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透明な心臓


「まったく…あいつら…」

何が集まって課題やるだ。
ほとんど遊んでたじゃねえか。
そう心の中で大学の友人達に悪態をついた。
まぁ、自分も楽しかったから満更でもないのだけれど。
そう思いながら少しだけ口元を緩める。
結局帰る頃にはすっかり暗くなってしまっていた。

「アイスでも食いながら帰って寝るか…」

なんだか最近暑いし、身体がだるくなって困る。
たまたま目に付いたコンビニに入りながら明日の過ごし方を考えた。
せっかくの休みだけれど特にやることもないし、いつも通り家で過ごすことになるのだろう。
…金もないし。
ふらふらと奥に歩いていって適当にアイスを眺める。

これだな…。
今日の気分で適当にアイスを取った後そういえば飲み物もないと気がついて、パックのお茶も持ち上げるとそのままレジに並んだ。
お茶を抱えながらポケットから取り出した携帯をいじっていると、レジが空いたので歩いていく。
そのまま会計をするはずだったのに。
突然、持っていたお茶とアイスが手の中から取り上げられて、驚いて前を向いた。
宙に浮いた手がマヌケな格好だ。

「あ、え…?」
「ん…買うんだろ?」
「へ…?…秀一!?お、おい!」

どうしてここにいるのか。
本当に突然現れた恋人に反応できなくて固まっていると、当の本人はレジまで歩いていって俺の買い物と一緒に自分の煙草も購入した。
慌てて隣まで歩いていって見上げていたら頭を撫でられて、恥ずかしくなった俺はやんわりとその手を払う。
お前は目立つんだから、外であんまりそういうことすんな。と目線で訴える。

「買ってくれんの?」
「あぁ…」
「そっか。ありがと」

秀一は煙草を自分のポケットに入れながらビニール袋を持ち上げた。
なんだかよくわからないけれど、奢ってもらえてラッキーだったな。
そのまま店員さんにお礼を言って、2人並んで外に出る。
外の生ぬるい風が顔を撫でるのが不快で少しだけ眉を顰めた後、設置してある灰皿を横目で眺めてから恋人に視線を向けた。

「…秀一」
「ん?」
「煙草は?いいの?」
「あぁ…お前の家でも吸えるだろう」
「…確かに」

溶けるぞ。そう言いながらアイスを差し出されたのでそれを慌てて受け取った。
ビニールを開けて口に入れると、甘くて冷たくて美味しい。
これを求めてたんだ。
思わず微笑みながら歩いていたらまた頭を撫でられたので今度は受け入れた。
髪の毛が崩れるけれどもう帰るだけだし問題ないだろう。
そういえば、今日は会う約束とか何もしていないはずだけれどどうしたのだろうか。
まぁ、嬉しいからいいのだけれど。
ちらりと見上げるといつも通りの横顔が前を見据えていた。

「……家、何にもないけどいいの?」
「酒は?」
「…あるかも。でも朝ごはんもないや」
「朝に起きないだろう」
「それは…まぁ…」

他愛もない話をしながら家に着くとすぐに、持っていたお茶を冷蔵庫に入れようと秀一が中を覗いた。
相変わらず何も入っていないのを見た恋人がこちらに何か言いたげな視線を向けてきたけれど、気が付かないふりをする。
そして、中を覗いていたその視線がある一点で止まった。

「…お前、コーヒーなんて飲んでたか?」
「あー…それ、最近大学のやつが買って置いていくんだよ。毎日ちょっとずつ飲んでんの。飲み終わった頃にまた遊びに来てくれるからさ」
「…そうなのか」
「それがちょっと楽しみというか。まぁ、飲まないで置いておくと怒られるから…って何してんの?」

秀一は冷蔵庫の中に入っているペットボトルのアイスコーヒーが気になったらしい。
確かにコーヒーは苦いしほとんど飲まないけれど、俺の家にあったらそんなに珍しいだろうか。
隣に並んで一緒に覗き込む。
コーヒー飲みたかったのかな。なんて思いながら答えていると、恋人はおもむろにそのペットボトルを開けると中身を一気に飲み干してしまった。

「あー!あと3日分くらいあったのに…!」
「煩い…」
「っはぁ!?…ちょ、何…ン、ぅ…」

飲むにしたって、もっと大事に飲んでくれよ。
腕を掴んで抗議するとなんだか機嫌の悪い恋人が俺の腰を引き寄せて顎を持ち上げるとすぐに唇を塞いだ。
口の中にコーヒーの苦味が広がっていって、思わず眉間の皺が深くなる。

「ん…ッぁ…」
「……」
「ん、ン…」

胸元を叩いて抵抗しているうちに頭のうしろに手をまわされて逃げ道を塞がれた。
冷蔵庫に背中を押し付けられて、口の中で好き勝手暴れるその行為がまるで俺のことを食らい尽くそうとするみたいだ。
いつの間にかキスの味なんて分からなくなってしまった。
指で耳を撫でられるたびに甘い刺激に身体を支配されて、足から力が抜けてずるずると壁を伝って床に座り込んだ。
それでも許してくれない恋人はどんどんキスを深していく。

「…んっ……やっ…め、」
「…っは、」
「ん…ぁ…っ…」

室内に響く卑猥な水音が耳までも犯していくみたいですぐに塞いでしまいたかったけれど、相手の胸元を必死に掴んでいた腕から力が抜けて膝の上に崩れ落ちた。
服の中に侵入してきた手に背中を撫でられるたびに、鼻から抜けたみたいな声が漏れる。
しばらくすると与えられる気持ち良さに思考が負けていってぼやける視界の中で目を細めた。
完全に力が抜けて倒れそうになった俺の体を支えた秀一に最後だとばかりに舌を吸われる。
その刺激に喉が震えた。

「ぁ…っ…ふ、ぁ…も…ダメ」
「旨かった」
「そ…かよ…っ…良かったな…」

座り込んだ俺に覆いかぶさった秀一は俺の耳元でそう囁いた。
火照った体には吸い込む空気すら冷たく感じられる。
震える体でもう一度相手の胸元を握りしめながら強がった。
なに怒ってるんだ。
そう思いながら見上げると、いつもより鋭いグリーンの瞳と視線が交わる。

「そ、…んなに怒るなら…」
「…晶太?」
「お前だって…もっと置いていけばいいだろ。私物」

手に力を込めて視線を逸らしながら小さくそう呟く。
聞こえなかったのならそれでよかったのだけれど、俺の体を支える手の力が強くなったので聞こえてしまったのだと理解した。
恥ずかしくてじわじわと顔が赤くなっていく。こんなの、重いだけだ。

「い、今の無し!別にいつも通りでいいし…」
「晶太」
「しゅ、いち…?」
「そうだな、ありがとう」

それにコーヒーもまた買ってやる。
俺の体を抱きしめながらそう呟いた恋人の嬉しそうな声に心臓が締め付けられるみたいな感覚がする。
痛いくらいだった抱擁から解放されて少しだけ身じろぐと、ほんのりと赤くなった秀一の耳が視界に入ってしまった。
なに嬉しそうにしてるんだよ。
さっき食べたアイスが何の意味も持たないくらい顔が熱くて、俺の方が溶けてしまいそうだった。