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騒がしい非日常

「……?」

大好きな彼に会いに来た俺はいつもの席で彼にいつもと同じように注文を済ませた。
しばらく座っていると、足元に何かバッジのようなものが転がってくる。
それを拾い上げてきょろきょろと周りを見渡していると、小さな子供たちが三人こちらに駆けてきた。

「あー!お兄さんそれ!」
「…ひっ……」
「ごめんなさい、それ僕たちのなんです。返してくれませんか?」
「あ、…はい…。どうぞ。」

突然の知らない子供達に、対応がうまく出来なくてどうしようもなく慌てる。
囲まれて逃げ道がなくなってしまった。
あまり知らない子と一緒にいたら、俺の対応によっては泣かれてしまうか警察に通報されてしまうかもしれない。
そっと、女の子にバッチを渡すとすぐに自分の胸の前で手を上げた。
触ったらきっと通報される。

「お兄さん、拾ってくれてありがとう!」
「あ…うん…」
「でも、この兄ちゃん、なんかきょろきょろしてて怪しくねぇか?」
「ひっ……そ…そんな…ことは…」

三人分の目に見つめられてどこを見ていいのかわからなくて、きょろきょろと周りを見渡していると大柄な男の子にジト目で見られてしまった。
口から出る言葉がどんどん小さくなっていく。
どうしよう…このお店で警察騒ぎなんて起こすわけにはいかないのに。
大好きな彼が見ている前で恥さらしだし、そもそもこんなに騒がれたらお店の中で目立ってしまう。

「お兄さん悪い人なんですか?」
「え…違……っ!」
「悪いやつは皆そう言うんだぞ…」
「…ぅ……」

途端に子供たちに怪しい人間を見るような眼で見られる。
じわり、と瞳の奥が熱くなった。
けれどこんな小さな子に泣かされるなんてことしたらどっちが小さい子だかわからない。
どうしたら俺から興味をなくしてどこかに行ってくれるのだろうか。
こういう時、彼なら優しい笑顔を見せれば小さな子も安心するのだろうけれどそんなこと俺にはできなかった。

「僕たち少年探偵団の前で、隠し事はやめた方が身のためですよ。」
「そうだぞ…。」
「も…やめて…くださ…」
「やっぱりお兄さん悪い人なんだ!」

追い詰められて椅子にずるずるともたれかかる。
どうしよう…探偵ごっことは言っても純粋な子供は勢いで警察に通報しかねない。
そうじゃなかったとしてもこの子たちの保護者に通報されてしまうかもしれない。
悪いことをしたわけではないのになんだか自分が悪者である気がしてきて、背中がどんどん寒くなっていく。

「おい!おめーら…いつまで……っえ!?お兄さん!?」
「…ふ…ぇ…こなんくん…?」
「コナンくん、この悪者と知り合いなんですか?」
「それより、コナンもこいつ取り押さえるの手伝えよ!」

小さい子たちに手や足を抑えられて強く抵抗するわけにもいかず顔を青くしていると、呆れた顔でやってきたコナンくんが俺の顔を見た途端驚いた声を出す。
この子たち、コナンくんのお友達だったりするのだろうか。
そうだとしてもコナンくんにも余計なことを吹き込まれて、俺の容疑は晴れないにちがいない。このまま短く人生を終えるのだ。

「お兄さんどうしたの!?」
「俺…悪い人だから……っうわぁ!?」
「ちょっと、おい!お前らやめろって!」

驚いた顔のコナンくんに自分の行いを悔いていると、大柄な男の子が勢いよく飛び込んできて一緒に店のソファに倒れ込んだ。突然のお腹への衝撃に一瞬息が止まった。
コナンくんの驚いた声が遠くに聞こえる。
子供とはいえ、俺の筋肉のないお腹に乗られるととっても重たい。
どうしよう、煩くしすぎてお店もなんだかざわついてきてしまった。
彼に見つかる前にこの場を沈めないと。

「もう観念してください!」
「兄ちゃんどんな悪いことしたんだ?」
「…わか…ない……です…」

訳もわからず取り押さえられながら、しくしくと心の中で涙を流した。
俺は転がってきたバッジを拾っただけのはずなのだけれど、やっぱり最近は小さな子に話しかけるだけでも罪になってしまうのだろうか。
顔に両腕を当てながらすべてを後悔した。
きっと今頃店中のお客さんが俺に注目しているに違いない。
今すぐ消えてしまいたかった。
しばらくそうしていると、突然お腹の重みが消えたので驚いて見上げる。

「森山くん、大丈夫ですか?」
「…す、昴、…さ…」
「お兄さん大丈夫?ごめんなさい…。こいつらにはボクがちゃんと言っておくから…。」

大柄な男の子を抱え上げて俺の顔を覗き込む昴さんが神様に見えた。
お腹の苦しみから解放されて息を吐いていると、コナンくんが申し訳なさそうにこちらに謝っている。
突然のことに店のソファに寝転がったまま呆けていると、突然ふわりと体が起こされた。

「ちょっと、森山くんどうしたんですか!?どこか悪いんですか!?」
「わっ!?安室さん…!?大丈夫です……!」
「でも体に力入ってないですよ……?」
「…こ、腰が…抜け……」

心配そうに俺に声をかけたのは彼だった。
脇に腕を指し込まれた状態で持ち上げられたまま、昴さんたちから離れた位置に移動させられた。
驚いて足をバタつかせる。
子供のせいで腰が抜けるなんてかっこ悪くて、彼にだけは見られたくなかったのに。
それに、騒ぎすぎたせいでお客さんたちの視線がものすごく刺さっている。
見ないでくださいとは言えずに黙っていると、俺を支えたままの彼が昴さんを睨みつけた。

「…はぁ…ちょっと、保護者なら子供の面倒くらいしっかり見てもらえませんかね。」
「すみません。…好奇心が旺盛だったようで。」
「あなたね、こんなことしといて…!」
「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩しないで…!」

彼に支えられながらぐったりと俯いていると、俺を挟んで喧嘩が始まってしまった。
子供たちはわけがわかずぽかんとしているし、俺はわけがわからず泣いてしまいそうだ。
まさに阿鼻叫喚なこの場をコナンくんが一生懸命沈めようとしている。
小学生一人にこんなことさせるのは申し訳ないけれど、大きな声も出せないし涙を堪えるので精いっぱいだった。

「森山くん大丈夫ですか…?」
「大丈夫…です…」

一通り昴さんに文句を言い終えたらしい安室さんが、心配そうに俺の顔を覗き込んで声をかけてくる。
なんとか大丈夫だということを伝えると彼は安心させるようにこちらに笑いかけると俺を元の席に座らせた。
そしてお店のお客さんにうるさくして申し訳ないことを謝ってくれる。
そのおかげもあってか、しばらくすると興味もなくなったのかお客さんの視線がなくなっていった。
安心して一息ついているとさっきの子供たちがしょんぼりとこちらにやって来た。
どうやらコナンくんにたくさんお説教をされてしまったようだ。

「ほら、おめーらちゃんと謝れ。」
「お兄さんごめんなさい…」
「あ…大丈夫……気にしないで…」

さっきまでの威勢をどこかに忘れてきてしまったかのようにしゅんとされて、こちらも物凄く申し訳ない気持ちになった。
胸の前でぶんぶんと手を振るけれど、不安そうにこちらを見上げるばかりで元気になってくれない。
どうやったら笑ってもらえるのだろうかと思ったけれど、俺が笑えないからそれは無理そうだ。
このままでは子供たちに申し訳ない。

「あ、…そういえば…さっきのバッジ…。少年探偵団?」
「……!そうなんですよ!」
「歩美たち、少年探偵団なの!」
「かっこいいだろ!」

試しに話をそらしてみると、落ち込んでいたのが嘘のようにぱあっと明るくなった子供達が少年探偵団の話を始めた。
俺の拙い言葉もちゃんと聞き取ってくれて、更には勝手に喋ってくれて本当にありがたい。
笑顔を取り戻してくれた子供たちを見て安堵のため息を吐いた。

「森山くん、さっきは申し訳ないことをしました。」
「あ…大丈夫です。…俺が鈍臭くて…」

こちらの様子を伺っていた昴さんが歩いてきて俺の頭を撫でた。
申し訳なさそうに謝る昴さんに大丈夫だということを伝える。
本当に悪いのは子供から見て怪しい行動をした俺の方なのだ。
むしろ自分の身を守れるこの子たちの方が賢い。

「……ちょっと、彼に触らないでもらえますか?」

俺の注文したハムサンドを運んできたらしい安室さんが、俺の頭に置かれた昴さんの手を掴んで不機嫌そうな声を出した。
どうして彼が怒っているのか分からずに慌てていると、再び安室さんと昴さんの一方的な喧嘩が始まって店内が騒がしくなる。
俺に向かって楽しそうに少年探偵団の話をする子供たちと、俺を挟んで喧嘩する大人2人、そして二人を止めに入るコナンくんによって離れていたお客さんの視線が再びこちらに集まった。
もうやめてください…と小さく呟いた俺の声は周りから発せられる大きな声に吸い込まれていく。
終息しないその場を見ながら、今日はとんでもない厄日だと俺は再び顔を青くさせたのだった。