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今日もあなたは。


俺は今日も、恋人に会うために懲りずに工藤邸に足を運んでいた。
相変わらずのとんでもない豪邸ぶりに、いつも入るのを戸惑ってしまう。
ゆっくりと玄関を開けてキョロキョロと中を見渡していると、なんだか泥棒になったような気分になった。

「おーい…秀一?」

いつも恋人が座っているソファーのある部屋のドアを開けて中を覗くと、予想に反して姿が見えなかった。
どこかに出かけているのか、それとも他の部屋にいるのかわからない。
けれど、人の家を勝手にうろうろする気にはなれなくて目の前のソファーに近づいていった。
とりあえず近くに背負っていたリュックを下ろすと、そのままソファーには座らずに床に腰を下ろして寄りかかった。

「あー…疲れた…」

別に疲れてはいないのだけれど、なんとなく声を出したくなったのでつぶやく。
待っていてもなかなか現れない恋人に痺れを切らして、ただ待っていてもつまらないので少しだけ仮眠をとることにした。
時間の有効活用というやつだ。
ソファーに体を預けて目を閉じると、すぐにうとうとと微睡む。
そのまま俺は睡魔に抵抗することもなく意識を飛ばしていった。


「……、おい…おい起きろ」
「…ん、……あれ…?」

やんわりと体を揺すられる感覚に、意識が浮上する。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた顔がこちらを見下ろしていた。
目が合うと、一瞬だけほっと息を吐いたあとに呆れたような目を向けてくる。

「あれ秀一?どうしたの?」
「どうしたじゃないだろう。床に転がってるから何事かと思ったぞ…」
「…あれ?本当だ」

座りながら寝ていたつもりだったのだけれど、いつのまにか倒れて眠ってしまったようだ。
自覚するとなんだか身体中が痛くなってきた。
少しだけ身じろぎをして、自分の体の状態を確認した。
そして、未だ転がってる俺に呆れた視線を送ってくる恋人に向かって両手を持ち上げて差し出す。

「……どうした?」
「…立てなくなったから引っ張ってほしい」
「…仕方がないな」

仰向けで両手を差し出しながら我儘を言った。
すると秀一は呆れた顔から一転、ふっと微笑んで俺の手を取る。
突然の不意打ちに、顔に熱が集まってくるのが自分でわかった。かっこいい……
俺が先に仕掛けたはずなのに、なんだか負けた気分だ。

「…おりゃあ!くらえ秀一!」
「……うおっ」

悔しくなった俺は、両腕を引っ張られて起き上がった勢いのまま恋人にの首に飛びついて抱きついた。
赤い顔は隠せただろうか。
俺の不意打ちを食らって驚いた恋人の声が耳元で聞こえた。
少しだけ勝ち誇った気分だ。

「…驚いたぞ」
「…へへ、さっすがー!ナイスキャッチだよ秀一くん!」
「全く…お前は、」

首に抱きついたままケラケラと笑っていると、耳元で秀一がため息をついた。
呆れながらもしっかりと腕を腰に回して抱きとめてくれた恋人は、首に俺をぶら下げたまましゃがんでいた体制から立ち上がった。
突然の浮遊感に一瞬体がこわばったけれど、すぐに優しくソファーに降ろされる。

「お父さん今のもっかい!」
「……誰がお父さんだ」

おふざけを続行しながらじゃれついていると、とんとんとあやすように背中を叩かれたので大人しく首から手を離した。
ふかふかのソファーに体を預けながら一息つく。
秀一はテーブルの端に置いてあった灰皿を自分の近くに寄せると、タバコを取り出しながら俺の横に腰を下ろした。

「……今の結構楽しかったかも」
「そうだな…」

タバコをふかしながら息を吐く恋人に、少しだけ弾んでしまう声で話しかける。
すると、いつものように頭を撫でられたので気分が良いついでに擦り寄ってみた。
心地よくて目を細めると、秀一の手が止まる。

「ほぉ…子供の次は犬か?」
「おい、誰がペットだこら…」

さっきの仕返しだとばかりに冗談を言ってくる恋人の肩を軽く小突くと、なんだか面白くて笑ってしまった。
ちらりと見上げると、いつも通りのすまし顔でタバコを口に咥えている横顔が見える。
なんとなく肩に寄りかかると、いつもよりほんのちょっとだけ高くなっている恋人の体温が伝わってきて、俺は手に入れた幸せを閉じ込めるように目を瞑るのだ。