木の上を跳ぶでもなく、空を揺らめくのでもなく、水の上を走るのでもなく、普通に小道を歩いて私は前に進んでいた。

「めっずらしー顔に会うもんだねー。」

いきなり正面から現れた懐かしい顔に今まで歩いてきた疲れがどっと体を襲った。

「何でお前がこんなとこにいるんだい、真田の領から近くないじゃないか。」

「俺様さぁ旦那の行くところには着いていかなきゃだめなんだよねー。」

「そりゃそうだ。」

笑った同胞はどうやら仕事中らしい。

「斎藤のとこ解雇されたんだっけ?」

「よく知ってるじゃないか。」

「あんたみたいな腕の立つ忍を野放しなんて、俺様だったら恐ろしくて出来ないけどねー。」

「実際は野放しだし、恐ろしくもなってないだろ?」

私は木陰に腰を落ち着かせた。
当然のようにその隣に佐助も座る。

「で、実際どーなの?忍がそんなやすやすと生きて野放しになるわけないでしょ。」

「始めからそうやって聞けばいいのに。」

「はぐらかすのはあんたの昔からの悪い癖だよ。」

「仕方ないだろう、忍なんだから。」

「まーね。」

飄々と言ったそれはやはり掴めない。
何処まで本気なんだか…可愛いげの無い奴め。

「私が仕えたのは道三様じゃないからね。」

「その娘の魔王の嫁、って言いたいの?」

「私の大事な姫様をそんな俗称で呼ばないでくれますか。」

「おっと、そりゃ失礼。で?」

ひらひら手を振って、にこりと笑った。
目が笑ってないぞ佐助め。ちっとも悪いと思ってないだろ。

「…で、姫様がお前は自由に生きろと私に言ったからね、その様に生きているんだよ。」

「へぇ…大事な姫様に着いて織田に行く気は無かったの。」

「ふむ、考えたがその必要は無いと思った。」

「なんで。」

「姫様が笑っていたからさ。」

「…………ほんっとアンタって変な奴。」

「褒め言葉として受け取ろう。」

私が笑いかけてやれば、呆れたと言わんばかりに佐助はため息を吐いた。

「で、今は何をしてんのさ?」

「今はあれだ旅をしながら、幸せ探しかな。」

「へぇ、忍が幸せ探しねぇ…。」

「まぁ、私も実は女だ。」

「…そりゃあ、俺様初耳。」

「女は幸せにならねばならないのだよ、佐助。」

私が笑いながら言ったら、佐助が訳が分からないと眉を寄せた。

「あんたがそこらの娘さんみたいに幸せになれると思わないけどね。」

「おや、佐助は女がどうなれば幸せだと思ってるんです?」

佐助は少し考えるようなそぶりを見せてから、私を見ずに空を見上げた。

「さーね、俺様は忍で男だから分かんないよ。」

「ふむ、素直なお前は好きだよ。」

「そりゃどーも。」

呆れたように男は笑った。





早く彼も幸せになれると良い。

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