いつまでたっても終わらない鬼ごっこに疲れ果て足を止めた。
どのみちもう走れはしないし足がもつれて転ぶのも時間の問題だっただろう。
無理はよくない、無理は。


「無理はよくないよ。」



・・・往々にして。鬼というものは疲れ知らずだと思う。それ故どこまでも追いかけて獲物を追い詰めて。

「そろそろ話せるかな?」

そう言って鬼もとい目の前の青年は距離を縮めてくる。その歩む速度が憎たらしい。余裕に満ちたそのペースが。

私に怒りを植え付けるのに十分な時間をかけて、貴方は顔を見合わせて話すのに相応しいと思われる距離にたどり着いた。切れた息はまだつながらない。心臓は存在すら煩わしくなるほど。


――正直、もう疲れた。


「さぁ教えて?」

彼は私に紙を差し出す。見たくない。見たくなかった。でももう逃げるのも疲れた。


"I love you."


たった1枚の紙切れにたった1文これだけ残して彼女は死んだ。私の愛する眼前の彼を同様に愛した彼女は文字通り何もかもを消し去って死んだ。そう自らの死体でさえも。

「I love you・・・.」
「うん、意味は?」

――あの日の彼女の笑顔を思い出す。

『私ね、』

言い出せなかった。私も彼が好きなのだと。消えてくれない彼女が笑う。

『彼には私よりも長く生きていて欲しいの。』

私の心内を知らぬまま彼女は逝ってしまった。ここで私が彼に想いを告げれば私に彼への想いを託した彼女を裏切ることになる。この紙切れは私の助けがあって初めて彼女から彼への遺書という役目を果たせるのだから。

「・・・"あなたは生きて"、よ。」

目を見開いて彼は私を見つめる。正しいことはひどく苦い味がした。しかし納得するしかあるまい。私の想いと共に埋まるのは彼女の想いではなく彼女自身なのだから。もういいんだ。だってもう葛藤は疲れた。

「それって....」

――あぁ迷わないで迷わないで!導きだす答えに疑問を抱いてはいけない。だって、なぜなら、

「―っ貴、方は、生きてっ・・・!」

――ほら、私まで迷ってしまった。

貴方はきっと、一生知ることはないのでしょう。膝から崩れ落ちた私がひどい泣き声で吐き出したのは、埋葬前の私の最期の想いだったということを。これが私なりの貴方への遺書だったということを。

形すら取れない"I love you."

せめて潔く幕をひこう。

Final answer




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