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不透明ソーダ05


※モブに無理矢理触られる表現があります。注意。

あれから無抵抗の俺が連れてこられたのは大きなマンションの一室だった。
ダブルサイズのベッドと簡易的な机があるだけのシンプルな部屋が丸々一つ俺のために用意された。
部屋だけなら一見普通に見えるけれど置かれている状況は普通ではない。
ここに押し込められてすぐに足枷をはめられると、さらに鎖で繋がれて歩いてもドアまでは辿り着くことができないようにされた。
そのせいで動くたびに足元から鎖の擦れる嫌な音がする。

「俺のことなんて、誰も助けに来ないよなぁ…」

何も考えずに勝手に飛び出して、勝手に捕まって。
あれから数日経った今もこの無駄に大きなベッドだけが俺の居場所だ。
秀一に借りていた大きめの部屋着は取り上げられてしまって、代わりに新しい部屋着を着せられた。
部屋着どころか、持ち物だって全部男に持っていかれてしまった。

「晶太」
「…っ…」

部屋のドアがノックされて俺の返事も待たずにゆっくりと開いた。
反射的に体が震える。
壁に背中を張り付けてなるべく距離を取ろうとすると、足元の鎖が煩く音を立てた。
ストーカーは俺の姿を確認して嬉しそうに笑う。
気安く名前で呼ばないでほしいのに、声に出すことが出来ないでいた。

「ちゃんと大人しくしていられたんだね」

俺を連れて来たそいつは、やっぱりあの時告白してきた男だった。
その体格の良さは、押さえ付けられたら自分には抵抗できないとすぐに分かる程だ。
どうやら俺に拒否されているということにも気が付いていない様子で、完全に現実が見えていない。
初めのうちは逃げようと必死になっていたけれど、時間が経つにつれてその気持ちも無くなってしまった。
いつまでこの一方的な恋人ごっこを続けるつもりなのだろうか。

「ねぇ、ところで指輪はどうしたの?お揃いだったんだよ。手紙にも書いたよね?」
「っ…知らない…」
「…」

冷たい声が静かな部屋に響いた。
俺は俯いたまま小さく首を振ることしかできない。
まさか恋人に没収されて、手紙も読んでいませんなんて伝えられるはずもない。
ドア付近に立ったまま俺の答えを聞いた男の顔から笑顔が消えた。
怖くて、自分を守るために体を縮めた。
もし逆上した男に手を上げられたりしたらこちらに抵抗する術はない。

「無くしたの?」
「あの…ごめんなさい…ご、め…ん」
「仕方がないな全く、また買ってあげるからそんな泣きそうな顔しないでよ」
「え?」
「晶太のためなら指輪くらいいくらでも用意するから」

恐怖で何度も謝る俺に男はそう言った。
狂っている。
秀一を人質に取って俺のことを監禁までしているくせに、こいつは完全に俺を手に入れた気になっている。
震える体を必死に押さえつけた。
男がこちらに近づいてくる様子がないのがただ一つの救いだ。

「やっと顔色が戻ってきたね。ご飯はしっかり食べないとダメだよ」
「もう、家に帰して…」
「何言ってるの?ここが晶太の家だよ」
「でも…」

言い返そうとするともう一度男の目から光が消えた。
無意識かもしれないけれど、これがこの男の脅し方なのだ。
恐怖で喉が塞がって思わず押し黙った。
まだ何もされていないけれど男がいつ豹変するか分かったものではない。
食事だってこうやって脅されて無理矢理食べているようなもので、食欲なんかほとんどない。
男の言うように自分はこのままここに住むことになるのだろうか。
内側から開けられないドアも、窓も、無力な俺を完全にこの檻に閉じ込めていて、誰かが助けに来るなんてそんな考え浮かびもしなかった。

「本当は君を繋ぎたくなんかないんだけど…晶太が逃げるなんて考えなくなった時に外してあげるからね」
「はい…」

そう言うと男は扉の向こうに消えていった。
ドアが閉まる重苦しい音の後、鍵の回る軽い音が静かな部屋に響く。
俺が逃げようと考えなくなった時。
それは一体いつで、その時自分はどうなってしまっているのだろうか。
足枷に触れてみたけれどやっぱり自分の力では外せそうにはなかった。
南京錠の冷たい感触が恐ろしい。

「秀一…」

ほとんど動いていないはずなのに疲労感がひどい。
俺を監視する男の目がなくなったのに安心して、真っ白なシーツに横になった。
柔らかいベッドが体を受け止めてくれる。
大切な恋人の名前を呟きながら目を閉じると、意識がゆっくりと溶けていった。
もう、これが悪い夢だなんて甘いこと考えられそうにない。


「ぅ、ん…?」

急に意識が浮上した。
微睡みながら体を動かそうとしたけれどやけに重くて動かない。
ここが何処で、自分がどういう状態にあるのかすぐには思い出せなかった。

「ぇ?…っぁ…?」
「晶太おはよう。よく眠れた?」

一定の距離から聞いていたはずの男の声がすぐ近くからする。
目を開けると薄暗い部屋の中、仰向けで寝ていた体に男が乗り上げていた。
寝起きですぐに反応することができなくて、ぼやける視界の中、こちらに話しかける男の顔をぼんやりと見つめる。

「っあ、…!?」

それから状況を呑みこむと同時に恐怖が一気に押し寄せてきた。
喉から引きつったような音が漏れて、抵抗しようと必死に体を動かした。
けれどそんなにうまくいくはずもなく、両腕は知らないうちに頭上でまとめられてベッドに括りつけられていた。
混乱してしまってどう反応したらいいのか分からない。

「あ、何…これ…!?っ嫌…」
「ごめんね。乱暴なことはしないから」
「やだっ…何するの、嫌…誰か!!!た、すけ…」

頭上で縛られた手はいくら動かしても鎖の音が鳴るだけだった。
今まで何もされないから、完全に油断していた。
頭の中が真っ白になって頭を必死に左右に振る。
足をいくら動かしても体に乗られてしまっていては全く意味がない。
大きな骨張った手が服をゆっくりとたくし上げていく。

「やめて、お願い。お願いしますっ嫌だ、」
「晶太、可愛いよ」
「ひっ、触んないで、嫌っ」

同じ言語を喋っているはずなのに否定が全く伝わらない。
底の知れない恐怖に、呼吸が浅くなっていく。
カサついた手が優しく脇腹を撫でた。
鳥肌が止まらなくて、嫌で、苦しくて、必死に動かない両手を動かした。
嫌だ。誰か、助けて。
無駄にもがくたびに、自分が無力で一人ぼっちだということを嫌でも思い知らされた。
無機質な鎖の音が暗い室内に響いていく。

「晶太の肌、凄くすべすべだ。気持ち良い」
「ぅ、ぁ…やだ…助けて…あっ、嫌」

腹からゆっくりと肌を撫で上げられていく。
その過程で、部屋着が胸の上までたくし上げられた。
上半身が完全に外気に晒された。
男の両目が舐めるように俺の体を見る。
勝手に進められていく行為に頭が真っ白になって、一瞬抵抗を止めてしまった。
そうしているうちに力の抜けた両足が持ち上げられて、無理矢理左右に開かされた。

「ぇ、ぁ…?」

自分の身に何が起こっているのか全くついていけない。
秀一以外に触られたことが無いのに、俺はどうして知らない男に触れられるのを許しているのだろうか。
抵抗がなくなった隙をついたのか片足が男の肩にかけられた。
男は、驚いて目を見開いた俺を見てうっとりと目を細める。
足を動かそうとしたけれどもう既に遅かった。
ズボン越しに何か固いものが押し付けられて、とうとう自分の中の何かが切れた。

「っっ、触んな!助けてっ!っ嫌だ!っ秀一!しゅういちっ!たすけて!」
「晶太?」
「秀一っ…ダメ、嫌だ、触らないで!秀一!何処にいるの!」

首を振りながら何度も恋人の名前を叫んだ。
動く方の足を振り上げて男の肩を蹴り上げる。
足につけられた鎖が重たいけれどそんなこと気にしている余裕は残されていない。
けれどどんなに抵抗したところで、動きが制限されている状況では男の体はびくともしなかった。

「ねぇ、俺はそんな名前じゃないよ?」
「離せ!ふざけんなっ!変態、嫌だっ!」
「大丈夫だよ。ゆっくり覚えていこうね」

頬が知らない手に優しく撫でられた。
息が上がる。
何も考えられないけれど、とにかく抵抗しないとこのままでは自分はこの男に犯されてしまう。
シーツに触れる背中が熱い。

「お前なんか、俺は好きじゃないっ!離せっ!」

瞬間、男の目から光が消えたのを必死な俺は気が付かなかった。
もがくたびにベッドが軋んで、縛られたままの手首が痛む。
その時、男の手がこちらに差し出されたのを暗闇に慣れた瞳が捉えた。
指に摘まれているのは、半分ずつで色の違う錠剤。
目眩が止まらない。
一体なんの薬なのか、そんなこと考える余裕もなかった。

「っ…な、に…それ…」
「大丈夫だよ。すぐに終わるから、俺に任せて」
「嫌っ…いやだっ…!なんでもする!なんでもするから!こんなのやめてっ」

もうダメだと思った。
いくら女の子みたいに悲鳴を上げても誰にも聞こえない。
助けに来てくれない。
これ以上暴れたところで自分に勝ち目はない。
必死に顔を逸らしたけれど、抵抗しきれずに唇に錠剤を押し付けられた。
きつく口を閉じたけれど簡単に唇を割り開かれた。
歯に薬が当たって音を立てる。
もう涙を流す元気もなかった。

「晶太、口開けて。何でもしてくれるんだよね?」
「やっ…」

もう何もかも諦めたその時、閉じたままだった部屋のドアが悲鳴をあげるように軋んだ。
時が止まったかのように俺たちの動きも止まって、ゆっくりとそちらに視線を向ける。
やがて力で負けたドアがひしゃげて、乱暴に開け放たれた。
見たことのある光景に頭が付いていかない。
安心感で目の前がぼやけていく。

「あ、…っ」
「っ誰だ!」

絶望しすぎて、都合の良い夢を見たのかと思った。
そこに立ってこちらを睨みつけているのは、ずっと助けを求めていた恋人の姿。
薄暗い部屋に溶け込むような装い。
その中でエメラルドグリーンが見たこともないほど冷たく光っている。

「晶太。こいつに何をされた?」
「しゅ、…いち?…嘘…」
「お前…俺の晶太に勝手に話しかけるなっ!」

男の手から錠剤が落ちて、シーツの上を転がっていく。
腰を掴んでいた手が離れていくのと同時に、男が興奮した様子で立ち上がった。
持ち上げられていた両足が重力に従ってベッドに沈む。

「晶太。目、瞑ってろ」
「へ…?」
「出ていけ。俺達の部屋だ!」

秀一はこちらに目線を合わせることなく男を睨み続けていた。
俺がその小さな声を聞きとったのと同時に、興奮しきった男が棒立ちの恋人に勢いをつけて拳を振り上げる。
危ない。
そう思って思わず目を瞑ってしまった俺は結局、秀一の言った通りの行動をすることになった。

「ぐぁ、っ…!」

鈍い音と同時に誰かの苦しそうな声が聞こえた。
慌てて目を開けるとストーカーが腹を抱えて苦しそうに床に沈んでいた。
それを冷めた目で見降ろしていた秀一はすぐに興味なさそうに視線を逸らして、左手を振りながらこちらに歩いてくる。
体を動かすと鎖の無機質な金属音が男の唸り声と混ざり合った。

「秀一…俺…」
「ふざけんな、晶太。逃げろ…俺の晶太だ」
「チッ…うるせぇな…」

男はまだ俺を自分のものだと思っているのか心配そうに何度も俺の名前を呼ぶ。
秀一は鬱陶しそうにそちらに視線を投げた後、俺の寝るベッドに乗り上げた。
スプリングが軋む。
顔の横に手をついて、騒ぎ疲れてぐったりした俺の様子を確認した。
眉を寄せながらたくし上げられた部屋着を元に戻すと、優しく頬を撫でた。
それから、近くに転がっていた薬を見て目を細める。

「ぁ、俺…っしゅ、…いち…」
「晶太…ゆっくり息しろ」
「は、っ…ど、して…」
「…すまない。遅くなった」

助けられたという実感がない。
強姦されそうになった恐怖が消えずに、まだ震えが止まらなくて、心臓が煩く波打っている。
涙の痕を何度も指で擦られた。
小さな声で謝るその姿が俺よりも小さく見えて、触れようと手を動かしたけれど鎖が音を立てるだけだった。
謝らないといけないのは俺の方だ。

「秀一、これ外して。お願い…」

カチャリとわざと鎖を鳴らした。
俺の願いを聞いた恋人の手が動いて頭上に伸びてくる。
さっきまであんなに怖かったのに、秀一が近くにいるだけでこんなに安心できるなんて。
動くたび鼻を掠める強い煙草の香りがなんだか懐かしく感じた。
あんなに自分を苦しめていた南京錠がいとも簡単に外れて、両手が自由になる。
暴れすぎた所為か手首がひどく痛んだ。

「痛っ…」
「見せてみろ」
「いたい…」

うまく力の入らない手が秀一に持ち上げられた。
あいつが強く縛るものだからすっかり痺れてしまった。
皮がむけて血の滲んだ手首を他人事のようにぼんやり見つめていると、秀一は俺の体を優しく抱き起こした。
そのまま抱きしめられて初めて、体がすっかり冷たくなってしまっていることに気が付いた。

「お前…晶太に触るな…俺の物だ。やっと手に入れた、俺の…」

不意に、唸るような低い声が聞こえた。
床に倒れた男が何度も俺の名前を叫ぶ。
恐怖で固まる体を抱きしめる手に力がこもった。
秀一も少し掠れた声で俺の名前を呼んだ。
恋人に呼ばれただけでこんなに安心するとは思わなかった。
もう俺は一人じゃない。

「残念だったな。こいつは俺のだ」

秀一は苦しそうにひれ伏す男に向かって不敵に微笑むと、見せつけるように軽く唇を重ねた。