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置き去り



「晶太くん、大丈夫ですか?」
「すいません…また飲みすぎちゃったみたいです…」

安室さんに支えられながら店から出る。
また俺は安室さんの誘いを断れないまま一緒にお酒を飲んでいたのだ。
しかし今回は意識を飛ばすどころか、理性も保っているので学習したほうだと言って良いだろう。
そうは言っても安室さんに迷惑をかけてしまっていることに変わりはなく、俺は心から自分の行動を後悔している。
お酒を前にするとどうしても飲まずにはいられないのだ。
しかも何故だか安室さんと飲んでいるときはさらに抑えることが出来なくて俺はいつも首をかしげている。
おそらく、安室さんが話し上手だからだろう。

「いつもすみません…。」
「体調は大丈夫ですか?」
「……今回は視界がぐらぐらする程度です…。」

また車で送られてしまっている。本当に心の底から申し訳ない。
前に屈みながら安室さんの質問になんとか答えていると、横からくすくすと笑い声が聞こえる。
ちらりと見るとイケメンがイケメンらしく爽やかに笑いながら車を運転していた。
くそ……羨ましい…

「安室さんって本当にかっこいいですよね…」
「晶太くんに褒められると照れますね。」
「…本当に羨ましい限りです…。」

彼の顔は誰が見たってイケメンであるしスタイルだって完璧。
しかも内面もイケメンときたものだ。
実際に今だって、男である俺を嫌な顔ひとつ見せずに車で送ってくれているのだ。
世の中の女性なら絶対に黙ってはいないはずだ。
しかも探偵をやっているなんて、なんだかカッコいい。
探偵がどんな仕事をしているのかは全く知らないけれど。
そう言えば、コナンくんの親戚の新一君も高校生探偵だとか言っていたけれど彼の場合は職業とは違うのだろうか。
職業としてお金を貰いながらやっている探偵の方たちと、無償(?)でやる高校生探偵はなにか違いがあるのだろうか……
ぐらぐらする視界の中で俺はよくわからない思考の渦に呑まれた。
と、いうところで横から声が掛けられる。

「つきましたよ晶太くん」
「……っへ??」
「…本当に大丈夫ですか?」
「いや、…でもここ、」

安室さんの声に意識を車の外に移すと、そこは恋人が住んでいる工藤邸だった。
ここは俺の家じゃない。
そう思ったけれど、よく考えたら安室さんが俺の家を知っているはずはないのだ。
連れてくるとしたらここくらいしかないだろう。
自分の住んでいる家をちゃんと説明しなかった俺が悪い。
けれど今更家に送ってくれとも言えないので俺はとりあえず車から降りることにした。

「立てますか?」
「……あ…すいません、ありがとうございます。」

いつもの紳士さを発揮した安室さんは俺の座る助手席のドアを開けて手を差し伸べてくれた。
俺だったらこんなこと絶対にできないだろう。
完全に経験人数が違うのだ。
馬鹿なことを考えながら安室さんの手を握ってふらふらと立ち上がると、途端に俺の体を浮遊感が襲う。

「うわぁ!?安室さん!?」
「ちゃんと捕まっていてくださいね」
「え??でもこれは…ちょっと!?俺、歩けます!」

所謂、お姫様抱っこ。
絶対に成人した男にやるようなことではないし、俺は歩けないほど酔っていない。
それなのに、安室さんは車から出て来た俺をひょいと抱き上げた。
細いと思っていたけれど安室さんも案外筋肉があるのだろうか…、なんだか裏切られた気分だった。
俺は地面に落とされないようにぎゅうぎゅうと必死に安室さんの首に抱き着いた。
そんな俺のことなど気にしていないかのように安室さんは玄関まで歩いていくとチャイムを鳴らす。

「……はい…はっ…?」

ガチャリと玄関の戸を開けて出て来た昴さんが安室さんと俺を視界に入れた瞬間にあり得ないものを見たかのようにぴたりと動きを止めた。
妥当な反応だ。俺でもそうなる。
爽やかイケメンにお姫様抱っこされた成人男性を目の当たりにしたのだから。
しかし安室さんはそんな秀一など興味がないように彼を押しのけてずんずんと家の中に入っていった。

「こんばんは。赤井。」
「お、おい。何をしている。」
「……俺もわかんないです……」

少しだけ状況を把握してきたらしい恋人が、呆けたような声を出して聞いてくるので俺も首を振る。
むしろ俺の方が聞きたかった。
落とされそうで怖いからはやく下ろしてほしい。

「…なんで晶太が安室くんといるんだ。…何もされてないだろうな?…お前…顔が赤いぞ」
「…安室さんとお酒を飲みました。美味しかったです。」
「は?…あれほど安室くんには警戒しろと言っただろう?」

やっといつもの調子を取り戻した恋人はずんずんとこちらに近寄ると安室さんに抱かれた俺の顔を覗き込んで険しい顔をしている。
思わず敬語で質問に答えると鬼のような形相で怒り始めた。怖い。
なんでこいつはこんなに安室さんを警戒しているんだろうか。イケメンのいい人じゃないか。

「安室くんもさっさと下ろせ。」
「嫌です。……晶太くん良い匂いがしますね。」
「ちょっ!?安室さん…!?」

恋人の怒りの矛先が今度は安室さんに向いたらしく、俺を抱いたまま楽しそうに笑う安室さんを睨みながら怒り出す。
安室さんは余裕そうに秀一の言葉を否定すると、俺の首筋に顔を埋めてすんすんとにおいを嗅ぎ始めた。
やめてください。汗をかいていて絶対に臭いです。
安室さんのさらさらの髪の毛が顔に当たるのが少しだけくすぐったくて身じろいだ。

「……んっ…」
「…ホー、人のものに手を出すとはいい度胸だな。」
「だから言ったじゃないですか。そんなに心配なら見えるところに置いておけと。…というかこんな簡単に持ち帰れるなんて、甘いんじゃないですか?」
「……何?」
「ちゃんとここに送り届けたんですから感謝してください。」

……だから俺を挟んで喧嘩をするのはやめてください。
また二人は俺を置いてよくわからない喧嘩を始めてしまい、俺は安室さんの腕に抱かれながら気の遠くなる思いがした
安室さんはあんまり秀一を怒らせないでください。
あとで痛い目を見るのは俺なんです…。

「晶太、本当に何もされていないのだろうな?」
「……されてないです…」
「…ふん…人聞きが悪いですね。何なら今、手を出してもいいんですよ?」
「……安室さん…?」

恋人の質問にいつもなら、安室さんがそんな事するわけないだろう!と言ってやるのだけれど今日は口答えしてはいけないと本能が訴えかけてきたのでおとなしく敬語で答えた。
安室さんがどんどん挑発するような発言をするので酔いも相まって頭がくらくらする。
と、思っていたら今度は俺の顔にイケメンの顔が近づいてきている気がした。

「……っ、……やめろ!」
「ちょっ、何するんですか!」
「……うわぁっっ……いっっってぇ!?」

そこで、耐えきれなくなったらしい秀一が安室さんの手を思い切り引っ張ったらしく、俺の体はそのまま重力に従って玄関に落ちた。思い切り腰を打つ。
物凄く痛いし、物凄くとばっちりを受けた気がする。
頭を打たなくて本当に良かった。
転がりながら腰を撫でていると、恋人が焦ったように俺の体を抱き寄せた。

「お、おい…大丈夫か!?」
「…痛い…本当に痛い……もうやめて……」

半分以上泣きながら喧嘩をやめるように縋る。
はやくシャワーを浴びてゆっくり眠りにつきたかった。

「…晶太くんごめんなさい。全部赤井のせいです…。今度、お詫びをさせてくださいね。」
「…悪いのは安室くんだろう。もうこいつには近づくな。」
「それは約束できませんね。」
「……なんだと?」

再び始まる喧嘩。安室さんがなんだかものすごく楽しそうだ。
そういえば秀一は俺のことを「人のもの」だとかなんだとか言っていたけれどまさか安室さんに恋人だってばらしているわけじゃないだろうな…。
俺は安室さんと友達でいたいのだ。余計なことだけは吹き込まないでほしい。
気が遠くなる思いをしながら二人の喧嘩を聞いているとどうやらそろそろ飽きてきたらしい安室さんが会話を終了させたようだった。

「……それでは僕は明日も早いので帰ることにします。晶太くん、また食事に行きましょうね。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
「おい、晶太。」

安室さんが爽やかな笑顔で食事の誘いをしてきてくれたので、俺は恋人に支えられながら思わず肯定の挨拶を返す。
隣で怒っている秀一など気にも留めずに安室さんはこの場をひとしきりぐちゃぐちゃにして帰っていった。


「……おい。本当になにもされていないんだろうな?」
「…されてないって。普通にお酒飲んできたよ?」

俺の顔を両手で包みながら必死に俺の体の状態を確認する恋人にへらりと笑いながら答えを返す。
するといつものように思い切りため息をつかれた。

「しあわせが逃げるぞ」
「…誰のせいだ。」
「……安室さんは友達だってば。」
「何度言えばわかるんだ。安室くんだって男なんだ。」

何当たり前のことを言っているんだ。
俺だって男だしお前も男だろう。
頭にはてなを飛ばしていると再びため息。

「なんでそんなに自分のことになると無防備なんだお前は……」
「……何をいっているんだ…?」

お酒の効果も相まってもうほとんど頭が動かない。
安室さんをなんでこんなに警戒しているのかわからないけれど何もされていないんだからしょうがない。
それに安室さんはお前や俺と違ってホモじゃないのだ。
こいつは世の中の男が全員ホモだとでも思っているのだろうか。

「…あまり心配させないでくれ」
「……?心配いらないぞ?」
「ならもっと自衛というものをしてくれないか。もう安室くんと食事に行くのはやめてくれ。」

玄関に座り込んでいると、前から恋人に抱きしめられる。
見た目は昴さんのままなせいで一瞬体が強張ったけれど、そろりと控えめに背中をぎゅっと握った。

「……どうして安室くんに対しては警戒できないんだ?」
「昴さんにトラウマがあるのはお前のせいだ!」
「何かされてからじゃ遅いんだぞ。」
「安室さんはなにもしない…」

俺の言葉に、恋人は再びため息をついた。
一体なんだというのだ。
それに食事はいつも俺から誘っているわけじゃないし、あんな困ったような顔で誘われたら俺じゃなくても断れないはずだ。
しばらく抱き着いていると怒りの感情もどこかにいってしまって、恋人の体温が気持ちよくてうとうとと意識が遠くなってきた。

「…じゃあ秀一も一緒にご飯行こう……もう寝る…」
「酔っているお前に話が通じないのはよくわかった。」
「……ん…」

今度は秀一に横抱きにされる。
安室さんの時はあんなに怖かったのに、恋人にされるとなんだか安心してしまう。
半分寝ながら俺は恋人の胸に縋った。

「………秀一は安心する…」
「……、…明日になったらきちんと言い聞かせてやるからな。」
「…んー。……秀一好き……」
「……はぁ。」

そのまま恋人の腕の中で眠りについた俺は次の日きっちりと恋人のお説教に付き合わされることになるのだけれど、なんだかいつもより少しだけ優しかった気がする。