×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
魔が差す

「ん、ん……?」

なんだか玄関で物音がした気がする。
降谷が帰ってきたのだろうか。今回は長かったな…多分相当疲れているだろう。
そう思いながらもぞもぞとベッドで動いて少しだけ目を覚ます。
久しぶりに会うのだからちゃんと友人を迎えてやろう。
そう思って起き上がり、自室から出て眠い目をこすりながらぺたぺたと廊下を歩いた。

「おかえり降谷。」
「…………ただいま…」

どうやら、仕事が立て込んで数日ぶりに帰宅した友人は相当疲れているようだ。
玄関で座り込んでぐったりとしている。
完全に参ってしまっている様子にすこしだけ同情した。

「今回は長かったな?降谷。」
「……もうダメ…死んでしまうかと思った…」
「大丈夫かよ…。目の隈すごいぞ…?」

友人に目線を合わせて屈んで、顔を覗き込むといつもの澄ました顔はどこへやらといった様子だ。
眼の下に隈が出来ていて、イライラのせいか目つきがものすごく鋭くなっている。
目が座っているというのだろうか…。
こいつにキャーキャー言っている女性たちに見せてやりたかった。

疲れている様子を見ていると毎回かわいそうになってくるが今回は本当に疲れているようだ。
こいつは無理をしすぎなのだ。
公安に探偵にスパイに、喫茶店でアルバイト…完全に化け物だ。
俺なら絶対やっていける気がしない。いつも心の中で体力バカと呼んでいる。
本人に言ったら絶対に怒られるから言わないけれど。


「おい。降谷、大丈夫か?」
「……ダメ…もうダメ…」
「何か俺にできることあるか?なんか欲しいものとか…?」
「ヤりたい…」
「……は…?」
「セックスしたい…抱きたい……」
「性欲か…それは俺にはどうしようもない……すまん……」

疲れ切った友人の助けがしたいと思って、手伝えることを聞いたのだが返って来たのは想像の斜め上だった。
疲れすぎてこいつはもうダメみたいだ。
あぁ…、睡眠か食欲なら助けてやることができたのだが…すまない…。
とりあえず、いつものように口に食べ物突っ込んでベッドに放り込んでおけば問題ないだろう。

「降谷、飯にしよう。な?」
「嫌です…もう我慢できない。」
「…へ!?うわぁ!?待て待て。早まるな!」

完全にへばっている友人をキッチンまで運ぶために、肩に手を近づけると突然手を掴まれてその場に押し倒された。
こいつ…、完全に疲れでおかしくなってる。
俺はこいつの性欲を満たしてやれる可愛くて柔らかい女じゃない……男だ。そんなことは一目見ればわかるはずなのだがこの友人にはもう見境というものがなくなっているようだ。
俺には友人が一瞬の迷いによって一生の傷を負わないように配慮してやる使命があった。

「おい降谷!やめろ。正気になれ!!」
「だいじょうぶ。優しくします…」
「違うそういう問題じゃない!」

ダメだ。日本語が通じない。
俺は床に押し付けられている手首を動かそうとするが、疲れているくせに物凄い力で抑えられているようでびくともしない。体格はほとんど変わらないはずなのにおかしい。
次に足をばたつかせて背中を蹴るけれど、足の間に体を入れられているせいで強く抵抗することが出来なかった。
本当にまずい。このままでは俺は友人に心の傷を負わせてしまう…

「わ、わかった。可愛い女を紹介しよう…足りてるかもしれんが…」
「なまえ、うるさい。……その口塞ぎますよ。」
「ふ、降谷!まずいって!やめ……んっ…」

俺が必死に解決策を練っていると、友人のムカつくほど整った顔が少しずつ近づいてくるのがわかった。
やばいことはわかっているのだが、焦って考えがまとまらない。
もうダメだ。そう思って、こいつのためにもキスだけは避けようと俺は顔を横に背けた。
首に顔をうずめられたかと思うと首筋にぬるっとした舌の感触がする。
不覚にもびくっと反応してしまうと、友人が起き上がって不意に楽しそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。
大変だ。こいつはもう俺の知っている友人ではない。
必死に足で抵抗するが、空中や床を蹴ることしかできなかった。

「ん…っは、ふるや……だめ、だ」
「…………」
「やだ……んんっ…ふ、あ」

再び首を舐められたと思うと、今度は耳に息を吹きかけられる。
その刺激にぞくぞくと体が反応した。
そう言えば俺も最近そういうことはご無沙汰だったかもしれない。
しばらく彼女もできていなかった。
つまり、この状況は非常にまずいということである。
耳をべろりと舐められて、刺激だけではなく耳元から聞こえる水音でも犯されているような気分になった。

「ふ、っぁ…マジで…シャレにならんよ降谷君…」
「いいから口を開けろ…」
「……っひ…んんっ」

それでもこの雰囲気に流されることなく、疲れ切った男同士でこれはきついと思って俺は交渉に出た。
しかし降谷は鋭い目つきで俺を脅してくるので思わず怯んでしまった。
その隙をついて唇にキスされる。
すまない、本当の降谷…貴様の心を守ってやることはできなかったようだ。
そんな馬鹿なことを思っている間に何度も角度を変えて噛みつくようなキスをされる。

「ん…む…ぁ…は、……んんっ!?」

なんだか少しずつ気持ちが良くなってきて、身体から力が抜けていく。
その瞬間を狙ってか口の中に舌が入って来た。
ぬるりとした感触に思わず腰が跳ねた。その反応に満足しているかのように友人はどんどんキスを深くしていくのだ。
びっくりして引っ込めている俺の舌など関係がないというように口の中をなぞられる。
奴の舌が上顎をなぞるたびに何とも言えない刺激が腰をびりびりと駆け抜けるのがわかった。

「は…ふ、るや…もやめ……んぁ…」

頭がどろどろに溶けてしまったかのように視界がぼんやりとしてなにも考えられなくなってくる。
さすがに、こういう経験はたくさんあるのかキスがものすごくうまいのがわかった、わかりたくなかった。
おれがぼんやりと悲しんでいる間にも降谷は俺の口の中で遊んでいるようだ。
口の端を唾液が伝ってとても不愉快だった。
酸素が足りなくて意識が遠のいてくる。

「あ……はぁ…あ、…っふ」
「なまえ…気持ちいい…」

意識が保てるギリギリのところで俺は友人からの熱いキスから解放される。
必死にあくあくと口を開けて酸素を取り込んだ。
涙がたまったぼやけた視界で友人を見つめると、ぎらぎらとした目で俺を見ながら余裕そうに口を開いた。
どうやら気持ちが良かったらしい。
俺は大切なものを奪われた感覚がしたけれどこいつの性欲は少しは満たせてやれたようだ。

「は……っ…よかったな…。もう、降谷…」
「まだ満足できない。」
「へ……!?嘘だろおい!やめろ!ここ玄関だし!」
「……わかりました。」

言うと、降谷は力の抜けた俺の体を持ち上げる。
体格が変わらない俺を普通に持ち上げるこいつの馬鹿力を恨んだ。
おいおいまさかこいつ…

「やめてください降谷様!……おいっ、玄関じゃヤダとかじゃねぇぞ!」
「………」
「聞けって!」

じたばたと抵抗するのもむなしく、俺は降谷の自室に連れてこられてベッドに放り投げられた。
すかさず奴が覆いかぶさってくるので俺は懸命に上に逃げる。
けれどベッドの端にぶつかって完全に逃げ道を失ってしまう。

「できることは何でもやるって言った。」
「降谷…んん…」

言ってないぞ!そう言い返してやろうと口を開いた途端に再びキスをされた。
友人の肩に手を置きながら抵抗をする。
その間に降谷はするすると俺の服を脱がしていった。
Tシャツをまくられて、スウェットをパンツごとおろされる。
必死に抵抗したのだが膝まで脱げてひっかかったズボンがたいへんマヌケな格好で非常に屈辱だ。
どうして俺は友人にこんなことをされているのか、どうしてこんなことになってしまったのか、再び気持ちよくなる脳みそで考えた。
そこで、降谷がベッドの横の引き出しからあるものを取り出したことで俺の脳は瞬時に覚醒することになる。

「っは……!?降谷!?おいそれ…」
「……ローションです。」
「やだ……無理…俺は無理…本当に無理…離せ…!」
「大丈夫です。痛くしません。」

どこまでも会話が通じない友人の座った目を見ながら、俺は真っ青になって抵抗を続けることになるのだ。