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プレイングカード1


「ねーえ、コナンくん…」
「だから、何度言ったってダメだってば!」

俺の何度目かわからないお願いに、向かいの席に座っているコナンくんが不機嫌そうに返事をした。
俺から目をそらしながら、頬杖をついてジュースを飲んでいる。

「あのね、お兄さん。この間キッドに何されたか覚えてないわけじゃないでしょ?」
「…しらない!お願い!もう限界なの!キッドに会いたいー」
「…はぁ。僕じゃなくて赤井さんに聞いてみたら?」
「無理だからコナンくんにお願いしてるんだよ!キッドが予告した場所連れてってー!」

お願いだよーと、俺は手を合わせてから机に額をくっつけた。
小学生に頭なんか下げて恥ずかしくないのか、と自分に言ってやりたい。
けれど、何を隠そうこの子はキッドキラーなんて呼ばれていて、すんなりと警察でいっぱいの美術館に入れてもらえる神の子なのだ。

「おまたせしました…あれ?晶太くん?どうしたんですか、どこか体調でも…」
「わわっあ、安室さん…!?何でもないんです!なんでも!」

先程コナンくんへの賄賂として注文したパンケーキを運んできた安室さんが、俺の格好を見て不審に思ったのだろう。
彼は俺の手首を軽く掴むと同時にぐい、と俺の体を起こすために引き寄せた。
小学生に一生懸命に頭を下げているなんて恥ずかしいところを見られた俺は、目の前のイケメンから目をそらしながら慌てて身の潔白を主張する。

「でも、なんだか顔が赤いですよ?」
「あはは!今日はなんだかいつもより暑いかなー、なんて…」
「……失礼しますね」

誰が聞いても嘘だとわかる言い訳をしながら、俺はパタパタと手を振って暑がるふりをした。
小さな抵抗だ。
すると何を思ったのか、突然安室さんが前髪を手で上げながら俺に近づいた。
額に、安室さんの額がぶつかる。

目の前に広がるイケメン。
俺は思わず今までの人生で最速ではないかというスピードで後ろに避けた。
背もたれに思い切り背中を打ち付ける。

「っわぁ!!ちょっ……ちょ、安室さん!?」
「あぁ、すいません。つい、癖で…」
「え…!?っえ!癖…ですか!?癖になるくらい誰かにやってるんですか!?」

どうやら、イケメンは俺なんかとは住む世界が違うようだ。
こんな恥ずかしいことが自然にできるなんて、女性にモテないわけがないじゃないか。
きっとこの方法で数々の女性を虜にしてきたに違いない。
くそ…羨ましい。俺が童貞なのは全部世の中のイケメン達のせいだ。

落ち込んで机に手をついていると、安室さんがくすくすと笑った。

「はは…晶太くん、ごめんね。ついいつも、子供相手にやっちゃうから。」
「は…子供……」
「女の人だと思ったかい?」
「っ…!あ、安室さん!!!からかわないでくださいよっ!!」

安室さんにからかわれたのだと気づいた俺は、じわじわと先程触れた額から赤くなっていくのを感じた。
くそ、俺に女性経験がないのはもうお見通しのようだ。
しかし、「ごめんね晶太くん。怒らないで?」と爽やかに笑いながら帰っていく安室さんを見ていたらなんだか怒りも少しずつ収まっていってしまった。
イケメンパワーってすごい。

「…今のって、お兄さんも子供扱いされてるってことじゃ…」
「ん…?なにか言ったかなコナンくん?」
「いや、別に何も…」

目の前から小さく聞こえた声に、聞こえなかったふりをして笑顔で返す。
するとコナンくんは先程のようにそっぽを向いてしまった。
しかしそれも一瞬で、すぐに疑うような視線を俺に向ける。

「ねえお兄さん、まさか、キッドに恋してる…とかじゃないよね?」
「は、はぁっ!?な、何言ってるの!?だって俺には、……」

秀一がいるし。と言いそうになった口を慌てて噤んだ。

「コナンくんだって、テレビの中のアイドルを可愛いなって思うことはあっても付き合いたいとかじゃないでしょ?」
「え…?う、うん。…よくわからないけど…。」

コナンくんは、勢いで喋り出した俺にどうやら引いているらしい。
俺はそれでもめげずに力説を続けた。

「それと同じだよ!キッドは好きだけど、お近づきになろうなんてとんでもない!俺はただ、キッドが予告通りに宝石を華麗に盗んでいくところが見たいの!」

「……バーロー…それじゃ俺が奴に負けるってことじゃねえか…」
「え?コナンくんなんか言った??」
「あっ、なんでもないよ!あはは…」

コナンくんが小さい声で呟いた言葉は、興奮した俺の耳まで届かなかった。
慌てて聞き直すけれど、どうやら言いなおすつもりはないようだ。

「それに、お兄さんがそうだとしても、あっちがどうだかわからないでしょ。」
「はぁ…、あのね、コナンくん。キッド様みたいな有名人が、ただの一般人の俺のことなんかいちいち把握してるわけないって!もうとっくに忘れられてるよ」
「だから!お兄さん…何度も言うけど…!」

「あー!コナンくん何食べてるのー!」
「ずるいぞコナンー!」

俺の返答が気に入らなかったのか、だんだんコナンくんがお父さん2号と化してきた。
お父さんの声がだんだん大きくなってきたところで、その場の雰囲気に似合わない元気な声が響いた。

「おいおまえら…晶太お兄さんと話が終わるまで静かにしてろって言ったじゃねーか。」
「だって…」
「コナンくんばっかりお兄さんと話しててずるいですよ…」

「…み、みんな……!可愛いやつらめ!お兄さんがなんでも好きなもの食べさせてやるぞ!」
「やったー!」
「お兄さん大好き!」

俺はしゃがみこんで皆に目線を合わせると、小さな頭をぐりぐりと撫でまわした。
小さい子って素直で可愛い。
遠くの席で、蘭ちゃんがこちらに向かって申し訳なさそうに謝っているので、それに俺は笑顔で手を振った。

と、そこでコナンくんから声がかかる。

「……、ほら。お兄さんにだよ。」
「へ??なになに……う"…」
「今日はお家から出たらダメだからね」
「……んん"……ん"」

コナン君に差し出された携帯に映し出されたメールの画面、そこには秀一の名前と、
「ダメに決まっているだろう。家でおとなしくしていろ」という文面。
俺がキッドに会いに行きたがっていることを、コナンくんが告げ口したらしい。
どうやら、今回は俺の完敗のようだった。