やけに耽美な色をして燃え上がっていた。僕にはそれしかわからなかったが、それがなんなのか知っていた。それでも見て見ぬ振りをしながらその火が消えるのを待ったのだ。

「真っ赤だよ」
「真っ赤だね」
「いつ燃え尽きるかな」
「さあ、もうすぐじゃない」

僕の飼っている蛇たちよりもそれは、その村は真っ赤な色をして燃えた。山火事を装い、敵の士気を下げるため村を燃やせ。それが今回の忍務だ。一人残らず焼き尽くせ。何処かの城がやったと装うんだ。僕らは組んでその村を焼いた。罪もない人たちが僕らの忍務のために死んだのだ。

人が焦げる匂いとはあまりに臭い。立ち込める火の熱さも、僕らにとっては始めてのものでお世辞にも綺麗だとは言えなかった。

「人の命はきれいに燃えるね」

しかし彼女は綺麗だと言ったのだ。簡単に散る儚いものだと。僕は彼女の言葉に頷けなかったし、否定するつもりだった。彼女はまっすぐ、燃え上がる村を見て、その村から上がる呻き声を聞いていた。これのどこが美しいというんだ。

「命を奪ったやつが、どんな口でいうんだってもんだよね」
「その通りだな」
「でも、綺麗だと思った。命を散らす瞬間は一生に一度の、花だから。」

ぱちぱち、と火が燃え上がる。僕はその火が消えるまでそこにいたがまだ彼女の言葉の意味を捉えられずにいた。

彼女が帰ってきたと一報を受けた。彼女は忍務を受け、数日間学園を開けると聞いていた。しかしいつまでたって戻らないというので先生方が捜索に出た。発見された彼女は瀕死の重症だ、という。新野先生や数馬の目をかいくぐって彼女の病室に忍び込んだ。

「まだ、人の命の散り際は綺麗だと、そう言うのか」

彼女はまっすぐ僕に視線を送った。返事のできない代わりに、ということだろう。彼女は必死に息をしていた。一呼吸、一呼吸を大切にしていたのだ。死ぬことはもはや忍者を目指すと決めた日から恐れていない。多少のためらいがあったとて上級生となった今、もはやない。それでも彼女は必死に息をする。いまにもその命の炎が途絶えようとしている、というのに。

「まごへい」

彼女はかすれた声で言った。暫く言葉を発していなかったその喉はからからに乾いているだろう。僕は彼女の口の近くに耳を寄せた。生まれてもう14年だ。しかし、そのたった14年の生をいまここで終えようというのに彼女の目は未だ死んでいなかった。子供が明日なにして遊ぼうかという明日への希望に満ちた、そんな瞳をしていた。

「よくみて、これが、命だよ」

僕の手を掴んだ彼女の手は傷だらけで、それでも力強かった。まるで生命力の塊だ。彼女は必死にいまを生きようとしていた。散りゆくというのに、彼女はこんなにも。僕は彼女の手を握り返した。強く、僕も生きている、命の花を懸命にそだてているのだと、彼女に伝えたくて。

「僕には、あの光景が綺麗だとはまだ思えない。無惨に殺されたあの命が綺麗に散ったとも思えないし、そもそも死ぬことが綺麗だなんて思えない。命がただ散ることを良しと言えない。でも、君が、必死で生きようとして燃やしている、

きみの炎は、きれいだ。」
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