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「#エロ」のBL小説を読む
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※いつものです
※ちょっとだけ注意
※ほんのりですがゼロティーのネタが入りますので、まだ読んでいない方は注意してください。


彼の家の前に立ちながら首を傾げた。
先程から何度チャイムを押しても反応がないので、少しだけ肩を落とす。
流石にいきなり押しかけても会えるわけないか。
兄さんも最近帰ってきていないし、お仕事忙しいのかな。
そう思いながら本当になんとなくドアノブに手をかけると、ゆっくりとドアが開いていったので思わず目を見開いた。
何故か鍵をかけていないようだ。

「あれ…開いてる…?風見さん?」

なんて不用心なんだ。
そう思いながら恐る恐る中を覗き込むと、家主は相当お疲れの様子で帰ってきたらしい。
玄関では乱暴に脱ぎ捨てられた靴と投げるように置かれた鞄が僕を出迎えてくれた。

「風見さーん。入りますよ?」

呼びかけても全く反応がないので、仕方なく中に入れさせてもらった。
散らばった靴を綺麗に並べてから鞄を持ち上げる。
そして、昼なのに少しだけ薄暗い廊下をゆっくり歩いた。
ソファーのある部屋を覗き込むと、昨日はお酒を飲んでいたらしい。
ビールの缶がたくさん転がっていた。
けれど肝心の本人は見当たらない。

「どこかな…まだ寝てるのかな?」

そう呟きながら廊下を進んでいく。
そして僕は、未だに入ったことのない寝室の前でピタリと歩みを止めた。
残るは、この部屋のみだ。
よく分からないけれどなんだか緊張する。
胸の前で少しだけ手を組んでから深呼吸をした。
それから、控えめにドアをノックする。
相変わらず反応がないので、恐る恐るドアノブに手をかけるとゆっくり開いた。

「あ…寝てる」

僕の緊張はどうやら杞憂だったようだ。
ベッドの上で疲れきったように体を預けて眠る彼を視界に入れた途端、安心感が押し寄せた。
それと同時に、鍵が開いている家に勝手に上がったりして。もし泥棒でもいたらどうするつもりだったのだ、と今更な恐怖心が頭を支配する。
いつも兄に警戒心を持てと怒られてしまうのはこういう所が原因なのだと思う。
頭の中で少しだけ反省した。

「風見さんで良かった…」

そう呟きながら鞄を持ち直して、眠りこける彼にゆっくりと近寄った。
充分に休めていなかったのか、目の下のクマが痛々しい。
寝ている時も変わらず眉間に寄っている皺を見て、相変わらずの様子に少し笑ってしまった。
床に落ちてしまっているタオルケットを拾い上げてから、起こしてしまわないように彼の体に優しくかけた。

「お疲れ様です」

静かに話しかけると、彼の気持ちよさそうな寝息だけが返ってくる。
なんだか寝ている時は子供みたいで可愛らしい。
そう思いながら一息ついた。とりあえず、これからどうしようか。
起こすわけにはいかないけれど、鍵を開けたまま帰るわけにもいかないような気がする。
とりあえず鞄を壁に立てかけようと思って、寝ている彼に背を向けて歩き出した。
次の瞬間。
どこから伸びてきたのか、突然腕を引かれて体が思い切り傾いた。

「わっ!?」
「…」
「え、あっ…鞄っ!」

急に視界がまわって、思い切り目を瞑る。
その時に思わず振り上げた手から鞄が離れていった後、床にぶつかったそれが物凄い音を立てたのが耳に入ってくる。
もし大事なものでも入ってたらどうしようと、どんどん血の気が引いていく。
急いで体を起きあがらせようとするのと同時に、思い切り手首を掴まれてシーツに縫い付けられた。
そこで初めて、自分が彼に組み敷かれていることに気がつく。

「え、あれ…?か、ざみさん…?」
「…、…」
「おこってるの…?」

恐る恐る見上げると、メガネをしていないせいだろうか。
いつもより目つきの悪い彼が射抜くような視線をこちらに向けていた。
いくら話しかけても返事が返ってこなくて、だんだん怖くなってくる。
僕は何か悪いことをしてしまったのだろうか。
勝手に家に上がったことを怒ってるのかな。

「怒ってるなら僕、謝る…から」
「煩い…」
「え…?か、ざみさん…?」

弱々しく謝っていると、彼の口から寝起きでかすれた低い低い声が漏れた。
やはりプライベートな部屋に入ってしまったことを怒っているに違いない。
嫌われたらどうしようと、少しだけ泣きそうになった。
すると突然、彼の片手が服に伸びてきて僕が着ているシャツのボタンをひとつひとつ外し始めた。
驚いて目を見開く。
何をされているのかに頭が追いついていかなくて、しばらくその骨ばった手が器用にボタンを外していく様子を黙って見ているしかなかった。

「あ…、ちょ、ちょっと!?」
「……」
「やめてっ…ひっ…!?」

しばらくして立ち直った時には、いつの間にか無防備に肌を晒している格好になっていた。
自由な方の手で彼の胸を一生懸命押して抵抗していると、その大きな手が優しく腰を撫でる。
引き攣った声が口から漏れたのが、嫌でも耳に届いた。
少しだけカサついた手が肌の上を優しく滑っていく。
段々変な気分になってきて、勝手に口から漏れる上擦った声が静かな部屋に響いた。

「ん、っ…ぁ…か、ざみさ…も、ゆるし…」

指を絡められてシーツに縫い付けられている左手も、抵抗しようと必死に動かす。
けれど時折指の間を擦られるたびに力が抜けていって。
必死になって足先をシーツに擦りつけて、なんとか意識を保とうともがいた。
そのうち、少しだけぼやける視界の中で自分の胸元に彼の顔が近づいてくるのが見えた。
それを眺めているとチクリとした痛みが体を襲って、その刺激に思わず喉を反らした。

「ひっ…!?な、にっ痕…つけ…?」

こんな彼、僕は知らない。
少なくともこんなに大胆な事するような人じゃなかった、はず。
もしかしたらこの人は俺の知っている風見さんじゃなくて、誰かの変装なのでは。
それともまさか、寝ぼけているのか?
そんな考えが頭をよぎったけれど、与えられる刺激に段々頭が動かなくなってきた。
気持ちが良くてぼんやりする。
肌に吸い付かれるたびに彼の髪の毛を掴む力が次第に弱くなっていった。
全身から力が抜けていって、痺れる後頭部をシーツに擦りつける。

「も…や、めて…ッ…許して…っ」

その時、だった。
場の雰囲気に似つかわしくない大きな着信音が部屋に響いたのは。
すると彼はぴたりと動きを止めて、右手を伸ばして携帯を拾い上げた。
そして慣れたような手つきで画面に手を滑らせてからそれを耳に当てる。

「……はい。風見です……ふ、降谷さん?」

兄さんからだ。
彼の口から兄の名前を聞いた途端、ぼんやりしていた意識が一気に現実に引き戻された。
僕がここにいるのがばれてしまったらまずい。
そう思った僕は彼に組み敷かれたまま、乱れた息が漏れてしまわないように必死になって両手で口を塞いだ。
とにかく兄さんにばれないようにしなければ。

「すみません…二日酔いで…はい…気を付けます」
「…っ…」
「え?なまえくんですか…?私は…存じ上げ…な…」

風見さんは耳に当てていた携帯を自身の肩で挟みながら、ベッド脇に置いていたメガネに手を伸ばした。
そして拾い上げたそれを掛けてから、組み敷いている僕を見た途端。
信じられないようなものを見たとばかりにその目が見開かれた。
目が合った僕は口元を手でおさえながら、一生懸命首を横に振る。
ここにいることは絶対に言わないでくれ。そう伝えたつもりだった。


「…っ…あ…はい。すみません。寝起きなもので…」
「……」
「はい、はい。…なにかわかったらまた連絡します…はい。」

誤魔化す彼の声を聞きながら少しだけ顔を逸らした。
すると僕の顔の横に付いたたくましい腕が視界に入って、すこしだけドキドキする。
カーテンの閉まった薄暗い部屋の中、兄さんにも内緒で二人だけで過ごす秘密の時間。
しばらくぼうっとしていると、肌を晒しているのが段々恥ずかしくなってきて、タオルケットを掴んでから自分のほうに引き寄せた。
いつの間にか通話は終わっていたようで、気まずい沈黙が部屋を支配していく。

「…なまえ、くん…?ど、うして…」
「もしかして、さっきまで寝ぼけてたの…?」
「え?」

まるで僕がここにいることに今気が付いたかのような彼の様子に、今度はこちらが驚く番だった。
それなら、さっきまでの彼の様子がおかしかったことにも説明が付く。
僕のその言葉を聞いた彼の視線が、ゆっくりと僕の体に移っていった。
改めてまじまじと見られるとなんだか恥ずかしい。

「ごめんなまえくん。ちょっと…見、せて」
「…あ」

彼の手がタオルケットを僕から奪い取ってしまった。
隠していた肌が、外気に晒される。
先程彼につけられた鬱血痕が僕の視界にも入ってきて、少しだけ顔が赤くなった。
すると覆いかぶさっている彼の喉からきゅう、と情けない音が聞こえてくる。
反射的に見上げると、先ほどよりも眉間の皺を濃くした彼と目が合った。

「すまない…」
「か、ざみさん?」

彼は消え入りそうな声でそう一言だけ呟くと、自身の体を起き上がらせてから僕のシャツのボタンをひとつひとつ閉じていった。
なんだか脱がされるよりも恥ずかしい気がする。
思わず視線を逸らすと、床の上に投げ出されたままの鞄がこちらに向かって静かに主張しているのが見えた。
大事なものとか、入っていなかったのだろうか。
僕は、それだけが心配で仕方がなかった。

「なまえくん、起き上がれる?」
「…うん」

彼の手が、僕の体を優しく起き上がらせた。
相変わらず目の下の隈が目立っていて、起こしてしまったのが本当に申し訳ない。
もっと休んでいてほしい。
もしかしたらお酒ばかり飲んで、ちゃんとしたご飯も食べていないのかもしれない。
彼の顔に手を伸ばそうとすると、それよりも早く伸びてきた彼の腕に体を強く抱き寄せられた。

「わっ…!?」
「本当に、すまない。怖かった、か…?」
「ん…ちょっとだけだよ…。それに、僕がちゃんと抵抗しなかっただけ。風見さんには、抵抗しないから」
「え、は…?そ、そうか」

彼の香りに包まれて、ゆっくりと目を細める。
恐る恐るその広い背中に腕を回して答えた。
消え入りそうな彼の声がなんだか痛々しくて、ちょっとだけ嘘をついてから安心させるように背中を撫でる。
首筋に頭をすり寄せると、僕を抱きしめる力が強くなった。
勝手に家に入った僕がいけないのだから、風見さんが気に病む必要はないのに。
僕は、風見さんになら何されたって構わない。
そんなこと言ったらきっと怒られるから口には出さないけれど。

「…それに」
「ん?」
「寝ぼけながらも痕付けるなんて、風見さんのえっち…」
「なっ…!?えっ…ん、な…!?」

やっといつもの雰囲気に戻った。
また、彼は飽きずに赤くなっているのだろうか。
困惑したような彼の声が耳に入ってきて、楽しくなって思わず笑ってしまった。
密着した服越しに伝わってくる彼の鼓動は相変わらず早くて、自分の鼓動もそれにつられるように早くなっていった。

「…次は、意識がある時でお願いします。」
「だから…君は…!…っ…そもそも、何故ここにいるんだ。さっきは咄嗟に誤魔化せたからいいものの、降谷さんにばれたらどうなるか…」
「それなら僕も言わせてもらうけど、戸締まりはしっかりしないと駄目だよ」
「くっ…」

言い返せないのが悔しかったのか、彼は唇を少しだけ噛みしめた。
普段は見せない子供みたいな仕草が可愛らしい。
気を抜いた姿を見せてくれる彼が愛おしくて仕方がない。
もう一度だけ思い切り抱きしめてから、名残惜しいけれどゆっくりと体を離した。
勿体ないけれど、疲れている彼にこれ以上無理をさせるわけにはいかない。

「不用心だって、兄さんにばれたらお説教だね」
「…そうだな。…なまえくん、もう帰るのか?」
「ううん。もうちょっといる。ご飯作るから、風見さんはまだ寝ててもいいよ」

そう言いながら、彼に背を向けてさっき放り投げてしまった鞄を拾い上げる。
いつまでたっても返事が返ってこないのが不満で彼の方に視線を戻した。
すると彼は僕の方を見ながら、眉を下げて嬉しそうに笑っていた。
その様子があまりにも眩しくて、目には見えないはずの幸せの形を見た気がした。