ファーストデート
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今日は初デートだったのに、彼女はいたって普通。
僕は待ち合わせ時間の30分前に来た。
服も一張羅をおろしてきた。
今日のデートコースを入念に復習した。
今日は遊園地デート。
まずは彼女の好きなものに乗って、かわいいショーも見て。
お昼を食べた後はちょっと怖いアトラクションをお願いして彼女を困らせてみたり。
そして最後は夕暮れの観覧車。
そこで、先週に続いて手を繋ぐ。
その前に繋げればなお良い。
完璧なデート計画。
言っちゃえば、先週一回このデートコースを回った。
失敗はない。
と、ここまで気合入れてきたのに、彼女は特にはしゃぐこともなく、緊張することもなく、本当に普通だった。
楽しそうにはしていたけれど。
ガチガチに緊張している僕がバカみたいだ。
先週は彼女と初めて手を繋いで着実に関係を深めていると感じていたのに、ただの独りよがりだったのかもしれない。
もしかしたら、もう僕に飽き始めているのだろうか。
この気合も、彼女にとっては面倒くさいのかもしれない。
少々落ち込み気味で、でも最後は彼女から観覧車に乗ろうと言ってくれたので二人で乗った。
ゆっくりゆっくりテッペンまで登って、あとはもう下りるだけ。
「今日ね。私、とっても楽しかった」
彼女が突然話しだした。
「でもさ、ヒロ君が気合入りまくりでいかにも『楽しいでしょ!』って顔してくるから、なんか素直に感想言うのが恥ずかしくって」
「……ごめん」
やっぱり僕の一人相撲だった。
「はぁ……」
と、思わずため息が出てしまった。
彼女の前で失礼だと思ったけど、昨日からの緊張の疲れと自分の情けなさが相まって、どうにも止められなかった。
そしたら彼女は真剣な眼差しで僕を見つけてくる。
僕は思わず背筋が伸びる。
「ねぇ、ヒロ君。手、出して」
彼女が自分の手を伸ばしながら言う。
僕は「え?」と間抜けな声を出してしまった。
「手……」
彼女が自分の手をさらに突き出しながら言う。
僕は言われる通りに右手を出す。
その手を、彼女の柔らかい手が優しく包んだ。
「え!」
「私ね、この前初めて手を繋いだとき、とっても安心したの。ヒロ君と手を繋ぐことがとても自然なことに思えた。今もね、とっても安心する。ちょっとドキドキするけど」
彼女が握る手をきゅっと強めながら言った。
「だからね?私たち、きっと一緒にいる。きっとずっと一緒にいるよ。だってこんなに自然なんだもん。
だからこれが最後のデートみたいに気合入れないでさ。これからいっぱい色んなところ行くんだから。
ね?そうでしょ?」
そう言って彼女をはにかみながら、そっと手を離した。
その後のことはよく覚えていない。
いつ観覧車を降りたか。どうやって遊園地を出たか。どうやって電車に乗ったか。
きっと気持ち悪いぐらいニヤニヤしていたと思う。
地元の駅に戻った時はもう夜で、まだ少し肌寒かった。
僕らは自然と手を繋いだ。
お互いちょっと笑った。
でも別れ際に彼女はこう言った。
「あー、でもさ。キスの相性は合うかなー」
「え!?」と彼女の方を振り向いた瞬間、彼女は僕の手をすり抜けて駆け出した。
「バイバイ!またね!」
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