体に残る心地よい倦怠感を噛み締めて虎徹は上半身を起こした。
「あれ? バニーちゃん?」
 夜を共に過ごし、隣で寝ていたはずの相手を探して起き上がる。腰はまだ昨晩のことを覚えていて、一歩また一歩と歩く度に鈍く愛おしい痛みが虎徹を襲った。どこ行ったんだよと部屋を見渡せばローテーブルの上に歪な形に盛りつけられた、ぶつ切り野菜と見るからにねっとりとしていそうな米の炒め物を見つけた。腰を摩りながらそこへ向かう。
「なんだよ、これ…炒飯?」
 皿の隣に置かれた紙切れには、育ちの良さを感じさせる品のいい字体で書かれた文章が綴られていた。
『こんにちは。あなたのことですから起きた頃には12時を過ぎているのでしょうね。なのでおはようは書きません』
 ここまで読んで思わず時計に目をやれば、手紙の通り12時を過ぎていた。
「うっせー」
 不服そうに唇を突き上げて続きを読む。
『昨晩はご馳走様でした。ローションを使い切ってしまったので今度買ってきますね。では、僕は取材がありますのでお先に失礼します。体調(特に腰)にはお気をつけください。よい休暇を!』
『Ps. 炒飯の感想、明日聞かせてください』
「…やっぱこれ、炒飯だったのか」
 百歩譲っても炒飯とは言い難い炒飯を見つめ溜息をつく。
「これ、食えるの?」
 元々庶民の知らないような生活をしていたバーナビーのことだ。おそらく今だって自炊する道具を自宅に置いてすらいない可能性が高い。ま、しゃーねーか。電子レンジに皿ごと入れて温める。
 そういえば、楓が始めて作ってくれた炒飯もこんな感じだったっけか? いや、母ちゃんも一緒に作ってたからこんなに酷くはなかったはずだ。バニーには今度包丁の使い方から教えてやんねーとなぁ。そんなことを考えながら部屋着を着ている間に仕事を終えた電子レンジがチンと軽快な音を鳴らした。食器棚からスプーンを取り出して口へ運ぶ。
「…まずっ」
 濃すぎる味付けに、虎徹は近くにあった瓶につまったミネラルウォーターを一気に飲み干した。

(虎徹さん)
(なんだよ)
(昨日の炒飯、どうでした?)
(まず…っ美味かったぞ、うん)


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