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警戒心


「晶太、何かされてから警戒するのでは遅いのだぞ」
「は?なんの話だよ」
「……はぁ…」

これは前からの秀一の口癖なのだが、俺にはなんの話なのだかさっぱりだった。


ある日俺はコナンくんの親戚?のお兄さんである新一兄ちゃんという人の家に来ていた。
住んでいる本人が不在の家に入るのは、何とも居心地が悪いものだ。
新一兄ちゃんとはどうやら有名な高校生探偵で、今コナンくんと住んでいる蘭さんの彼氏?らしい。
一度だけ写真を見せてもらったことがあるが、かなりのイケメンだった。
イケメンというだけで腹立たしいのに、可愛らしい彼女がいるなんて高校生の分際で生意気だと思う。
そして、心なしか彼にコナンくんの面影があるのは、さすが親戚といったところだろうか。
きっとコナンくんもああいうイケメンに育って彼女をつくるのだろう。未来の敵だ。

「これをこの机に置いておけばいいのか…?」

俺がこんな面識のない人の家に来てしまっているのには理由があった。
大学からの帰りに今日はたまたまこの道を通ったのだが、すると隣の家に住んでいる灰原哀ちゃんにばったりと出会ったのだ。
なんだか彼女の体に対しては少しだけ大きめの箱を抱えていた。

「あれ、どうしたの?大丈夫重くない?俺が持とうか」
「あら、紳士的なのね。なら、この箱を隣の家のソファーのある部屋の机の上にでも置いて来てくれるかしら。」
「え?勝手に入ってもいいのかな」
「ええ。これが鍵よ。」

どうやら哀ちゃんはどうしても工藤邸には入りたくない理由があったらしい。
俺に箱を任せるとそのまま博士の家へと入っていった。
俺はあまりの展開に箱を抱えてしばらく呆然としていたが、覚悟を決めて中に入って今に至るというわけだ。

それにしても大きな家だ。
イケメンで金持ちとは…うーむ…モテそうだ。
それにこの家、誰も住んでいないにしてはとても綺麗だった。主人はいなくてもお手伝いさんが通ってこまめに掃除をしていてもおかしくない。

「……ん?今なんか上から音が…」
自分の家とは比べ物にならないような豪邸を前に呆けていると、なんだか二階のあたりから物音が聞こえた。

「まさか…どろぼう…」
しばらく誰も住んでいないと聞いているし、こんな大きな豪邸だ。泥棒に狙われてもおかしくないかもしれない。
泥棒だとしたら居合わせた俺が警察に連絡しなければいけない。
それにもしかしたら俺の考えた通り、お手伝いさんかもしれない。だとしたらあいさつくらいはしておいた方がいいのではないだろうか。

そして俺は、自分には力がないだとか、運動神経が最悪だという事実を忘れ、上にいるのはお手伝いさんであるという謎の確信をもって二階へと上がった。

「あれ?誰もいないのかな〜。おかしいな…」
二階に上がり、うろうろと広い家の中を回ったのだが、どうやら俺の勘違いだったのか、何もないようだ。
そこでやっと、もし上にいたのが本当に泥棒で、鉢合わせたときに刃物でも持っていたらどうするつもりだったんだ。という考えが浮かんだ。
俺じゃ到底太刀打ちが出来ない。考えなしに行動するのは俺の悪い癖だ、次からは気を付けなければならない。
そう考えながら俺は用事も済ませたことだし帰ろう、と来た道を引き返すことにした。

「へ…、うわ、うわぁ!?!?」

長い廊下をきょろきょろしながらゆっくり歩いていると、通り過ぎた部屋のドアから手が伸びてきたらしい。
突然腕をつかまれた俺はまともな抵抗もできずに部屋の中に引きずり込まれた。

「な……な…っ…」

どうやらそこはベッドルームだったようだ。
すごい力で引っ張られたかと思うと、そのまま体がベッドに投げ出され、ベッドに当たった反動で身体が弾んだ。
その後、ドサリ、と上に誰か覆いかぶさってきたのが感覚で分かった。
思わず目をぎゅっと閉じていた俺はおそるおそる目を開けた。
すると真っ白な天井を背景に誰かが俺を見下ろしている、知らない人だ…
薄めの茶色の髪の毛に細い瞳、首元を隠すような服を着ている。そしてイケメンだった。

「……ひ…っ…ぃ…、」
明らかにこの家に住んでいる工藤新一ではなかったし、お手伝いさんという見た目でもない。
泥棒だ…その考えが俺の頭に浮かんでは消えた。
全身が硬直して動けない。
泥棒は俺が動かないのをいいことに俺の腕をするすると撫でると、両手に自分の指を絡めてきた。
両手の自由を奪われた俺は、もう完全に終わった。そう思った。
さらに、流れるような動作で足の間に体を入れられ、全身の動きを封じられた。
懸命に足をばたつかせてみるものの、足は空中やシーツを蹴ることしかできない。

「抵抗しないのですか?」
「ひゃ…ぅ…っ…や、やめてください…」
俺を拘束している泥棒は、俺に顔を近づけたと思ったら耳元でそう囁いてきた。ずいぶんと楽しそうだ。
全身がぞわぞわする。もしかしたらこの泥棒は変質者なのかもしれなかった。
怖い。
このまま殺されるかもしれない。その恐怖が全身を襲った。
思わず目頭が熱くなり、温かい涙が頬を伝っては落ちる。
21歳、大学生にもなってこんなに涙を流すのは恥ずかしくてしょうがなかったが、もう何が何だかわからなかった。

すると、俺の手を握っていた変質者の動きがぴたりと止まったかと思うと、俺の手の拘束を解き、片手の親指で俺の涙を拭いながら、なにやら首に手を当てた。

「冗談だ。驚いたか?晶太」
「…え………え?」
「すまない。泣くとは思わなかった。」

変質者から何故だかよく知った恋人の声が聞こえてくる。
なんだ、どういうことだ。

「なんで…秀一の声…あと、俺の名前…」
俺は変質者を見上げながらサッと顔を青くした。
この変質者はもしかしたら秀一のことを探っている悪いやつなのかもしれない。
最近何故だか音信不通で、どこにいるのか、生きているのかも俺にはわからなかった。
コナンくんに聞いてみてもなんだかはぐらかされてしまう。
おそらく何か事件でも追っていて生きてはいるのだろうという予想はあった。
この変質者は秀一のことを探ったうえで俺の存在に行きついたのかもしれない。

「……っひ…、俺は…なにも知らないです…」
「……晶太?何を言っているんだ?」
「秀一の声で話しかけるな変質者!!」
「……、は?」

それでも変質者は白を切るつもりのようだ。
身体を解放された俺は強気になり、枕を掴むとなるべく距離を置くためにベッドの端へと逃げ、攻撃の隙を伺った。

「……はぁ…悪かった。これでどうだ。」
「……え?……??え???秀一…、え?本物?」

変質者が顔のあたりを触ったかと思うと変装が取れ、中から見知った顔が出てきた。
驚いた俺は思わず恋人(?)にいそいそと近寄ると顔のあたりをぺたぺたと触った。
目の下の隈をなぞり、顔を近づけて首筋のにおいを嗅ぐとよく知った煙草の香りがした。
本物だ、そう確信した俺は安心して力を抜き、恋人の腕の中に倒れ込んだ。

「お、おい。大丈夫か」
「ふざけんな。大丈夫じゃねえよ…死ぬかと思った…。」
「悪かった。」
「お前突然いなくなったと思ったら……後で覚えてろよ。」
「お手柔らかに頼む。」

俺は体を支えてくれている秀一に完全に体を預け、背中に手をまわした。
会えていなかったことはあまり気にしてなったが、なんだか懐かしい香りと感覚だと思った。
本当にびっくりした。こいつの冗談はシャレにならない。
その後でたっぷりと文句を言ってやり、いない間何をしていたのかも聞き出した。
大事なところははぐらかされたが、簡単に言えばなんだかやばい組織に追われていて、世間的には死んだことになったらしい。
これからは沖矢昴として生活する、と。
なんだ、お前死んでたのか。とそんな冗談を言ったのを覚えている。

それから、沖矢昴にとんでもないトラウマを植え付けられた俺はその後も慣れずに「昴さん」にあまり近づけずにいるというわけである。