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早い者勝ち


「秀一…」
「…ん?」
「キス、したい…んだけど…だめ…?」

聞き間違いかと思った。
いつものように晶太とソファーで並んで座ってくつろいでいると、思わぬことを言われて目を見開いた。
何度か瞬きしながらそちらに視線を向けると俺の服を控えめに握りながら目を逸らす恋人の姿が目に入る。
頬がほんのりと赤くなっているのが見えて、くらくらと眩暈に似た感覚がした。
思わず顔を押さえそうになったのを堪えながら、持っている煙草を灰皿に押し付ける。
その間も晶太は俺の手に自分の指を絡ませて何か言いたげに擦った。
こんな誘い方、いったい何処で覚えてきたのだろうか。
恥ずかしがり屋の恋人にこんなに可愛らしくねだられて断る理由は全くない。

「今日はずいぶん素直だな?晶太…」
「あ…、しゅ…」

晶太の方を向いて顎をすくい上げると、少しだけ潤んだ瞳と視線が交わった。
片手でうなじを撫でてやれば控えめに体を震わせる。
先程までシャワーを浴びていたせいか、柔らかい髪はほんの少しだけ湿っていた。
顔を近づけていくとシャンプーの香りに混ざって、晶太のいい香りがした。
親指で唇を撫でながら耳にキスを落とすと、両手で力なく胸を押された。

「…っあ、ちが…、違うっ」
「…ん?」

抵抗する手首を優しく掴んで引き寄せながら、耳から額、頬と順番にキスを落としていく。
唇が触れるたびに控えめに反応するのが可愛らしくて思わず頬が緩んだ。
眉を寄せながら必死に目を瞑る晶太の唇に自分の唇を重ねた後、口を開けさせようと唇を舐める。
すると、すぐさま顔を逸らした恋人が俺の胸に頭を預けた。
俺の胸元を握りしめて首を振りながら否定の言葉を漏らす。
どういうことだか分からずに恋人の頭を撫でながら、もう一度耳にキスを落とした。
柔らかい髪の毛が指の間を通り抜けていく。

「ち、がくて…俺から…キスしたい…んだけど」

消え入りそうな声で呟かれたその言葉は、ぎりぎりで俺の鼓膜を揺らした。
そのかわいらしさに肩を抱いていた手に力が籠る。
耳まで赤くなっているのが見えて、そこに指を這わせると途端に肩が揺れた。
今すぐ大きな部屋着の裾に手を入れて体を触りたくなったけれど、機嫌を損ねてしまってはいけないのでぐっと我慢した。
こんな機会、滅多にないだろうから晶太のペースに合わせてやることにした。
けれど、いくら待っても腕の中の恋人が動く様子がない。
くっついたまま動かなくなってしまった晶太の頬を両手で挟み込んで、もう一度こちらを向かせた。
固く閉じられた唇を親指で撫でる。
すると気持ちが良いのか、少しずつ瞳が細められて蕩けたような表情に変わっていった。

「キス、してくれないのか…?」
「…ん、ぅ…、わ、待っ…て」
「…あぁ、待ってやる。ゆっくりでいい」

耳に口を寄せて吐息交じりにそう囁いてやると、大袈裟に体を震わせながら首を振った。
もう一度力なく胸を押されたので、これ以上いじめてせっかく積極的になってくれた晶太の気が変わってしまったら困るのでおとなしくそれに従って待つことにする。
しばらくすると、俺の服を握っていた恋人が意を決したように顔を上げた。
一度立ち上がってから、ゆっくりと俺の膝に跨った晶太が赤い顔で俺を見下ろした。
普段自分が見上げることはあまりないので新鮮な気分だ。

「しゅ、いちは…動かないで」
「…あぁ。わかった」

どうやら、俺から何か行動を起こすことは許されていないらしい。
返事をしながら可愛らしい恋人の細い腰に腕を回した。
心配になるほど顔を赤くした晶太と目が合うと、すぐに逸らされた。
可愛らしい姿に頬が緩んでしまうのだけれど、晶太はそれが気に入らなかったらしく、潤んだ瞳で少しだけこちらを睨んだ。
可愛らしい顔でいくら睨まれたとしてもこちらは怖くもなんともないのだけれど。
恋人の顔を堪能しながらゆっくりと目を細めると、頬に緊張で震えた手が添えられた。

「…ン、」

やがて恐る恐る唇に触れた、温かくて柔らかい感触。
鼻を掠める恋人の香りが途端に強くなったような気がした。
何度もくっついては離れていくだけのその行為がどのくらい続いただろうか。
うっすらと目を開けてみると、真っ赤な顔の晶太が気持ちよさそうに目を細めていた。
良い眺めだけれどこちらとしては物足りない。
可愛らしい恋人を今すぐソファーに押し倒して、俺の手で蕩けさせてやりたくなったけれど、そんなことをしたら後でどれだけ怒られるか分かったものではないので必死に我慢する。
服の上から腰を撫でると、ほんの少しだけ上擦った声を漏らした。

「しゅ、いち…くち、開けて…」

震える声で囁いた恋人が、控えめに俺の唇を舐めた。恥ずかしいのか俺の肩に置かれた手に力が籠る。
まさかそこまでしてくれるとは思わなかった。
今日の晶太はやけに積極的で、素直な様子が新鮮で可愛らしい。
自分から動くことができないのがもどかしくて少しずつ腰に添えた手に力が籠っていく。

「ん、了解」

そう一言だけ呟きながら口を開けると、控えめに伸ばされた舌が唇を舐めてから口の中に入ってくる。
伸びてきた舌が俺の舌先に当たると、途端に晶太の体が大袈裟に震えた。
どうしたらいいのか分からないようで恐る恐るといった様子で俺の口の中を舌でなぞっていく。
下手くそで可愛らしいけれど、もどかしくて仕方がない。
一生懸命に舌を動かしながら時折声を漏らす晶太は、少しずつ、確実に俺の理性を奪っていった。
しばらくして、結局我慢できなくて晶太の服に手を入れて直接腰を撫でると小さく悲鳴が上がった。
するすると上に滑らせて背中を撫でていけば、背中を反らせた勢いで唇が離れていく。

「っひ、…ぁ、…」
「…晶太」
「う、ごくなって…言った…のにっ…」

すっかり顔を蕩けさせた恋人の潤んだ瞳と目が合って、無意識に喉が鳴った。
どうやら俺が動いたせいで結局機嫌を損ねてしまったようだ。
けれど、もうこれ以上お預けされても我慢できる自信がない。
うっすらと濡れている晶太の唇から目が離せなくなった。
晶太がお説教をしようと口を開いたタイミングを見計らって頭の後ろに手をまわす。
一度は離れていた唇にもう一度噛み付くようにキスをした。

「ンっ…!?ッ…ぁ…」

驚いて閉じた口に舌をねじ込んで無理矢理開かせる。
逃げようとする頭を手で固定した。
赤くなった耳を指で擦りながら口内をなぞった後に優しく舌を吸えば、恋人の身体から力が抜けていった。
腰を支えてやりながらキスを深くしていく。
すると気持ち良いのか晶太が甘い声を漏らした。
反応に気を良くしながら、何度も角度を変えて攻めていく。
舌を吸うたびに恋人の体が跳ねた。
しばらくして、そろそろ限界かと思ってゆっくりと唇を離してやると、二人の間を銀の糸が繋いで、やがてぷっつりと切れていった。

「は、…ぁ…う、ッぁ…」

頬に手を添えて撫でていると、目にいっぱい涙を溜めながら顔を蕩けさせた恋人と目が合う。
息を切らせながら必死に体を支えているので、ゆっくりとソファーに押し倒してやると、驚いたのか咄嗟に俺の首に抱き着いた。
俺を見上げた晶太が首を振るたびに、短い黒の髪が乱れていった。

「…大丈夫か?」
「俺、下手だった…よな。…ごめん」
「いや、刺激的だった。…もう我慢できない…続き、いいだろ?」
「は、ずかしいから…そういうこと…い、うな…って」

晶太の潤んだ瞳が俺から逸らされる。
恋人の視界に自分が入っていないのが気に入らなくて頬に手を伸ばして無理矢理こちらに向かせた。
どうやらキスが下手なことを気にしていたようだ。
恋人の耳元で囁きながら頬を撫でてやれば、首まで赤くなっていく。
それが可愛らしくて、赤くなった首元に唇を寄せて思い切り吸い付いた。

「ひゃ、ぁっ…痕、つけ、っ」
「気持ち良いか…?」
「いや、待、って…お、ねが…ちょっと…だけだから、ぁ」

夢中で吸い付いている俺の頭に手が回されて、髪が掻き混ぜられた。
押し倒された晶太は、華奢な体で必死に抵抗しようと力を入れている。
口元に手の甲を当てながら俺を見上げた晶太の潤んだ瞳が細められた。
涙で濡れた頬を指で拭ってやる。
本当に嫌がっているわけではなく、ただ恥ずかしいだけだということは理解しているので、そのまま服をたくし上げた。
白い肌に手を滑らせると、恋人は首を振りながら足先に力を入れた。
覆いかぶさった俺の背中を、抵抗のつもりなのか晶太の足が力なく蹴っていく。

「今日は、キ、スだけ…だって…っ」
「そんな約束した覚えはないな」
「ばか…ぅ、…ン…」

胸元に吸い付きながら、指を絡ませた。
口では否定しながらも、力なく握り返されるのが愛おしくて夢中でそこに舌を這わせていく。
いったん体を起こすと俺の下で乱れながら息を切らせる晶太が目に入って、思わず一瞬だけ息が詰まった。
可愛らしい姿から目が離せない。
自由な方の手で口元を押さえながら、必死に呼吸をするたびに上下する胸。
瞬きするたびに目に溜まっていた涙が赤らんだ頬を伝って落ちていった。
胸元に散らばった鬱血痕が白い肌に良く映える。
明日バレたら顔を真っ赤にした恋人に怒られるのだろうと思いながら、体温の上がった肌に手を滑らせた。

「ひゃ、う…しゅ、いち…やだ、駄目…」
「誘ったのはそっちだろう…今度は俺に付き合ってもらうぞ」
「あ…、ぅ…しゅ、」
「…駄目か?」
「ぁ…わ、かった…からぁっ…」

耳元で囁いていると絡めたままの指に応えるように力が籠る。
最後の一押しに唇にキスを落とすと、思い切り目を瞑った晶太が参ったとばかりに顔を真っ赤にして声を上げた。
その答えに気を良くして胸の突起に指を滑らせれば、背中を弓なりに反らせながら声を漏らす。
相変わらずの反応に思わず唇を舐めた。

「ひゃ、っまだ…あ、んまり…さわ、な…で」
「…好きだ、晶太」
「ぁ…お、れも…秀一が、好き」

手を止めてまっすぐに恋人の顔を見下ろした。
顎を掬い上げながら愛を囁くと、赤い顔の恋人が目を細めながら嬉しそうに微笑んだ。
不意を突かれたのは俺の方だった。
恋人の幸せそうなその顏は、残り少ない俺の理性を飛ばすには充分すぎるほどで。
本能に任せて無防備なその体に覆いかぶさった。
明日はきっと顔を赤くした晶太に怒られるのだろうけれど、そんなことを気にしている余裕は今の俺には残されてはいない。