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騙し合い 02

「はぁ…最悪だ……」
俺は顔に手を当ててそう嘆きながら体中の痛みと戦っている。
あれから何度も何度も男にしつこく抱かれた俺は、途中からほとんど意識も薄れた状態で喘ぎ続けたのだ。
いったいどこで道を間違えてしまったのか…

「刺激的だったな。」
「うるせぇ!」
俺をこんな状態にしたこの男はけろりとして隣で裸のまま煙草を吸っていた。
それが余計に俺の機嫌を悪くしていた。
本当は俺がこいつをめちゃくちゃに抱いてやるはずだったのだ。
喘ぎ続けたせいで喉はガラガラであるし、腰は痛いし、さらに最悪なことに体に痕までつけられて、プライドを踏みにじったこの男のことが俺は大嫌いだった。

「もういい。」
「おい、どこに行く気だ」
「シャワーだ!ついてくんな。…うわぁ…!?」
「だから言っただろう。」

俺はイライラしながら体を起こしてシャワーを浴びようと地面に足をつけた…が、足に全く力が入らなくて床に座り込んだ。
なんだ…これ…。
足に力を入れようとすると、がくがくと震える。
まるで自分の足ではなくなってしまったようだ。

「大丈夫か?」
「うるさい。触るな自分で立てる。」
「立てないから君はそんな恰好をしているのだろう。」
「………」

ああ言えばこう言う。
俺は男に抱き起こされてベッドに戻されながら、さらにイライラを高めていった。
いったい誰のせいでこうなったと思っているのだ。
あんなに馬鹿みたいに何度も何度もしつこく抱かれなければ、俺は今頃この男の頭を思い切り殴ってこのホテルから出ていたにちがいなかった。

「声、ガラガラだな。」
「誰のせいだ」
「君の声は嫌いではない。」
「そうかよ。」

口説くような男の言葉を、耳を通さないで受け流す。
先ほどまでの行為で、こいつの口からは恥ずかしいセリフが戸惑いなくすらすらと出てくることに気づいたのだ。
本当に嫌になった。

「水、飲むか?」
「あぁ……飲む……んんっ!?」

男が水を差しだしてくるので俺はそれを受取ろうとした。
喉がからからだったのだ。
しかし、その手が空を切ったと思うと突然捕まれて、男に噛みつくようなキスをされた。
何度も何度も角度を変えて、男はキスをしてくる。
だんだん気持ちが良くなっている自分に気が付いて、なんとか思いとどまって意識を戻す。

「ん……んっ…ふ…っは、ふざけんな!水だ!」
「あぁ、すまない。」
「もういい。はやくそれを渡せ…!ん…むうっ」

ふざける男に俺は腹を立てた。
一体どういうつもりなのかまったくわからない。
声を荒げながら水の入ったグラスを奪おうとすると、男は自分の口で水を含んだと思うとそのまま俺に再び口づけた。
先ほどの熱いキスとは対照的に、口の中に少しずつ流れて来る冷たい感触が、なんだか心地よいと感じてしまう。
口の端を水がこぼれていくのがわかる。

「ん…っ…んん…ぁ…ふ…」
男はそのまま俺の口の中に舌を入れてきた。
驚いて体が跳ねるのがわかった。
なんとか逃げようと俺は体を後ろに引くが、男の手が頭の後ろで俺の動きを封じていてそれは叶わない。
グラスが床に落ちる音がどこか遠くに聞こえた。

「んぁ…っふ…やめ…ん…ぁ…も…、」
彼は角度を変えながら、舌で俺の口の中をかき回した。
上あごをなぞられるたびにぞくぞくと腰が疼く。
何度も何度も俺のプライドを踏みにじる男が本当に憎らしくて早く解放されたくて、俺は男の舌を思い切り噛んでやりたかったが酸素が少しずつたりなくなる苦しさと、刺激によって力が入らない。
ドンドンと力のない腕で男の胸を叩く。

口の端を流れる唾液を親指で拭われながら、俺は少しずつ完全な敗北を感じていた。
こいつには叶わない、と
そして、本当に苦しくなってくらくらしてきたところでそっと名残惜しむように男の唇が離れていくのだ。
口の間を糸が繋いでいた。

「は…はぁ…てめ……」
「ほぅ、君は何をしても強気だな。好みだ。」
「う…るせ…」
くたりとする体を男に抱き留められながら、俺は思い切り奴を睨んでやる。
体調が戻ったら本当に覚えていろ。

「まだ、そんな顔が出来るとはな。」
「おねがい…です。もうやめてください。」
「おや、また猫を被るのか。」
「本性を出すとあなたが元気になってしまうので。すみません。」
「いや、これはこれで…」

興奮する。

「なまえ……安心しろ、まだ夜は長い。」

再びギラギラと欲情の色を見せながら俺を組み敷いてくる奴の瞳を見ながら、俺は対照的に絶望の瞳を向けるのである。