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夢でも覚めない


「…ん…ぅ…?」
「起きたか、晶太」

うたた寝をしてしまっていたようだ。
ゆっくりと意識を浮上させたあと、いつものようにもう一度重たい瞼を閉じる。
うとうとして、何度も意識が沈んでは戻ってくる感覚。
俺はこの、寝起きで微睡んでいる状態が一番幸せなのではないかと思うのだ。

「…あれ…?かたい…」

けれど、下に敷いているマットが硬いし、それに寝返りがうてない。
ここはいつものベッドではないようだ。

「人の上で寝ておいて、とんだ言い草だな…」
「…え?…ぎゃっ!」
「おい、暴れるな。…危ないだろう。」

床で寝てしまったのかと思って顔を上げると、恋人の顔が見えて思わずのけ反った。
どうやら、俺はソファーに仰向けに寝ている恋人の上にうつぶせの状態で転がっていたようで。
固かったのは秀一の胸板だった。
どういう流れでこの状態になったのか全く記憶がない。
暴れる俺を押さえつけるようにがっしりと腰に腕が回されて、おとなしくせざるを得なかった。
もう一度、その胸板に頬を寄せるとふわりと秀一の香りがした。

それにしても、冷静に考えたらこの体制は体が密着しすぎて恥ずかしい。
意識し始めると止まらなかった。
触れ合った部分から服越しに体温が伝わってきて、心臓が煩く主張し始める。

「…やっぱりかたい…」
「そうか…」

照れ隠しにもう一度同じ言葉を繰り返す。
俺が悶えている間に秀一は読書に集中することにしたらしく、俺の腰に腕を回したまま片手を上げて本を読んでいる。
そんな読み方したら、俺だったら数分で腕が痛くなるだろう。
流石、鍛え方が違うな…。
厚い胸板に頭をぐりぐりと擦り付けると、あやすようにぽんぽんと腰を叩かれた。

「…ひま」
「…わがままを言うな」

恥ずかしさで完全に目が覚めてしまって、やることがない。
足をバタつかせると、秀一の体と一緒に振動する。
それがちょっと面白かった。
けれど、読書をしている秀一にはそれが鬱陶しかったようで、腰に回っていた手が俺の頭に移動した。
そのまま上からぐっと手加減なしに力を入れられる。
顔が秀一の胸に押し付けられたことで、蛙が潰れたような音が口から漏れた。

「ぐえ…っ」
「ふっ…色気がないな」
「っうるせえ!なにしやがる!」

がばりと起き上がると余裕いっぱいに笑う恋人と目が合った。
っこのやろう…、
俺が一人で怒っている間に、秀一は悪びれた様子もなくもう一度手元に目をやった。
その行動にも怒りが沸き上がる。この状況でよそ見とはいい度胸だ。
感情のままに、体が勝手に動いた。

「…秀一」
「ん…?…っ、」

ゆっくりと体を起こすと、本を持っている秀一の手首を力任せに掴んでソファーに押し付けた。
その手の中から零れた本は重力に従って落ちていって、床に当たると乾いた音を立てる。
片手を恋人の顔の横につくと、驚いて見開かれた瞳と視線が交わった。
いつもとは逆の状態。
秀一を組み敷いているというこの状況に、背徳感で思わず喉が鳴った。

「ほー、積極的だな。」
「あ、えと…」

立場が逆転したからといって、中身まで変わることはできない。
どうしてこんなことをしてしまったのか、すぐさまヘタレな自分が顔を出した。
すぐに上から退こうとしたのだけれど、普段あまり意識することのない秀一の首筋やシャツから覗く鎖骨に目がいって。
自分の下でされるがままになっている無防備な恋人の姿に、頭が真っ白になった。

「…それで、この後どうしてくれるんだ?」

俺が混乱している間に恋人はいつもの調子を取り戻したらしく、目を細めながら挑戦的にこちらを見上げる。
どう、って…
恋人の色気にあてられてぐるぐると視界が回るような感覚がする。
ここが限界。
もうこれ以上は俺には無理だ。
そう思って上から退ことしたところで、ずっと腰に回っていた恋人の手が滑るように服の中に侵入してきた。
直に腰を撫でられて、大袈裟に体が跳ねる。

「わ、ちょ、ちょっと…」
「…どうした?晶太」
「どうしたじゃ…ぁっ…」

腰を撫でていた手がするすると上にあがっていって、追い詰めるようなその行動にさらに頭が混乱していく。
恋人は俺の反応を見て、おもちゃでも見つけたように楽しそうにしていて。
完全に遊んでやがる。
それを目の当たりにすると、混乱していた頭が急に冷えていった。

このっ、…俺だって男だ。…いつまでもされるがままだと思うなよ。
最後の力をふりしぼって、握っていた恋人の手首を掴みなおすと、驚いたのか一瞬だけ俺の体を撫でる手が止まる。
その隙を狙って思い切り目を瞑ると、恋人の唇に噛みつくようにキスを落とした。

「ん、……」
「…っ、」
「はっ、…今日はこれでお預けだ。秀一くん。」

最後に舌を這わせてから唇を離すと、驚いて固まった恋人が視界にはいる。
まさかこんなことされるとは思っていなかったのだろう。
まぁ、やけくそで体が動いただけだし、全部秀一の真似っこなのでキスが下手くそなのは自覚している。
それに、舌を入れる勇気もなかったのだけれど。
それでも、不意を突けたことに満足して勝ち誇ったように見下ろしてやった。

「お預けか、それは困ったな…」
「読書よりは楽しかったろ?」
「…否定はしない」

目が合うと、思わず笑ってしまった。
体の力を抜いて寝ころんだままの恋人の上から退くと、さっき落ちていった本を拾い上げる。
その間にゆっくりと体を起き上がらせた秀一はテーブルの上の煙草に手を伸ばしていた。

「重かった?体痛くない?」
「…全く問題ないが」
「それは俺に対する嫌みと捉えるけど、問題ないな…?」

怒りに声を震わせると、秀一は煙草を咥えたままこちらに向かって降参だとばかりに片手を上げる。
そのまま自分の方に灰皿を寄せているのを見ながら、いつもの光景に笑みがこぼれたのは、きっと見られていなかっただろう。