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今日も彼はハムサンドを頬張ってぼんやりといつもの席に腰をおろしていた。
あれ以降あの笑顔を彼が見せることはなく、どうしてあの時僕に対して笑ってくれたのか全くわからなかった。
ずっと彼は無表情を貫いていて、そもそも笑顔どころかその他の表情すら見せたことがない。
僕はどうしても彼の笑顔が見たくて頭を悩ませていたのだけれど、どうしてこんなに彼に執着しているのか自分でも正直わからなかった。

そして、最近僕にはもう一つ大きな悩みがあった。
この店には僕目当てで来店してくれる女性がたくさんいる。
それに関しては僕も男であるし、仕事に支障が出ない程度なら悪い気はしなかった。
しかし彼が見た目を変えて店にやってきてから、そんな彼を見る女性たちの目が変わったのだ。

「ねぇ、いつもいるあの子すごい可愛くない?」
「わかる。私も思ってた!」
「話しかけにいきたいなー」
「え〜?」

そんな会話を最近はよく耳にするようになった。
どうしてだかわからないけれど、「まずい」そう思った。
彼が大事なお客様であり、僕のせいで迷惑をかけるわけにはいかないと感じたのかもしれなかった。
だからそんな声が聞こえたらすかさず僕は彼女たちに近づいていくのだ。

「おや、僕以外の男によそ見ですか?」
「やだぁ。安室さん、嫉妬ですか?」
「そうかもしれませんね。」
「やだー!かわいい!」

大抵の女性は僕がそう言ってやれば彼から完全に意識をそらして僕に夢中になってくれた。
僕を軽く叩くふりをしながら楽しそうに笑う彼女たちに、よかったと安心しながら僕はお返しに微笑むのだ。

時折、彼のほうをちらりと盗み見れば、ハムサンドを頬張りながら相変わらずぼんやりとしている。
先ほどまでと違うのはこちらを向いているということだろうか。
もしかしたら、うるさくしすぎたのだろうか。
それとも、僕の行動がばれたのかもしれないと少しだけ緊張した。
彼の瞳からは感情がほとんど読み取れなくて、見ているとなんだかそわそわと落ち着かないのだ。

そういえば彼はいつもハムサンドを食べているが、食べ進めるスピードはものすごく遅くて、その行動はまるで食事をするということに慣れていないかのようだ。
その証拠に彼の体はあまりにも細くて触れたらすぐに壊れてしまいそうであるし、肌も雪のように白い。まるで人形のようだった。
もしかしたら、とても病弱で病院での生活が長かったのだろうか、なんて考えてしまう。
僕は、次は彼にもう少し食べやすくて栄養のあるものをおススメしようかなんてお節介なことを考えながら、楽しそうに僕に笑いかける彼女たちがもう彼に近づくなんて考えることのないように飛び切りの笑顔をお見舞いしてやるのだ。


この時の僕は、自分の中での森山晶太の存在を占める割合が少しずつ少しずつ大きくなって、じわじわと自分を変えてしまっていることにまだ気づけないでいる。