シュガーポットに



(あまいあまい毒を一さじ)










初めて味わう感情はまるで果実のように。

「頑張ってるねー、お姫さま」
「晏樹様、またふらふらしてるんですか?」
「おや、仕事よりキミの顔を見ることの方が遥かに大事なことだよ」
「仕事をしてる晏樹様はきっとすごくステキだと思いますよ」
「じゃあ私の部下になる?」

面白半分で聞いてみる。彼女自身の能力は低くはないのだし、まあ部屋に飾りで置いておくだけでもいいだろう。

「いいえ」

けれど少女はきっぱりと拒絶の言葉を口にした。

「私は葵長官のもとで、もっと多くを学びたいとおもいます」

「おやおや、ずいぶんと皇毅を尊敬しているような物言いだねぇ」
「尊敬…間違いではないですけど、官吏としては素晴らしい人だと思います。人間としては違いますけど」
「ふふふ、妬けちゃうなー」

真っ直ぐなその瞳を僅かにだけ羨ましいとおもう。彼女の瞳にはきっといまも美しいものが映っているのだろう。

「あ、でもそれは皇毅には言わないでね」
「はい?」
「私が皇毅に嫉妬してしまうから」
「…今回は分かりやすいウソですね」
「本当だよ?」

とろけるような甘い嘘も、彼女には通じない。その事がとても嬉しい。さあ見抜いてみせて、と笑う。

「君ってまるで果実のようだよね」
「桃食べたいんですか?」
「ふふ、どうかな。当ててごらん」

でも気を付けて、蜘蛛の巣のように張り巡らされたこの罠に、かからないように。






title by≫彼方に見た原色




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