尾張は戦場と化していた。
私はと言えば高見の見物でそれを見ていたのだが…鉛玉が頬を掠めた。
「酷いことをしますね、帰蝶様。」
「何故お前が此処に…!」
戦場に舞う蝶は目を丸くさせた。
似合わない種子島など捨ててしまえばいいのに。
「少し通り掛かっただけですよ、嫁に行ってしまわれた懐かしの姫君を一目見ようと思いましてね。」
「…そう、怪我は?」
「相も変わらずお優しい姫だこと。」
傷だらけなのは貴女の方なのに。
昔から、人を気にかけることだけは忘れない方。
彼女もまた弱く美しい。
「残念ながら盾にはなれませんが、貴女が望むなれば、私は貴女の矛となりましょう。」
「…もう一度、私の元に戻ってきてはくれないかしら?貴女の力があれば、きっと上総助様も喜んで下さるわ。」
ゆっくりと首を振る。
私と彼女の間にはもう主従の関係が無いのだから、それは出来ない。
そんなことは、聡明な彼女になら分かっているはずなのに。
「そうね…、なら貴女は此処から去りなさい。」
「仰せのままに。」
私が膝をつき、頭を垂れた。
立ち上がって目が合う。
「貴女は幸せ?姫様。」
否とも可とも答えず彼女は笑った。
彼女の笑顔が壊れそうなくらい美しかったのがとても悲しい。
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