なんでサッチ隊長?4

Side:☆☆☆



島に到着して、各自の仕事を終えた途端、我先にと上陸していくクルーの背中を見送った。
時刻は丁度、夕刻を指している。
これから女性と出逢い、夜を共にするのだとしたら、良い頃合いだ。
見送った何百という背中のひとつに、サッチ隊長のものも見つけてしまっていた私は、深い、深いため息を…。
その溜め息すら、暖かい春島の風にかき消されていく。
島の見たこともない行きずりの女性に負けた気がして、甲板から踵を返した。


あの夜は何だったの?
あの夜、一晩サッチ隊長の腕の中で眠った。
ほとんど、緊張して眠れなかったんだけど。
抱かれるよりもずっと、ドキドキしたし嬉しかった。
時々、私がサッチ隊長を見上げると、月明かりに照らされたその顔が、すごく、照れくさそうにしているというか、困ったようにしているというか、複雑な表情をしていたから。
そんな顔を見たことなんか一度もなくて。
もしかしたら、私でかき乱されているのかもしれない、だなんて浮かれたものだ。
お互いの唇の距離は、僅か十数センチで、無理に顔を上げれば触れ合えていたかもしれない。
実際、キスしようとしたサッチ隊長が止めたこともあったし、私も然り。
しようと思えば出来たキス。
だけどあえてしなかったキスは、おそらく一生忘れられないキス。
そんなことがあったのに、あの翌日、早朝にサッチ隊長の部屋から出てからは、何もない。
厨房でも、隊のミーティングでも、訓練でも、今までと全く一緒の扱いで。
セクハラもいつも通りだったし、乱暴なのもいつも通り、時々優しいのも、いつも通り…。
もう少し、何かあるかなって期待した自分。
あれ以上、何か発展するのかなって毎日ドキドキしていた自分。


「バカみたい」


吐き捨てるように、サッチ隊長のあの背中を見た記憶を振り切るように小走りで食堂を抜けた時。

ドンッ

思いっきり、硬い壁にぶつかって転んだ、と思ったけど腕を引かれて踏みとどまる。
バランスは崩したものの、転ばなかったことにお礼を言おうと顔を上げると…。


「マルコ隊長…」
「髪、…引っかかってるよい」


書類を手に、心底不機嫌そうに私を見下ろす冷たい目。
小さなため息まで吐いている。
思わず後方へと身体を引いて後ずさろうとするも、髪の毛がグイっと引かれる感覚があって動けない。


「いたッ…」
「だから、髪」


普段あまり櫛を入れない髪の毛は、マルコ隊長のシャツの胸元でめちゃくちゃに絡まってぼたんに噛みついている。
あまりにもベタな展開過ぎて困る。
ていうか、この間見かけた笑顔が、夢だったんじゃないかっていう程にマルコ隊長の表情は冷たい。
私の髪に触れるわけにいかない、といった様子で、眉間に深い皺を刻みながら尚も見下ろしてくる。
怖い…。


「自分で取れよい、…早く」
「す、すすすみませ、ん…!」


怖すぎて、手元が震える。
もたもたと、いつまで経ってもほどけない髪とボタンに焦れたマルコ隊長が、また深いため息を落とした。
そして、私の手を避けるようにというジェスチャーを片手を振ることで示す。
髪の毛の絡まりは、さっきよりも半分にはなっているけども、簡単に解けそうになくて私もすごく困る。


「髪の毛引き千切って下さって大丈夫です。そんなに大事にはしてないので…」
「誤解は困る、だがさすがに女の髪の毛にそんなことはできねェよい」


ああ、私がこんなに近くに留まっている状況が困るってことね。
確かに。
マルコ隊長の恋人にでも見られたら…。
むしろ、他のクルーに見られて噂にでもなったら。
一瞬でも、彼女が傷つく行為はしたくない、ということなんだろう。
なんて恋人想いの、優しい人だ。
マルコ隊長は、徐にシャツのボタンを指先で掴むと、一気にシャツから引き離す。
ブツっという大きな音がして、ボタンを止める糸が切れた。
同時に、絡んだ髪の毛もそこから外れてしまう。
1、2本私の髪の毛も巻き込まれて一緒に抜けて痛かったけど、黙っておくことにした。
だって、そんな風に愛されたいって思ってしまったから。
すでに私に背を向けて歩き出しているマルコ隊長は、ポケットに取ったボタンを押し込んでいるようだった。
その背に、お礼を伝えたけど反応はなかった。
あんな風に、想われたい。
私もサッチ隊長に、あんな風に愛されたい。
無理な願い、敵わない願いなのに、胸が苦しくなる程、切に願った。



**********



船に残っている人達お腹が空いてくるだろう時間に、私は一人厨房に立っていた。
4番隊の人達は皆、今日はおやすみの日。
厨房も、灯りも火も落とす予定だったんだけど。
とてもじゃないけど、島に降りて食事をする気になれなくて、適当に自分の分を作っていたら、匂いに釣られて何人かやってきていた。
その人たちの分も、ついでに作ってあげたら、凄く感謝された。
こういう時、人の素直な感謝っていうのは胸を打つものがあると思う。
さっき偶然、私が原因のマルコ隊長のシャツのボタンを付けているあの彼女を見た時の、なんとも情けない気持ちまで払拭してくれる。
私とあの子、何が違うんだろう?
たくさん違うところはあるのはわかってる。
でも、好きな人に全力で愛されている彼女と、好きな人に振り向いてすら貰えない私と。
一体、何が違うというのか。

作った料理を囲んで、数人で食事会。
というよりも、すでにお酒も登場しているから、小さな宴が出来上がっていた。
明日の朝早い人とか、島に降りそびれた人とか、不寝番だから酒は飲まないけどお腹が空いたという人とか、その場に集まった理由は様々だ。
皆で楽しくコップを開けては、お酒を溢れそうな程注ぎ、大皿に乗った料理を頬張る。
大声でバカみたいに笑いながら、夜が更けてくるのを待ったんだ。
どうせ部屋に戻ったって眠れないんだ。
少しでも楽しい時間を過ごして、夜なんてはやく過ぎてしまえばいい。
多分、私が一番お酒を飲んだと思う。
料理も一番食べたと思う。
だけど、全く酔わないし、おなかも満たされることはなかった。
そのうち、不寝番のクルーが仕事へ向かい。
ひとり、酔いが回って眠ってしまい。
またひとり、酔い過ぎて倒れて行く。
潰れたクルーを見て、罵りながら宴は続いていたけれど。
それが最後の一人が潰れて、椅子から転げ落ち、床に転がったのまで見届けてしまった。


「な〜んだ、皆お酒弱いの…」


ひとりになった詰まらなさから、食堂で独り言のように呟いた。
そしてまだ半分程残っている自分のグラスの中のお酒を飲み干していく。


「お前さんが強いんだろ、あーぁあ…何人潰したよ?」


誰も意識のある人はいないと思っていたのに。
背後から声がしたと思って振り返ると、イゾウ隊長が寝間着浴衣を着崩したような格好で食堂に入ってくる。
いつもは結いあげている髪を、今は下ろしていて、裾の方でとりあえず纏めている。
寝ていたんだろうか、お化粧も全くしていないみたい。
なのに美しい。
そして妙に色っぽい。
そのむんむんした色気を振りまく顔を歪めて、私のいるテーブルまでやってくると、床に転がるクルーや椅子で突っ伏しているクルーを数えている。


「朝まで付き合ってくれると思ったのに」
「美味そうな料理もまだ残っているし、おれが付き合おう」


私の隣の椅子にかろうじて座って眠っているクルーを蹴り落とし、そこに座るイゾウ隊長。
ドサリとした音と共に、ぐえっという呻き声も聞こえたけど?
私としては、出来れば隣や向かいの席には、意識のある人に座っていてもらえれば良かったから、問題ないんだけど。
イゾウ隊長に、新しいグラスを差し出して、お酒を注ぐ。
さっきみたいに、溢れる程注ぐという下品なことはさすがに出来なかったけど、注いだ分は全て飲み干されるから、イゾウ隊長だって十分にお酒が強い。
二杯目を注いでからは、手酌で飲むことにした。
他愛のない心地いい会話が続く。
イゾウ隊長の話は面白くて。
その上、私のバカ話までちゃんと聞いてくれるから、嬉しかった。
サッチ隊長なんか、めんどくさいとかなんとか文句言って、自分のことばっかり話すから。
主に、女性関係の話ばっかり。
こんな風に、聞いてくれたことなんか一度もない。
あまりにきちんと聞いてくれるものだから、ついついお酒の飲む量も増えていって。
じっと目を見つめられると、自然に身体が熱くなっていくのを感じた。
私も酔い始めていた。
くらっとして、頭が回らなくなってくる。
目の前のイゾウ隊長は変わらず、静かにグラスを傾けているというのに。
そしてそのしなやかな指先は、白くてお箸を持つ仕草さえ美しい。


「イゾウ隊長…」


触れてみたくて、ついそのすべすべな手の甲に触ってしまった。
触れた瞬間、イゾウ隊長の手首がくるりと回り、私の指先を絡め取って握りしめられる。
え…?
イゾウ隊長?
振り払われると思ってたから。
触るなって。
拒絶は覚悟してたっていうのに。
こんな展開は全く予想していなかった。
イゾウ隊長に見つめられると、さっき熱くなった身体がもっと熱を帯びてく。


「おれの部屋で、飲み直すか?」


その言葉で十分だった。
イゾウ隊長の目を見つめ返したまま、ふわふわと浮いたような気分でひとつ頷いてしまったんだ。


散らかした食堂の片づけもそこそこに、イゾウ隊長に手を取られたまま廊下へと出ていく。
この道筋は、マルコ隊長、サッチ隊長の部屋へと続くものでもある。
マルコ隊長の部屋の前は、さっき彼女に向けてしまった想いに後ろめたさを感じて、目を伏せて通り過ぎてしまった。
それに…多分今頃、ふたりきりでいるんだろうと、嫉妬のような思いも湧いてしまったから。
サッチ隊長の部屋の前も、目を伏せて通り過ぎた。
どうせ本人はいないんだけど。
今はどこかの宿で、どこかの行きずりの女性と抱き合っているだろう。
だけど私はもっと酷い。
好きな人がいるのに、振り向いて貰えないからって、他の人と。
最低だ、私。
サッチ隊長を、罵ることなんかできない。
サッチ隊長の部屋からすぐ近く、イゾウ隊長の部屋がある。
そこへ到着するとイゾウ隊長は、部屋の扉に手を掛けて私を振り返っている。


「☆☆☆、いいんだな?」
「……はい」


あまり見つめられると、揺らいでしまいそう。
小さく頷くと、イゾウ隊長はそれ以上何も言わなかった。
部屋に入った途端、扉が閉まる前に抱きすくめられた。
イゾウ隊長の腕の中に納まってから、パタンとそれが閉まる音が聞こえる。
イゾウ隊長の指が、私の頭部に差し入れられて、髪の毛を梳いている感覚がある。
昼間、マルコ隊長とぶつかってしまった時に、あまりに絡んでいたから恥ずかしくて、あの後手入れをしておいて本当に良かった。
イゾウ隊長の指先が何度も髪の毛を辿って梳かしてくれるから。
それが気持ちよくて、目を開いて改めてイゾウ隊長の部屋の中が、視界に入ってくる。
さっきから畳の香り、それから煙管の香りも漂っていたのは理解していたんだけど。
食堂に来る前は、寝ていたんだろう。
畳の中央に敷かれている、乱れた褥が目に入り、ドキっと心臓が高鳴った。
このままイゾウ隊長と…?
覚悟してきたハズなのに、むしろ自分から誘ったのに、さっきからちらちらとサッチ隊長の顔が浮かんでくる。
振り払いたいのに。
脳裏に焼き付いた、あの変な笑顔が、離れてくれない。
いつの間にか、イゾウ隊長の手によって顔を上げさせられていた。
こんなに至近距離にいるのに、目の前にはこんなにも美しいイゾウ隊長の顔があったというのに。
私の頭には、サッチ隊長のあのバカみたいに笑う顔ばかりが浮かんで、目の前の人が見えていなかった。
だけどそれが近づいてくるのだけは、きちんと理解できていて。
キス、される…。
イゾウ隊長に。
信じられない…。
そんな気持ちで、受け入れようとしたのに。


「や…ッ」


反射的に、首を背けてしまった。
男の人の部屋についてきて、最後はこれって。
バカだ、私。
おまけに、イゾウ隊長の方がずっと素敵なのに。
サッチ隊長じゃないと、キスも出来ない。
どうして…。


「よく出来たなァ」


顔を背けたハズなのに。
私の頬を支えていたイゾウ隊長の手は、いつの間にか、頭頂部にあってそこをそっと撫でてくれている。
訳が分からなかった。
何が起きたのかすらわからなくて。
でも変わらず、イゾウ隊長が私を抱きしめてくれている。
頭部から流れて落ちていく掌は、やがて背中をそっと叩いてくれている。
こんなので…。
こんなので、泣くわけないのに。
だけど、自分ではコントロール出来なくて、何故か涙が出た。


「今は泣け。…あいつの為に、自分を安く売るのは、もうやめておけよ」


そんな風に優しく言われて、抱きしめられたら、もう声を出して泣きじゃくってしまう。
イゾウ隊長に必死にしがみついて、わんわん泣いた。

イゾウ隊長は、知ってたんだと思う。
時々私が、クルーをつまみ食いしていたという事実を。
そして今夜も誰か、っていうのは確かに私の中でもあったことだし。
それよりも…。
こうして泣きたかった。
サッチ隊長の、女を抱きに向かう背を何度も見送って。
きっと心がズタズタだったんだと思う。
自分でも気が付かないうちに。

まるで子供の用に泣いて。
いつの間にか、座るイゾウ隊長の膝にしがみ付いていて。
さすがに正気に戻り、恥ずかしくなった私はようやく顔を上げることができた。
泣いて腫れた目で、ブサイクだっただろうけど、イゾウ隊長はそれを見て優しく笑ってくれたんだ。


「今夜は本当に、ありがとうございました」
「おれは惜しいことをしたと思ってるけどな」


冗談ともつかないイゾウ隊長の言葉を聞きながら、お暇させて頂いた。


それから、サッチ隊長がマルコ隊長と揉めたっていうことを聞いたのは、シャワーも済ませて、女性用の談話室でくつろいでいた時だった。
大きな物音と、揉める声がしていたらしい、とナースの一人に聞いて、居ても立ってもいられなくなり、思わず女性部屋を飛び出した。


食堂を通り抜けると、さっき散らかした食器類は誰かが片づけてくれているようだった。
転がっているクルーは、何人かはそのままだったけど。
同じ道を、今度は一人で進んでいく。
同じ道を、今度は全く違う気持ちで進んでいく。
ただ、まっすぐにサッチ隊長の部屋を目指して。


「サッチ隊長?」


ノックと共に扉のこちら側から声をかけてみる。
きっと、扉を開けば空いているんだろうとは思ったけど。
中から、衣擦れの音やベッドから立ち上がるような音が聞こえるから。
そこは開かず待つことにした。
万が一、開けてしまって女性がいたりしたら、きっと立ち直れないと思うから。
可能性はゼロじゃない。
だけどここまで来てしまったのは、それを口実にしてでも会いたかったから。
ただ、サッチ隊長に会いたかったから。
程なくして開く扉。
中から出てきたのは、サッチ隊長。
ひとりだった。
ホッとしたのもつかの間で。
いつも通り、なんか臭い。
イゾウ隊長の部屋とは大違い。
思わず笑いそうになってしまったのを、何とか堪えた。


「…☆☆☆?」
「サッチ隊長、ものすごい走って帰ってきて、マルコ隊長と喧嘩したって聞いたから…」
「喧嘩なんかしてねェって、今あいつ、あの子とムフフよ、絶対」


なんだ、思った以上に元気。
ていうか、喧嘩したなんて事実は見ているだけではわからなかった。
サッチ隊長は、顔色もいいし元気そうだし。
下がパンツ一丁っていうのも、いつも通りだ。
なんか膨らんでる気はするけど、そこはスルーしておこう。
ただ、逆に言うとこんなことは珍しかった。
島の、まして初日の夜に船に帰ってくるなんて。
たいていは…島で朝まで遊んでくるのが、セオリーなのに。
このまま自室に戻ろう。


「大丈夫ならいいんです、島での夜なのに遊んでないで帰っ……」


帰ってくるなんて珍しいですね。
そう続く予定だった。
え…?
言おうとしていた言葉を失ってしまう。
突然、バチンとした衝撃が身体を走ったから。
それは、さっきイゾウ隊長にされていたそれと、ほとんど同じ行為なのに全く違う。
ふわりとした優しい抱擁ではなくて、荒々しく私を引き寄せてぶつかるような抱擁。
それに下腹部には、生々しい下半身の膨らみがぐりぐりと押し付けられている。


「隊長、どうしたんですか…」
「わっかんねェ!」


扉なんて開きっぱなしだから、廊下から丸見えで。
今はクルーが少ないからいいものの、誰に見られてもおかしくない状況だった。
出来るだけ冷静に尋ねてみても、サッチ隊長は垂れた髪の毛を左右に振って否定するのみで。


「それに当たってるし」
「それはお前が!」


今度は下腹部を指摘すると、抱擁が解けてしまう。
肩は掴んだまま、身体だけ引き離して私を見つめてくるから、本当に意味がわからない。
どうしたっていうの…。
こんなにも、見るに明らかに動揺して。
いつもの、冗談ばっかり、セクハラばっかりのサッチ隊長は、どうしたの。
さすがに驚いてじっと見つめてしまう。
もう一度、サッチ隊長の腕が私の肩へ回ってきて、無理矢理引き寄せられた。
すると背後で、扉の締まる音と、施錠される音がする。
な、なに…?
閉じ込められたんだけど!?
それにいつまでたってもずっと、サッチ隊長の下半身はずっと反応を示したままだし。


「私が…何ですか?」
「わっかんねェ!でもとりあえず、お前は今おれに抱きしめられてろ!」


意味がわからないし。
どうして、船に戻ったの?
どうして、マルコ隊長と喧嘩したの?
どうして、部屋に入れたの?
どうして、抱きしめてるの?
どうして、鍵をかけたの?
女の人は、どうしたの?
娼婦のようにと言われたのに、私はどうして、この腕を振り払えないの?
訊きたいことなんて、山ほどあるのに。

ただ、呼吸さえ潰しにかかるレベルで、サッチ隊長の胸元に押し付けられたまま、抱きしめられている。
愛しい、私の好きな人。
何があっても、どんなことを言われても、頭の中から消えてくれなかった人。
他の人を抱いてるって知っても、忘れられなかった人。

私からも、サッチ隊長の背中に両手を回して抱きしめ返すと、ビクっと大きく全身が震えた。
サッチ隊長は、言葉にならない声を発しながら、一度強く私の身体を抱きしめていく。
それ以上、力を込められたら窒息しそう…。
抗議しようと思ったら、ふわりと浮き上がる身体。
前に来た時と同じように、臭いベッドに身を放られた。
間髪入れず、サッチ隊長が覆い被さってくる。


「…ッ痛…、…ちょ…乱暴…」
「ご、ごめんな!何もしねェから、絶対!マジで!な?だからさ…そこに居てくれ」
「逃げません、けど………ね、何やってるんですか…」


確かに私の上に覆いかぶさってはいるけど、それは上半身だけの話で。
サッチ隊長の下半身は、ベッドの上にはあるんだけど…。
片足を立てて、腰を浮かせているかのよう。
その中心を、片手が前後に、動いているような振動が伝わってくる。


「悪いんだけど、このまま…出させて、マジ、触ったりしねェから、なっ?なッ?」
「なッ?…じゃなくて…すごいキモイです…。触られてた方がまだマシ…」
「え!?マジで?触っていいの…?」


頬を染めて、やたら嬉しそうに見下ろされたから、小さくため息が漏れる思いだった。
言おうとした言葉は、喉の奥に引っ込んで行ってしまった。
この人は今、一体何を考えているんだろう。
全く読めなくて…。
すごい困る。
私の返事が無くて、肯定も否定もされないから、それ以上どうしていいのかわからないみたいで。
しゅん…と次第に萎んでいく表情のサッチ隊長。
表情は萎んでるのに、下半身はギンギンな状態だった。


サッチ隊長、好き。
好きです。

…ほんとに?
私がもう一度、自信を持ってあなたに告白できるように、もう少し落ち着いてください。




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