捧げ物 | ナノ




「名前!」
「名前さん!!」

「「お誕生日、おめでとー!!」」


きゃいきゃいと楽しそうに騒ぎながら、柳宿と美朱が名前の元へと駆けて来た。今日は名前の誕生日なのだ。


「柳宿、美朱ちゃん。ありがと」

「これ、私達から!」

「あんたに似合いそうなの、買ってきたわよ〜!!」


照れ臭そうに微笑んで、名前は二人に礼を述べる。すると美朱は後ろに隠していた包みを取り出した。柳宿と二人で街に出て、見繕ってきたらしい。


「え、ほんまに!?めっちゃ嬉しい…。ありがとう!」

「開けてみて開けてみて〜!」


贈り物を受け取った名前は美朱に促され、その場で包みを解き始めた。


「わ!かわええ靴〜!」

「あんたの好きそうな感じでしょ?」

「うん!めっちゃ気に入った!ありがとう!!」


包みの中には、シンプルに刺繍の施された靴が入っていた。流石は柳宿。名前の好みドンピシャである。名前はその靴を大事そうに抱え、嬉しそうに二人に礼を述べた。



「…おい!」



そんな名前に声を掛けたのは翼宿だ。ぶす、っとむくれた顔をしている。


「何、翼宿?」

「………何でもないわ!」

「は?呼んどいて何でもないはないんちゃう?って、もう居らんし…」


名前が何事かと問いかけると、彼は不機嫌そうに何でもないとその場を去ってしまう。"訳が分からない"そんな顔で名前が翼宿の後ろ姿を見つめていると、ぽん、と両肩を叩かれた。


「行ってきなよ、名前さん」

「そぉよ。このままほっとくとあいつ、拗ねるわよ?」


「…そうするわ。二人共、ほんまありがとうな!」

靴を包みの中へ戻すと、それを抱えて名前は翼宿の後を追った。




「お、名前!美朱から聞いたぜ?誕生日おめでとう」

「鬼宿!ありがと!ところで、翼宿見んかった?」


急ぎ足で廊下を歩いていた名前に声を掛けたのは鬼宿だ。美朱から聞いたと祝いの言葉を述べてくる。そんな彼に、名前は追い掛けている男の行方を尋ねた。



「翼宿ならあっちに行ったぜ」

「ありがとう!」


鬼宿は少し前に彼とすれ違ったらしく、右手で翼宿の向かった方角を指差す。名前は鬼宿に礼を述べると、その方向へと歩みを進めた。




「あ、星宿様」


きょろきょろと翼宿の姿を探して彷徨っていると、今度は星宿に遭遇した。


「おお、名前。おめでとう。今夜はそなたの生誕祝いを盛大にやるからな」

「え、ほんまですか!?ありがとうございます!」


星宿も今日が彼女の誕生日だと知っているようで、夜は彼女のために宴会を開くと言う。名前は驚きと喜びで、勢い良く頭を下げた。



「楽しみにしておきなさい」

「はい!…ところで、星宿様。翼宿見ませんでした?」


微笑んだ星宿に、名前は翼宿の居場所を尋ねる。星宿も彼とすれ違ったようで、庭の方へ向かったとの事だった。




「あ、名前ちゃんなのだ〜」

「井宿、軫宿、張宿!」


庭に出ると、今度は七星士が三人立っていた。


「どうした?誰か探しているのか?」

「せやねん。ちょっと翼宿を…」


軫宿が辺りを見回す名前の様子を見て、彼女に尋ねた。流石軫宿だと思いながら、名前は翼宿を探している事を話す。


「翼宿さんなら、さっきお部屋に戻られましたよ!」

「ほんま?ありがと」


名前が探している人物が翼宿だと分かると、張宿が彼の居場所を指差しながら伝える。やっと翼宿に会えると思った名前は、にこりと微笑んだ。


「いえ。それより名前さん、お誕生日おめでとうございます!」

「そうだったな。おめでとう」
「おめでとうなのだ〜!」


「ありがとう!皆に祝ってもらえて嬉しいわ…」


今日、何回目だろうか。仲間達からの祝いの言葉に、名前は少し瞳を潤ませる。



「まだ祝ってもらってない奴が居るだろう?」

「え…」

「きっと、お部屋で拗ねてますよ。名前さん、皆に祝われてたから…」

「全く…。翼宿は何時迄も子供なのだ〜」


どうやら三人には、何故名前が翼宿を追っているのか分かっていたらしい。にこにこと彼女を翼宿の部屋へと促そうとする。


「はは。ほんじゃ、行くわ。ありがとう!」


そんな三人に見送られ、名前は翼宿の部屋へと向かった。




「…翼宿」

「…何や」

扉の外から、名前は翼宿を呼ぶ。彼は不機嫌そうな顔で扉を開けた。


「翼宿は何も言うてくれへんの?」

「別に俺からなんて何もいらんやろ…!みーんな祝ってくれたんやからな!」


ふい、と顔を逸らした翼宿。どうやら本格的に拗ねているらしい。これは面倒な事になった、と名前は気付かれないように溜め息を吐いた。


「翼宿」

「…」

「翼宿」

「…なんやねん」


名前を二回呼ばれて、翼宿はやっと声を発した。顔はまだ逸らしたままだったが、名前は言葉を続ける。


「確かに皆に祝ってもらえて嬉しかったで?」

「…」

「でもな、うちは翼宿に祝ってほしいねん」

「…っ!」


"翼宿に祝ってほしい"
この言葉を聞いた時、翼宿の肩がぴくりと動いた。


「好きな人に"おめでとう"って言うてほしいって思うん、当たり前やろ?」

こう言って悲しげに笑った名前の身体は、一瞬のうちに翼宿の腕の中へと収まっていた。


「…すまん」

「分かってくれた?」

「ん。おめでとうさん、名前。お前が生まれてきてくれてよかったわ…」

「…ありがと」


嬉しそうに微笑むと、名前は翼宿の背中に腕を回したのだった。






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