むものはひとつ














きみを守りたいんだ。
この拙い手でも。

「嬢さん、ムリしすぎ」
「なにが?」
「…いま、この状況」

ここがどこだか分からないような状態の部屋でひたすらせっせと働く少女を目で追いながら呟いた一言に、動き回る人影が返事をした。正直聞こえてるとは思わなかったので少しだけ驚く。

「別に嬢さんがそんなに頑張んなくたってそんな仕事誰かが片付けるんだしさー」
「誰かがやるなら、私がやったっていいじゃない」
「嬢さんはやんなくていいのー」
「なにそれ」

平行線の会話はいつものことだけれど彼女はそれに気付くこともなく、そしてその手を休めることもない。

「んじゃあ俺がやるから、嬢さんは帰りなよ」
「タンタンは清雅のとこの仕事手伝ってきたばかりでしょ。ゆっくり休んでていいわよ」
「そのセリフそのまんまお返しするよ」
「なによ…うぎゃー!!」
「……いわんこっちゃない」

バサバサーッと奥の部屋から大きな物音がした。恐らく積み重なった書簡に潰されたのだろう。
部屋の至るところに積み上げられた膨大な書簡は僅かに布がかすっただけでも簡単に崩れてしまうのだ。埋もれた書簡のなかからうめき声が聴こえる。そろそろ救出しなければならないかもしれない。

「あーあ」

タンタンー、と声がする。
埋もれた書簡の山からの救出を求めるその声音に軽く失望した。
つまりは自分は書簡の山から救い出すことでしか頼ってもらえないのだ。

「少しは頼ってくれてもいーのに…」







(呟いた不満は虚空が呑み込んだ)
(この拙い手は空回り)





title by≫彼方に見た原色




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