きまじめな愛のかけら


私は昔から勉強も運動も、どちらをやっても結果を残せない人間だった。それは大人になっても同じで、預言の通りローレライ教団に入り、一応神託の盾騎士団に入れて貰ったものの、結果は残せずに居た。

「こんな事も出来ないの?」

「すみません……」

今日も今日とて上司に怒られる。どうして私はこんなに駄目なんだろう。自室に帰ると私はやり場の無い気持ちに襲われ、そっとナイフを手に取って手首に当てた。……この瞬間、とても私は安心するのだ。死にたいくせに死ぬ勇気も無い、駄目な私。そんな私が自分を保つ為にこんな事をしているなんて、きっと知られたらローレライ教団から追い出される。

「名前、入るよ」

この事を知っているのはシンクのみ。シンクは部屋にノックもせずに入ると暗い部屋の中処置もせず血を垂れ流している私を見てため息を着いた。

「派手に怒られたって聞いたから来てみたけど、やっぱりやってたんだ?」

シンクは慣れた手つきで救急箱を取ると私の傷を手当てして行く。あの烈風のシンクと私がどうしてこんな関係になったのかは分からない。だけど、シンクは私の傷を毎回手当てしてくれる。

「シン、ク……」

「……なに」

「私……」

頭が冷静になって来た所でまたこんな事をしてしまったと自己嫌悪に浸る。何故、何故私は皆と同じように出来ないの?頬に流れる温かな液体。シンクはそれを拭うと小さな声で何かを呟いた。

「そろそろ限界、か」

「……なに?」

私が聞き返しても返事は帰って来ない。シンクは手当てをするとそのまま部屋を出て行ってしまった。

ーー翌日。

私は上司に呼ばれていた。また何かミスをしたのかと思ったけれど、上司は何だか嬉しそう。私に一枚の書類を押し付けると何処かへ行ってしまった。その書類には第五師団への移動命令が記されていた。

「失礼します。新しく第五師団に入る事になりました、名前です」

ノックを一度して許可を得てから部屋に入る。シンクは誰も居ない部屋で私の傍に来ると頭に一瞬手を置いた後手を取り、抱き締めた。

「シン、ク?」

シンクと私はそう言う関係ではない。シンクは私を抱き締めたまま数秒してから離れた。続いて頬に触れる手。手袋越しではあるが、優しく触れてくれているのがわかる。こんなに優しく触れられた覚えがない私の涙腺は緩んで行った。

「……迎えに来た。頑張ったね」

それだけで、十分だった。私はシンクに抱き着くと涙が枯れるくらい泣いた。

「すみません……」

久しぶりに大泣きした後、ソファーでシンクと温かい紅茶を飲む。シンクが淹れてくれた紅茶が身体に染み渡る。

「シンク、迎えに来たって…?」

「……アンタは覚えてないかもしれないけど、ずっと前に一度会った事がある」

シンクの話ではシンクが烈風のシンク、と呼ばれる前一度私と会っているらしい。中庭に居た私は泣きもせずただ一言、死にたい。と言ったらしい。

「ローレライ教団で預言を崇拝している割に変なヤツだと思った訳」

「うん…」

「それから今に至るだけ」

「え…、何でそれで今になるの…?」

「さあね。…それより、そろそろ仕事するよ」

仕事と聞いて条件反射に顔が強張る私の頭を一撫でするとシンクは立ち上がって私に書類を渡した。……この日から、私は第五師団団長、烈風のシンクの部下になったのだ。

結果として私はシンクの部下になってから奏長へと階級を上げた。シンクには感謝している。私の、世界で一番大切な人。

「シンク!」

今日も私はシンクの為に仕事を頑張る。

ーーもう、傷が増える事はない。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -