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どっちもどっち


「よ、よろしくお願いします…」
「何故、敬語なのですか?」
「い、や…それは…昴さん、待っ…」

俺は今、恋人が変装した姿の昴さんと向き合う形でソファーに正座している。
なるべく離れるように端に寄ったまま動かない俺に痺れを切らしたのか、距離を詰められて思わず肩が震えた。
事の発端は、俺があまりにも昴さんに怯えるので慣れさせようということだったのだけれど。
やっぱりこの人を前にするとトラウマが蘇ってしまう。

「あまり怯えないでください」
「ひ…ちょっと、楽しんでませんか!?」
「いえ。とんでもない」

逃げ腰の俺の手首を掴んだまま楽しそうに微笑む昴さんに腹が立つ。
このやろう。秀一に戻ったら覚えてろよ。
でも、俺だって昴さんに慣れて、一緒に外を出歩きたい気持ちもあるのだ。
ここで耐えなければ。

「ぐ…昴さんは動かないでください…」
「おや、積極的ですね」
「怖いだけですっ!!」
「…ふむ」

逸らしていた目を元に戻すと、完璧に変装した恋人は顎に手をもってきたまま何か考え込んでいる。
それにしても変装が完璧すぎて、一緒にいて落ち着かない。
俺はおそるおそる手を伸ばすと、昴さんの大きな手をそっと握った。
次はもう片方の手で髪の毛に触れてみた。思ったより触り心地がいい。
何度も髪の毛に指を通している俺が気になったのか、考え事をしていた昴さんがこちらを見た。
変装していても顔が整っているし、きっとこの状態でも女の人にモテるのだろう。
秀一の姿じゃないからかそんなに嫉妬はしないけれど、ムカつくことに変わりはない。

「手が止まっていますよ。考え事ですか?」
「ひっ…、すば…っやめてくださっ…えっうわぁ!?」

悶々と考えていると、昴さんが俺の手を握り返して指を絡めてきた。
するりと指の間を撫でられて、驚いて飛び跳ねるかと思った。
逃げようにもソファーの長さには限りがあるので、無理矢理後ろに下がるとずるりと足が滑って体が傾く。
急なことに動けずにいると、昴さんが俺の手を掴んでそのまま引き寄せた。

「おい、そんなに怖がるな。危ないだろう」
「うぅ…誰のせいだ!誰の!もういいよ…昴さんで近づくのやめて…」
「……、仕方がないですね。こうなったら、強硬手段をとりますか?」
「え、ちょっ…なにす…っわ、わぁっ!?」

俺があまりにも怖がっているせいか、秀一が変声機に手を当てて元の声で話しかけてきた。
昴さんに抱き寄せられたまま体を硬直させていると、恋人がため息を吐くのが聞こえる。
まったく、誰のせいでこんなことになっていると思っているのだ。
ゆっくり胸を押して拒否していると、突然ぐるりと視界が回ってこちらを見下ろす昴さんの顔と天井が見えた。
押し倒されたのだと気が付くのに少しだけ時間がかかる。
骨張った手で頬を撫でられると無意識に肩が震えた。

「恋人とはいつもしているのでしょう?」
「ひ、もやめ…」
「僕とは、ダメですか?」

恋人以外の人に押し倒されている状況に、背中がぞわぞわする。
抵抗しようとすると手首を掴まれたのでもう片方の手で肩を押すけれどびくともしなかった。
秀一も表情を読みやすいとは言えないけれど、昴さんだともっとわからなくて頭が真っ白になるのだ。
だめだ、もう怖くて頭が動かない
ゆっくりと昴さんの顔が近づいてくるのをぼうっと他人事のように眺める。
けれど、彼の唇が近づいてきて吐息を間近に感じたその瞬間、急に頭が覚醒した。

「ダメ。」
「っ……」
「秀一以外とは、しない。」

咄嗟に、昴さんの口を自由な方の手で覆うと、驚いたのかいつもは見えていない彼の目が見開かれる。
見慣れたグリーンの瞳と視線が交わった。
自分の言った台詞が恥ずかしくて昴さんの口を塞いだまま顔を逸らす。
すると、覆いかぶさっていた昴さんがゆっくりと離れていった。

「…しゅ…いち?」
「今日はやめだ。」
「…へ?」

強張っていた体から力を抜くと、変声機に手を伸ばして元の声に戻した恋人が拗ねたように呟いた。
そして、そのまま放心して横になっている俺の方を見ようともせずに変装を解く。
まったく、なにを不機嫌になっているんだか。
いつもの恋人に戻ったことで調子を取り戻した俺は、ソファーに横になったまま両足をのばして恋人の腰に絡みつく。
思い切りこちらに引き寄せると、バランスを崩した秀一が俺の方に倒れてきた。

「ばーか。隙あり」
「っ…」

さすがの反射神経で秀一が咄嗟に俺の顔の横に手をついたことで、ソファーが大きく揺れた。
驚いたままのマヌケ面でこちらを見る恋人が面白くて思わず笑ってしまった。
そのまま両手で頬を包み込みながらゆっくり唇を重ねる。
すぐに離して見上げると、驚いて放心した恋人が目に入る。

「どう?満足した?」
「…しないな。」
「だろうなぁ…」

絡めたままの足に力を込めると、はっとしたように現実世界に戻って来た恋人が俺の頬に触れた。
くすくすと笑っている俺に、いつもの調子を取り戻した秀一が少しずつ近づいてくる。
これじゃあいつもと同じじゃないか。呆れながらゆっくり目を瞑った。
全く、先が思いやられる。