戦乱の世、時は後に室町と呼ばれる時世。憎み憎まれ、裏切りあったその時代に、高飛車で、目立ちたがり屋で、高慢なとある忍者がいた。これはそんな忍者と、同じ志をもって同じ学び舎で学んだとあるくのいちのお話。

彼らは忍者の卵として良い忍者になるための学び舎で学んでいた。くのいちの卵であるくのたまと忍たまは仲が悪かったがそれでも彼は彼の長い自慢話を聞く彼女をよく思っていた。それが如何様な感情であったのか齢十の彼らは知らなかった。彼がそれなりの好意をもって彼女を探し、武勇伝を話していたというのは言うまでもない。彼女も彼女でほかの忍たまが飽き飽きするような話を喜んで聞いていた。二人は良い塩梅で、釣り合いの取れた組み合わせだったといっていいだろう。

しかし彼らがお互いの好意に気付く前に、お互いの定めに気付いた。もちろん、彼らは忍の卵である。忍とは時に騙し、騙され、相手の裏をかかねばならない。彼らの先輩にあたる男が口を酸っぱくしていいっていた。

「色は、忍者の三禁である。」

その男はかくも厳しく恋慕の感情も含まれると自身に固く女などの色恋を禁じていた。彼ほどではないにしろ、彼らの学ぶ学園という場所では三禁や三病といった忍者において弱点を作らぬよう心に定め、忍として成長していく。そのこともあってか二人はその感情を理解する前にちいさな隔たりができた。お互いの性による隔たりであった。お互いが話をしながらも特別な感情を抱かぬようどこか壁を隔てていたのだ。

しかし忍を志しお互いを認め合いった二人は、ある一つの約束をした。それは卒業を控え、学園で学び初めて六年目の頃である。六年となった者は働く場を探すために城などに宛て自らを売り込む。皆が学園にとって好意的な城に勤められるとは限らずもちろん敵同士となる場合もある。全ては忍となる、志のためである。

「もし、敵となっても容赦はするな」
「お互い、命を奪い合おう。悔いは残すな。」

そう誓い合ったのである。彼は学園のなかで最も武芸に長けていた。もとの素質があったが学園一を目指すために日々努力を積み重ねていた。それを知っていた彼女は敵として出会ったときには自らの命が散ることを予期していた。

次の春を迎え、彼は城勤の忍者に、彼女は自由に忍務を受ける忍者となった。お互いが志した忍として選んだ道だった。殺し合いをしたくないからといって道を変えることはなかった。卒業するときも、和気あいあいと話していたが、しいてその約の話をすることはなかった。卒業した後も彼らは会うこともなく、一年、二年と月日は過ぎ去った。

三年が経った頃、彼は忍として名を馳せていた。周囲の忍から戦の話は聞けど彼女の噂は一つも聞かなかった。彼は訝しげにしていたがそれでもなお自らの力を高め、忍者隊の部隊長にまであがっていた。

とある日、思いもかけず彼の城はとある戦の情報を受けた。戦が長期化する、と考えられていた状況からなし崩しのように崩れた。それはたったひとりの忍の手によるものと噂されていた。彼はその忍が彼女であると考えていた。もちろん確証はない。それでも彼は彼女が必ず自らの城を攻めに来ると踏んでいた。如何なる状況になっても受けて立つと覚悟していたのだ。

彼が想定していた通り、その日は直ぐにやってきた。
城内に見慣れぬ女が忍び込み、各所に火薬を仕掛けていった。それを踏んでいた彼は城内のいたるところに部下を配置し、未然に城の爆破を防いだ。彼は部下に城内の整理を任せると逃げたという忍を追った。

得意である千輪を投げ、その忍びの脚を止めた。彼は忍の背後に回り込み忍び刀を抜いた。忍は懐から短刀を引き抜き振り下ろされる忍刀を抑えた。その忍びは顔を覆っていた口布を外すとにいっと口角を上げた。

「ーー」

声もなく、彼はその名を呼んだ。学園を卒業してから三年。長いようで短かったその時間を経て二人はまた介した。しかし何ら変わることなく、二人は刀を交わす。まるで学園にいた頃のようにお互いを高めあった。

どれだけの時間斬り合っていただろう。長くなっていたその戦いは刀が大きな力でぶつかりあったためか刃こぼれをはじめた。刀を捨て、苦無で斬り合う。大きな進展はなかった。雨が降り、地面がぬかるみはじめても、その戦いの激しさは増すばかりだった。
彼女は歯を食い締めた。彼は手加減をしている。いくら三年で修練を積んだとて同じように、またはそれ以上に修練を積み彼も強くなっていると考えたのだ。苦無を構え、彼の胸を目指して突き進んだ。

「契を忘れたか!滝夜叉丸!」

叫ぶように彼女は苦無を突き出した。頭に血が上っていたのだ。冷静であることが忍であるというのに。しかしどこかで彼がその苦無を避けると考えていたのだ。しかし彼女が考えていたようにはならなかった。そのまま、苦無は彼の胸に突き刺さった。

「知っているか」

「約束は、破るためにあるんだぞ」

不義だと、彼女は怒るだろう。それでも彼はこの結末を既に受け入れていた。もう三年も、否学園にいた頃からであろうか。彼は既に彼女を殺すことはできないと、そう思っていたのだ。彼女から約束をしようと告げられたときもその想いは揺らぐことはなかった。その感情の名前を彼は形にしようとはしなかった。自覚したとてどうしようもないとわかっていたからだ。彼女の信念は揺らぐことはない。自分の手で彼女を討つことができないのならば、と。忍と成ると決めた彼女ならば迷うことなく自らの胸にその刃を向けるだろうと思っていたのだ。

「馬鹿、じゃないの」

彼女は倒れた彼を支えた。息は既にない。そのつもりで突き立てたのだ。しかし、彼女が望んだ結末ではなかったのだ。彼はいつからこの結末を望んでいたのか、知らなかった。それでも、なにか彼が悟っているとわかっていた。であるからこそ手を抜いた戦いをしたのだと。

彼がどのような想いを持っていたのか、どんな感情を抱えていたのか、今はもう知る術がない。しかし言えることは。

これは高飛車で、目立ちたがり屋で、高慢で、それでも戦の中で一つの愛を守り抜いた、とある忍者のおはなし。

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いえで

るなさんに捧げる。
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