×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
紙一重

「い…ってぇ………」

額からぼたぼた血が流れる。
頭はガンガンするし、視界がぐらぐらと揺れて大変不快だ。



今日は、コナンくんや蘭さんや園子さんに誘われて一緒に出かけていた。
長いショッピングにつき合わせるわけじゃないから安心してと言われて苦笑しながら承諾した記憶がある。
確か、園子さんのお家の主催でパーティがあるとかでそれに招待されたのだ。
パーティなんて、そんな洒落たもの全く縁がないような人生を送って来たものだから初めは拒否したのだけれどなんだかんだ流されてしまった。
大学の入学式で着たスーツをとりあえず着て来たはいいものの窮屈だしまるで就活生だしで、とてもいたたまれない気持ちだ。
今すぐ帰りたい。

「すげー……」

コナンくんたちと会場に入ってきょろきょろと周りを見渡す。
一般人である俺にとっては別世界だ。
コナンくんや蘭さんはこういう場に慣れているようで、園子さんは言うまでもない。
なんて高校生達なんだ。
俺の方が普通の一般人のはずなのになんだか自分が恥ずかしくなってきた。

「え??あれ……!?」
「おや、」

圧倒されてきょろきょろしながら歩いていると、なんだかとてもよく知った人物が見えた。
とても他人のふりをしたい。何故お前がいるんだ。
聞いてないぞ……

「昴さん……??」
「森山くんにコナンくんも。こんばんは。」
「あれぇ…?昴さん。き、奇遇だね。」

どういうことだ。目の前には恋人が変装した姿で立っている。
しかも、向こうはこちらが来ていることを知っていたような様子だ。
わざとらしくとぼけて見せるコナンくんにちらりと呆れた視線を送る。
おい、さては知っていたな…?

「ちょっとコナンくん?」
「あれぇ…ごめんなさい。お兄さんに言うの忘れちゃってたかも…なんて」

屈んでこっそりコナンくんに話しかけると、小さく笑いながらそんなことを言っている。
大変遺憾だ。しかし、こうなってしまっては仕方がない。
俺は呆れながらちらりと目の前に立つ恋人を見た。
変装とはいえ昴さんもイケメンであり、スーツが似合っている。
俺とは違ってスタイルが良くて、大人の男って感じだ。
……とてもムカつく。

「ねぇねぇ、良かったら昴さんもボク達と一緒に行動しようよ」
「えぇ。構いませんよ。」
「…………」

俺は構うのだが。
本物の恋人と違って表情があってよく喋る昴さんは、見ているとなんだか中身がいつの間にか知らない人と入れ替わっていそうで怖いのだ。
少し離れたところから二人にそろそろとついていく。
すると、そこで突然女の人の大きな悲鳴が聞こえた。

「キャ―――!」
「……!?えっ!?なに!?」

あまりのことに驚いて体がびくりと跳ねた。
なんだか周りの人たちもざわざわと騒がしくなってきた。
一体どうしたのだろう。
騒ぎの場所を中心に人が離れてひらけていたので、人混みをかきわけてちらりと覗き込む。
すると、そこで誰かが倒れているのが見えた。
コナンくんが真っ先に走っていったようで、倒れている人の状態を確認しているようだ。
なんて小学生だ。
周りの人たちは亡くなっていると噂している。亡くなって…??死んで…死…

「……ひっ…」
「森山くん。少し離れてください」

状況を理解して思わず体が強張る。
すると恋人が俺の前にサッと出てきて顔色を確認した。
先ほども言ったけれど俺はどこにでもいる一般人であり、人が死ぬところなんて今まで生きてきて見たことがないのだ。
なんでコナンくんがあんなに普通にしていられるのかわからない。
蘭さんや園子さんもこの状況に驚いているようだ。
本当は男の俺が二人を安心させてあげなくちゃいけないのだろうけれど、そんな余裕全くなかった。
俺に背中を見せて前に立ち、現場を眺める昴さんのスーツの裾をぎゅっと握りしめる。

コナンくんたちと出かけるのは楽しいのだけど、こうやって高確率で何かしら事件や悪いことに巻き込まれるからいつも気を張っていたのだ。
けれど今回まさか人が死ぬとは思わなくて思い切りびびっていた。

「なるべく俺から離れるな。」
「……え?」

スーツを握り、帰りたいと思いながら下を向いていると恋人から小さく声がかけられた。
いったいどういうことだろうか。
まるでまだこの事件が続くかのような口ぶりだ。



「…森山くん、大丈夫ですか?」
「……ダメです…無理……」

どうやら俺の悪い予感は当たってしまったようで、あの後何人かの人達が会場や、外の廊下や、ステージなどで続いてバタバタと命を落としていった。
もう俺の心臓はガタガタだ。今すぐここから逃げてしまいたい。
彼を恐れているということもすっかり忘れて俺は半分以上泣きながらぎゅうぎゅうと昴さんの腕にひっついていた。
いつ自分が殺されてしまうかわからないこの状況がものすごく怖い。
もう誰も信じられそうになかった。
今このパーティ会場は、警察の人たちが来て現場検証やアリバイ調査なんかもされている。
アリバイがあるひとたちは皆一旦この会場から出されていた。

「うぅ…帰らせてください……」
「……一回出ますか?」
「それはそれで年上の威厳が……」

俺や昴さんはもちろんアリバイがあるし、コナンくんたちは警察の人たちと顔見知りらしくて犯人候補からすぐに外れていた。
だから俺は帰ろうと主張したのだけれどコナンくんが残ると言って聞かないのだ。
そうなると蘭さんと園子さんは残ることになる。
つまり年上の俺がここで逃げるわけにはいかないということである。
カーペットに残る血のシミが、本当にあったことなのだと主張してきてここにいるのが辛くてしかたがない。
俺がびびって昴さんの後ろにいる間もコナンくんは警察の人たちに混ざって現場を調査している。
一体どんな育てられ方をしたのか不思議でしょうがない。
絶対普通の小学生じゃないと思う、というかなんで警察の人たちも当たり前のように参加させているのか理解が出来なかった。

「園子!?ちょっとどうしたの!?」
「……ひぃっ!?」

蘭さんの驚いた声が聞こえたのでそちらを見ると、園子さんがその場に座り込んでいた。
まさか園子さんが殺されてしまったのかと思って物凄く情けない声を出してしまったのだけれど、どうやらそういうわけじゃないらしい。
事件の謎が解けただのなんだの言っている。
犯人がわかったようだ。
園子さんは別人のようにつらつらと謎を解いていった。
そして、トリックを実際にここで披露するとか言い出している。


「……ちょっと、昴さん協力してもらってもいいかしら。」
「…わかりました。」
「えっ…ちょっと…」

突然園子さんに声をかけられた昴さんはちらりと俺に目線を送った後、謎解きの手伝いのために歩いて行ってしまった。
今までスーツを掴んでいた手が空中をさまよう。俺は完全に一人だ。
その間も園子さんによる推理ショーが繰り広げられていたけれど、怖くて謎解きを聞いているどころではない。
俺はふらふらと全員に背中を見せないように後ろに下がりながら移動して、会場の入り口近くに立った。
これなら何があってもすぐに逃げられるはずだ。
物凄くかっこ悪いけれどもう構っていられない。精神的に限界だった。


「ふざけんな!証拠はあるのかよ!」
「…あるわよ?」
「なんだと!?」

遠くから眺めていると、犯人だと言われたおじさんが園子さんに向かって大変怒っていた。
推理ドラマなどでよく聞くようなやりとりが聞こえてくる。
あの人が犯人なのだろうか。
もう証拠とかいいからすぐに取り押さえてほしい。
俺の心の安静のためにはしかたのない犠牲だ。
それにしても何が俺から離れるな、だ。お前から離れてんじゃねぇかとイライラしながら恋人のうしろ姿を睨んでやる。
その、一瞬の気の緩みがいけなかったようだ。

「晶太お兄さん逃げて!」
「森山さん!?」
「……えっ…!?」

突然、悲鳴とともに俺の名前を呼ばれてパッと前を見ると、先ほど犯人呼ばわりされて怒っていたおじさんがナイフを持ってこちらに走ってきていた。
やばい、と脳みそが訴えてくるのだけれど咄嗟に動くことができない。
どうやら逆上したおじさんは逃げようとしているようだ。
なぜなら、ここが扉の前だから。
なんでこんなところに逃げてしまったんだと後悔している間に、俺の前に来たおじさんはナイフを振りかざした。

「そこをどけ小僧!!」
「……うわぁ!!」
「お兄さん!危ない!!」

コナンくんの大きな声に反応し、目を瞑って咄嗟に後ろによけると額に焼けるような痛みが走った。
そして、頭にも鈍痛。
どうやら切るだけでは飽き足らずナイフの柄で殴られたようだ。
そのまま俺は床に尻もちをついた。

「…い…ってぇ…」

思わず額を手で押さえる。
少しだけかすっただけだけれど、思いのほか血がたくさん出てくる。
切られた場所がよくなかったのだろうか。
ぽたぽたと血が滴ってきて左目が開けられない。
殴られた頭も痛くて、視界がぐらぐらと揺れた。

「っおい!!大丈夫か」
「……いたい。」

大事な髪の毛が切れていないか心配しながら自分の状態を確認していると、すぐに秀一がこちらに飛んできた。
俯いているから顔は見ていないけれど、声色からとても焦っていることが伺えた。
というか昴さんの口調を忘れてきてしまっている。
俺が下を向いていることが不安だったのかそれとも怪我の状態を見るためか、秀一は俺の手首を掴んで顔から離させた後、両手で俺の顔を包み込んで自分の方に向かせた。

「…っ……どこを切られた。他に痛い所は、…」
「おでこ……あと頭殴られたみたい。痛い…ぐるぐるする……」

いつものクールさはどこへやら。
昴さんの姿で素を出しまくる恋人は俺の状態を確認した後、制止する警官の声も聞かずにすかさず俺の体を抱え上げた。
状況についていけなくて思わず縋りついた。

「わっ……」
「コナンくん、あとは任せました。」
「え??うん。わかった。お兄さんをよろしくね?」

犯人のおじさんはどうやら蘭さんに取り押さえられたらしい。
強い女の子だ…俺が守る必要が全くなかったようだ。


スーツが血で汚れてしまうだとか、でもちょっと安心するだとか思いながらおとなしく恋人に抱き着いていると何故か恋人はそのまま自分の車に俺を運んだ。
こういう時は普通、救急車も来ているものなのではないだろうか。
助手席に優しく下ろされる。
変声機を切ったようで、昴さんから秀一の声が聞こえてなんだか落ち着かなかった。

「秀一、車が血で汚れちゃうよ…というかスーツも汚しちゃったか。」
「……そんな場合じゃないだろう。」
「ちょっとかすっただけだから大丈夫だよ…多分。」
「…はぁ……」

あまりにも心配するものだから安心させようと思ってへらりと笑って見せると、思い切りため息をつかれた。大変遺憾である。
秀一は車から救急箱を取り出すと俺の怪我を手当てし始めた。
なんで車にそんなものが用意してあるのかは聞かないでおいてやる。


「……他に何かされてないか?」
「大丈夫……」
「…心臓が止まるかと思ったぞ」

手当てが終わって、何度目かわからない同じ質問に答えると突然ぎゅっと抱きしめられた。
そろりと控えめに大きな背中に手をまわす。
こんなに焦っている秀一あまり見たことがないから、なんだか新鮮だった。
安心したような恋人の声を聞いていたら、今まで張りつめていた緊張が一気に解けて体から力が抜けた。
もう殺人事件なんてこりごりだ。

「お、おいっどうした!?」
「疲れた……しんどい…眠たい…」
「驚かせないでくれるか…」

恋人に体を預けて抱きしめられていると良く知った香りに安心して眠くなってきて、そのまま俺は眠りに落ちることになる。

その後、恋人の家で目を覚ました俺は散々恋人にお説教をされた。
「そもそもお前が俺から離れたからだろ」と拗ねたように言い返してやると、再び抱きしめられて「悪かった。」と言われた。
とつぜん情緒不安定になる恋人が俺は心配で仕方がないけれど、いつもと違う姿が見れてちょっと得した気分かもしれない。
でも、もうこんな経験はたくさんだ。二度としたくない。