触れた箇所から広がる






「これが今回の件の報告書です」
「遅い」
「遅くないです。期日まであと3日あります」
「清雅は一週間余裕を持たせるぞ」
「ぐっ…!!」

報告書を持ってくるたび、こういう顔をする。自分の実力がまだ追いつかないこてを知っていて、悔しくて仕方ないのだろう。

「わ、わかりました!次の仕事はなんですか!」
「これだ。下らない失敗するなよ」
「しませんっ!!」

感情をむき出しにして向かってくるこの娘は、つつく度おもしろいくらいに反応を返してくる。それはどこか心地良い。
娘はまるで奪うようにこの手から書類を掴むと、指先が触れた。
瞬間、空気が止まる。

「っ」
「どうした」
「なんでもっ、ないです!」

パッと手を引っ込めると、そう言い残して、逃げるように娘が立ち去ったあとは、いつもの静寂。

「……おかしな奴だ」

バタンと閉められた扉を眺めて、次いで机に目を戻した。視界の端に指先がうつる。さきほど触れた指先をみつめた。
顔を真っ赤にして室を出て行った娘。
その娘と触れた指先。

じくり。

「?」

なにか一瞬、熱が走ったような気がした。とても小さな刺激は脳が判別するまえに消えていく。気のせいだと思い込んでまた静かな室で仕事を再開した。

じくり。




ただわずか。
熱の錯覚が焼き付いたまま。







title by≫彼方に見た原色





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