[君の瞳を見れば]
他のメンバーが帰り、放課後の部室に俺、藤崎佑助は一人でいた。
眠い体を狭い畳にあずけ瞳を閉じる。
「おっせーな…何やってんだ?」
このままじゃ本当に眠ってしまう。
「…探しに行くか。」
そう思い、体を起こしたその時だった。
「遅くなって悪かったな。ちょっと先生に呼び出されてよ。」
がらりと部室のドアが開けられ、俺が待っていた人物がやっとそこに現れた。
「安形…」
「さ、帰ろうぜ。」
別に何をするわけでもないけれど、部活をしない時はこうしてなんとなく安形と一緒に帰る。
帰り道に小さな公園がある。そこには、たまに昭和を思わせるような駄菓子を売るおっちゃんが来たりすることを俺達は知っていた。
この日もその人が公園にいる子供達にお菓子を売っていた。
なんとなくそれを眺めていると隣から「欲しいのか?」というからかいの声が聞こえた。
「別に。」
それから沈黙が数秒流れ、その後すぐに隣にいる安形が自分の前を歩きだす。
「あ、おい何を」
公園の中に入ろうとする安形を止めようと呼ぼうとしても、すでに安形は駄菓子屋のおっちゃんと喋りだしていた。
黙ってその行為を遠くから見守ればその声がこっちにも聞こえてくる。
「ねーねーおっきいお兄ちゃん!」
「あ?なんだ坊主。」
「お兄ちゃんもねりねりさん食べるの?美味しいよね!」
「ふーん、これ「ねりねりさん」っていうのか。」
子供に言われ、買った練り菓子を見つめる安形。するとそこから目を離し、手でこいこいと俺を公園の中で手招きしてくる。
しかたなく中に入りその輪の中に加わるとすぐに子供たちが俺を取り囲む。
「わー!ねこさんの帽子だあ!」
「ゴーグルかっけえ!貸してくれよー!」
「おうおう。ちょっとまってな。」
俺は目の前の子供に自分の帽子をかぶせた。
「わーかっけー!」
するとすぐ隣の子供がその子をまじまじと見つめた。
「お兄ちゃんなんでネコさんの帽子してるの?」
「これは猫じゃねえよ。ポップマンの帽子だ!」
「ポップマンって…何?」
「何!?最近の子はわかんねーのかー。」
俺が困った顔をしていると、安形が練り菓子を持ったまま俺に話しかけるタイミングを待っていた。
「おっと、わりい!」
「お前が食いたそうな目してっから買ってやったんだろ。早く食え。」
安形はそう言って俺に練り菓子を渡した。
「食いたいなんて言ってねーし。なんだよ目って…」
口ではそう言っても内心うれしく思う俺がいる。
目を見られただけで心をのぞかれるなんて。
安形からもらった練り菓子は、沢山の意味で甘い味がした。
「…美味い。」
それから俺たちはしばらく公園でのんびりした。
てきとうに子供達の相手をしていると、おっちゃんが売っているきな粉パンに目がいった。
「(くいてーなアレ…)」
後ろのポケットから小銭入れを取り出し中身を確認する。
「あと10円たりねー」
ぼそっと呟けば安形はその声を聞いて、俺ではなくて別の人物に話しかけた。
「おっちゃん、そのきな粉パン一つくれ。」
「おっ。まいどー。」
安形は差し出されたそれを受け取ると、俺の膝に無言で置く。
「なっ、なんだよさっきから。」
「食いたかったんじゃねーのかよ。」
意地悪く言われ、今度は悔しい味がした。
「けほっ!こほっ!きな粉が!器官に!」
「あーあー。何やってんだか。」
「うるせっ」
「まったく。おい、ジュースくれ。なんでもいいや。そこのりんご…あ、いや、オレンジジュースくれ。」
「はいよ。」
今。安形が飲み物の種類を言ってから、また取り替えたのもたぶん心を覗かれたんだ。
だって俺がみかんとか柑橘系好きだって教えた覚えがない。
公園を後に、俺たちはまた歩き出す。
「明日はまた会議か?」
「そうだなー。なんか書類溜まってたし。」
「それあんたがためてんだろ?椿も大変だな。」
「どっかの誰かさんが問題起こしてばっかりだから校舎修理費とかの書類がたまるんだろ?」
「うぎっ…!それを言うかよ…」
「かっかっか!でもそんくらいしてくれねーと色々つまんねーしな。」
俺の隣で夕日に照らされた顔が楽しそうに笑う。
「なぁ。」
「ん?なんだよ。」
「さっきみたいによ、目見ただけで考えてることや気持ちがわかるのって誰にもできんの?それとも、その」
俺だけ?
そう聞こうとまた瞳が重なる。
その瞬間。俺の体は安形の腕の中で。
「なんだよ。言いたいことあんじゃねーの?」
黙ってしまった俺に問いかける安形。
「わかってんじゃねえのかよ。」
「かっかっか!直接聞かねーとつまらねえだろ?」
うつむいていた俺の顔を両方をつかんで上を向かせると、また瞳をのぞかれた。
「言えよ。」
「やだ。」
「ま、いーけどな。」
「こうして目を見て、顔を覗くだけで何考えてるかわかるやつなんてお前だけだよ、藤崎。」
誰もいない道。
夕暮れで長くのびる自分達の影。
静かにその影の唇が重なる。
「ふっ…みかんの味するな。」
「んなわけあるか。」
FIN
愛されボスは校則違反!