ここ、ホグワーツに入学してからずっと仮面を被ってきた。優等生を演じる僕を、ただ一人の狸を除いては誰も気がつくことはない。優しく作った笑顔を見せれば女子は盛った猫のようにまとわりついてくるし、知識をひけらかせば媚びるように寄ってくる男子もいる。誰も僕を知らない滑稽な構図で都合がいい。

昨日まではそのはずだった。




「Mis.みょうじ!また君か!」

魔法薬学の授業が始まり15分程経過した頃。息を切らして入ってきたのはどんくさいことで有名な、半純血の魔女なまえ・みょうじだった。毎日のように、必ずなにかの授業は遅刻してくるそいつはグリフィンドールに所属していてスリザリンの奴らは皆、みょうじの悪口ばかり言ってことあるごとに苛めていた。僕から言わせればスリザリンのそいつらも変わらない。くだらない奴らだ。

「す、すみません…あの、教科書とかが見つからなくて、あ「いいからはやく席につきたまえ!」

スラグホーンが促せば、みょうじはごめんなさいと小さくうなだれ席につく。とは言いつつ、スラグホーンはなんだかんだとこの女を気に入っているのも知っていた。必ず、あいつが開くパーティーにこのどんくさい女がいるのが証拠だ。こんなにどんくさいが、みょうじは成績は僕の次、魔法も優秀だからだろう。努力せずとも一番な僕はなにかしようという気になることはないが、才能のない奴らが苛立ちを見せてこいつにあたる理由もわからなくもない。

「なまえ、結局どこにあったの?」
「ん…東塔の女子トイレに捨てられてた。」
「また遠いとこに…」
「あはは。」
「笑い事じゃないわよ!きっとマクガーデンよ!今日こそはあたし言ってやるんだから!」
「い、いいよいいよミリィ。」
「…はぁ。そんなんだからやられっぱなしなのよなまえ。たまにはがつんとやり返さないと!」
「んー…証拠もないのに疑えないよ。大丈夫大丈夫、怒ってくれるミリィがいるもん。それだけで心強いよ。」
「なまえ…」

隣のテーブルから聞こえてきた会話に、僕はつくづく馬鹿な奴だと呆れ、ため息をついた。こうゆう奴は一生なにかを得ることはない。優秀なだけでは意味がないことをわかっていない。

「先生、終わりました。」
「おお…トム、さすがだの!見たまえ、これが完成したものじゃ!」

スラグホーンが僕が作った薬を高々と翳すと、黄色い声が飛んでくる。内心うんざりしながらも、そいつらに微笑みかけた。

「先生、レポートも出来ているので、まだ出来ていない人を手伝ってもいいですか。」
「ああ、構わんよ。そうだな、遅れてきたみょうじを手伝ってやってくれ。いやなに、彼女も優秀だから最初だけで構わんよ。」
「…はい。」

まさかみょうじを手伝うように言われると思わない僕は、少し考えてから返事をした。みょうじはきょとんと目を丸くして僕の方を見ている。

「なまえ、良かったじゃない!リドルくんに手伝ってもらえるなんて!」
「あ、えーと…」
「隣いいかな、Mis.みょうじ。」

僕がにっこり笑顔を作ってそう言うと、みょうじの友人は頬を染めて僕を見つめた。大抵の女は僕を見て頬を染める。だからみょうじにもこの笑顔が通用するだろうと自負していたが予想外だ。みょうじは困ったように微笑んでいる。

「あの、なんか手伝ってもらうことになってごめんなさい。」
「…いや、いいんだ。暇をもてあますより。」
「ありがとう、あ、でも、本当に最初だけで、あとは他の人を…」
「わかったよ。何から手伝えばいいかな。」
「…じゃあこれを…」

僕はみょうじに言われたとおり、大量にある薬草の苦味をとる作業にうつる。これが面倒で大変でもあるらしい。みょうじもせっせと苦味の元である胞子を削っていた。気付かれないよう視線をみょうじにうつすが、初めてきちんと顔をみた僕は、こいつが標的になるのがよくわかった。

「みょうじさんって、すごく可愛いんだね。」
「え?」
「スリザリンの皆が苛めたくなるのは君が魅力的だからかな。」

そう。パーティーで顔を合わせていたが会話もしたことがなく興味も持っていなかったから、初めてきちんと見たみょうじの顔はあどけなさを残しつつも整っていた。女共がやっかむのもわかる。僕がそう誉めればみょうじは頬を赤く染め少し膨らませて面白くなさそうな顔をした。

「気に障った?」
「違うけど…発言には気をつけてほしいだけ。あなたと話してるだけできっとすごいやっかみを今私は受けてるんでしょう?そんなことがスリザリンの人に聞こえたら、私今日こそ呼び出しをくらうんだから。」
「…それは失礼。でも、本当に思ったから。」

にこやかにそう言えばみょうじは今度はぼぼぼっと赤くなる。反応が面白くて可愛いだなんて、僕はこのとき今まで抱いたことのない感情が自分の中に芽生えた気がした。






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