未だかつて、ここまで気まずい沈黙はなかったと思う。

「………」
「………」
「………」
「………」
(た、耐えきれない…!)

自分より数歩前を歩く上司に、いきなり呼び出されたかとおもうと書類をどっさり渡され「ついてこい」の一言だけを告げられ、室から連れ出された。

「あの、葵長官」
「なんだ」
「どこに、行くんですか」
「尚書令室だ。報告と書類を持っていかねばならん」
「はあ、で、私が書類持ちに」
「暇そうなのはお前だけだからな。ほかの官吏には大きな仕事を任せてある。こんなことで時間を割かせるわけにはいかん」
「わ、私にも、仕事があるんですが」
「雑用同然の仕事だろうが」
(ぐっ…!)

そもそも何で自分なのか。暇そうならばタンタンでもいいだろうに。
相変わらず顔は見えないけど、多分絶対無表情であろう上司との沈黙にも耐えられないけれど、口を開けばこうも言い返される。いつも通りだ。

(そういえば―)
「どうした。気持ち悪い顔して」
「気持ち悪いは余計です。や、長官とこうして歩くのは初めてだなぁと思いまして」
「くだらん。クビにするぞ」
「なんでですか!」

数歩前を歩く上司の表情は、結局わからないままだけど。





穏やかな午後。歩く2人。この感情。



行方知らず






title by≫彼方に見た原色





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