもと違うのは、サッチ隊長が私の上へ身体を乗り上げているということ。
唇を合わせては顔を上げて距離を取るから、自然に目を開けてしまい、間近で視線が重なり合う。
眩暈がする程、優しくて、溶けてしまいそう。


「今日は臭くねーだろ」
「はい…でも、隊長とこうなったら、これから何か変わっちゃうのかな」
「そりゃあ、変わるだろ?」


あんなに望んだことなのに。
いざ、そうなってしまうと、やっぱり襲ってくる恐怖。
離れなければならない、という不安。
抱かれるだけで十分って望んだし、性処理の役目だっていいって思ったけど。
やっぱり、大好きだから。
好きって気持ちがある限り、抱かれた後は、同じ船にはいられないと思う。
他のクルーと寝るのとは、意味が違う。


「船、降りなきゃダメかな…」
「……は?」
「だって…やっぱり、好き…サッチ隊長」
「ちょ、……は?だったら、…え?…待てって、なんで!?」
「隊長達は、クルーとは寝ないんですよね」
「そーだけど、おれはお前が………て、ちょっと待て、お前さ、あん時、まさかと思うけど、寝てた?」
「あの時…?」
「ま、マジかよォ、嘘だろォ!?…まさかと思ったけど、やっぱり寝てたのかよォォォオオオ!!」


はぁっと深いため息を落として、項垂れるサッチ隊長。
暫く私の肩ごしにシーツに額を埋めていたけれど、突如むくっと上半身を起こしていった。
私はというと、さっぱり訳が分からず、抵抗すら出来ず、ただサッチ隊長の重みを全身で受けているだけだった。
だからサッチ隊長の体重がなくなってしまうと、途端に感じる喪失感。
冷たい風が皮膚の上を通り過ぎたようにすら感じた。
すっかりベッドの上に座りこんでいる隊長が、私の腕を引くから、私もベッドの上に座り込む形になった。
何故か正座しているサッチ隊長と、対峙する。
あらたまっている様子で、私の目を見た後に、何やらもじもじとしている。
なに、これ…?
もしも。
私の今思っていることが、本当なら。
これから語られる話は、決して悪い方向には向かないのかな。
サッチ隊長の次の言葉を待つけど、一向に発してはくれない。
何度も、口に出そうと言いかけては、その口を閉ざしてしまうからだ。
次第に頬が色を付けていくのは、期待してもいいってこと?


「おれ、お前に惚れたみたい」
てへって照れたように言うけど、言われている私は呼吸すら困難な程に、心臓が大騒ぎしている。


「好きだから、そばに居てくれ」
本当に欲しかった、何度も夢見た程、言って欲しかった言葉で。
思わず、ほろりと頬を伝う私の涙。


「ああ、マジで、泣くなよ。お前に泣かれるのが、マジきつい」
両手で鼻と口を押えて、ただ流れる涙を止めることが出来ないまま、サッチ隊長に向けて何度も頷いた。


「お前の嫌がることは、絶対にしないから…な?」
そっと優しく、頭を撫でられるから、更に止めどなく涙があふれて、一度瞬きをすると、大きな粒がボロボロっと零れ落ちていく。


「約束する」
小さく差しだされた小指、震える指先を何とか持ち上げて、私も小指を立てて近づけていく。
すると触れる直前に、サッチ隊長の方からしっかりと絡め取られた。
きゅっと握られた小指が、痛い程、その約束の決意の深さが感じ取れた。


「なァ、もう、ほんと…マジで、すげぇ、好き」
「私も、大好き…サッチ隊長」


ベッドの上で、座ったまま、またキスを交わした。
それは触れるだけの、優しいキス。
今まで、したことのないような、優しい愛しむようなキス。
何度か交わした後に、サッチ隊長の手が、私の背中へと回される。
さっきベッドへ沈められた時よりも、もっと優しく添えられたそれで、身体が斜めになっていくのを感じた。


「☆☆☆、もう我慢しねーからな」



**********



服の上からおっぱい触っただけで、爆発しそうになるおれのサッチジュニア。
マジで、触っただけよォ!?
ちょっと揉んだだけ。
なのにもう、すっげーギンギンで。
一色触発状態よ。
マジ、すっげーんだな。
ナースちゃんのだって、ダメだったのに。
すげー興奮して、思いっきり手を動かした後に、あっさりと果てちまって。
あんなに悩んで、マルコにまでぶっ飛ばされたのに、☆☆☆がいるだけで解決するとか、マジ、すっげぇんだよ。
ああ、これが、好きってことなんだろうなって思って、☆☆☆のこと見たらさ。
うっわ。
可愛い…。
マジ、こいつこんなに可愛かった?
マジ、天使なんだけど?
ほんのりと赤く染まった頬に、潤んだ瞳。
おれを見つめるそれは、今すぐ襲っちまいたくなる程、色っぽくて。
抱き着いてくるから、愛しさにおれもすぐに抱き返す程。
いや、もともと、色っぽいんだ、コイツは。
いい身体してるし。
全裸だって見たことがあるんだから、おれは知ってるんだ。
いや、待て、ダメダメダメ。
あの晩のことを考えると、すぐ勃っちまう!
落ち着け〜。
落ち着け、おれ。
今出したばっかだろ!
それに…。
こんな臭いところで、抱けるかっての。
どっか島で綺麗な宿探すとか、せめてシーツ洗うとか。
だから、☆☆☆の手がおれのエロいとこ攻めてきても、とりあえず、今はお預けってことで我慢した。
ただ今は、帰すこともできねェから、せめて抱きしめて眠りたい。

おれの腕の中、しっかりおれにしがみ付いている☆☆☆の頭をそっと撫でてやる。
甘い、とろけるようないい声が聞こえてきちゃってる。
うおー…マジ、これ拷問!

好きな女と一晩いて、よく我慢できたねお前。おれには無理だわ。

昔マルコに言った言葉を思い出す。
おれには無理だ。
そー思ってたけど、我慢できることもあんだな。
おれも少し、節度ってやつを覚えたのかもしれねェ。
大事な女の為に、我慢できるっつー節度。


「なァ、☆☆☆」
「……ん…?」
「起きてるか?」
「…うん…」
「すげェ、好きだよ」
「…うん、…」
「好きだ…」
「…ふふ…」


笑った…?
ああ、なんて可愛いんだ。
緩む口元が可愛くて、ついつい、我慢できなくて唇を重ねた。
柔らかなそれは、おれの脳を焼いていく。
だが、焼き尽くす前に、なんとか理性を盾に守り切った。
唇を触れると、甘い声を何度か上げている☆☆☆。
ああ、こいつだって、我慢したんだ。
おれだって、すげー好きってとこ、絶対見せてやる。


「好きだよ、☆☆☆」
「…ん、すき……」


寝ぼけたような声がすると思ったら、次第に眠りにつく☆☆☆。
ああ、寝顔も可愛い。
これは何度か見たが、両想いになった時の寝顔は格別だ。
明日は、無事に部屋に帰す。
だが、その次ここに来た時は抱くから。
覚悟しておけよ。


「おやすみ、また明日な」


もう一度、唇にキスをすると、くすぐったそうに身じろいでいる。
堪らない程、可愛い。



Side:Thach



〜HAPPY ENDING OF A STORY〜







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