短編 | ナノ



君は皇帝、僕は七星士。何の運命のいたずらだろうか。僕達双子は全く別の道を歩むことになってしまった。だけど君を護る為なら、僕は悪にだってなってやる。


「名前。僕の服を着て逃げるんだ」

「亢徳!?何言って…」

「大丈夫、僕達は双子だよ。入れ替わったって、誰にも分からないさ」


自分の服を名前に押し付けて、僕は皇帝の服を身に纏った。何処から如何見ても名前だ。これで彼女を護ることができる。さあ、怒れる国民達が此処に乗り込んで来る前に、名前を隠さなければ。




「駄目よ、亢徳!貴方も私と一緒に逃げるの!」


今だ僕を連れ出そうとする名前。そんな彼女を眠らせる為に、僕は笛を吹く。



「亢、徳、っ…」



僕の腕を掴む力が段々と弱くなり、名前の身体はがくんと床へ崩れ落ちる。




「…ごめん、名前。君を護る方法が、これしか思いつかないんだ」



眠る名前の目元を流れる涙を拭うと、僕は彼女を城の隠し扉の奥に隠した。部屋に戻り名前の寝台に腰掛けた時、大きな音を立てて扉が開いた。



「覚悟しろ、極悪人!」












名前は我儘だった。それはただ純粋であるが故の行為だと、理解していたのは僕だけだった。

そして、そんな彼女の為になら僕は何でも出来た。密偵として紛れ込んだ紅南国の優しい朱雀の巫女だって、名前が消して欲しいと願ったからこの手に掛けた。



「そう。だから僕も…」



名前を悪だと言うのならば、僕だって同じだ。僕にも同じ血が流れてるんだ。名前の代わりに僕が罰を受けたって良いじゃないか。














「処刑を開始する!」


時計が三時を指した。ゆっくりと刃が僕の首目掛けて落ちて来る。ふと群衆の中を見ると、僕と同じ顔が泣きながら僕を見つめていた。



さようなら名前。
どうか、何処かで笑っていて。









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