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泥酔


「おい!どうし…は?」
「…んん…」
「……晶太…?」

先ほど恋人から「大変だから今すぐ家に来て助けてくれ。」と連絡があったから何事かと思って急いで駆けつけたのだけれど、家に入ってみたら酔っ払いが床で潰れていた。
不用心に鍵もかけずにこいつは…。
机の上には大量の空き缶が転がっているけれど、この量を一人で飲んだのだろうか。
床でくたりと転がっている恋人を抱き起すと、ぼーっと瞳だけこちらを見た。

「あれ…しゅいち…?どうしたの…?」
「どうしたのじゃない。お前が呼んだのだろう。」
「ん…おれ…?しゅういちすきだ…」

顔を覗き込むと、これでもかというくらい真っ赤になっていて虚ろに口から言葉を紡いでいる。
だからいつも飲む量を控えろと言っているのに。
とりあえず力の入っていない体を抱き上げてベッドに運ぶと、キッチンに移動してコップに水を注いだ。
何度か来ているから物の配置をある程度は覚えてしまったようだ。
ベッドに戻ると仰向けに転がしたはずの恋人がうつ伏せに倒れていた。

「おい、とりあえず水を飲め」
「いらない…」
「いらなくない。ほら」
「のめない…できない…」

とりあえずコップをその辺に置いてから仰向けに戻し上半身だけ抱き起して水を飲むように諭すと、駄々をこねはじめる。
普段の恋人なら絶対に見せない姿だ。
コップを渡してみると力が入らずうまく持てないのか、ふるふると首を振って泣きそうな顔でこちらを見てきた。
しかし、水だけでも飲ませてやらないと。

「水いらないから…」
「ダメだ。ほら、ちゃんと座れ。危ないだろう。」
「やだ…ちゅーがいい…秀一ちゅーして」
「…は?」

呆れながら水を押し付けていると、突然ふにゃりと笑った恋人が俺の首に手を回してくる。
コップの水を零さないように気を取られていて聞き逃しそうになったけれど、普段では絶対に言われないようなことを言われたような気がした。
驚いて呆けていると、すりすりと頬をすり寄せて来る。猫みたいだ。

「しゅう…ぐらぐらする…ねむい……」
「おい寝るな…、水。」
「ほら…しゅういちも一緒に寝よう…おやすみのちゅー」

うとうととし始める恋人をゆすって起こそうとすると、鬱陶しそうに目を開けた。
やっと起きたかと思ったら、突然唇に柔らかい感触。
驚いてしばらく呆けていたけれど、はっと我に返ると腕の中でくたりと体重を預けて赤い顔をしながら目を閉じる恋人がいた。
おそらく今までで一番酔っている状態なのだろう、いつもと様子が全く違う。
しかしこんな誘うようなことをされて黙っているわけにはいかない。
自分でも目が座るのがわかった。

「おい、起きろ晶太。」
「ん…うるさい…寝るぞ。」
「……くそ、」
「…ん…んんっ…」

体に力の入らないらしい恋人の顎を掴むと、半開きの唇に噛みつくようにキスを落とした。
晶太はびくりと手足を強張らせたあとに俺の首に手をまわして静かになる。
そのまま何度も唇を重ねていると、腕の中でとろとろとした表情を見せる恋人が見えた。

「秀…みず…ちょうだい…」

いつもとは違う人間を相手にしているようだ。
俺は言われるままに自分の口に水を含むと恋人に再び唇を合わせた。
素直に口を開く恋人の口内に少しずつ水を送り込んでやるとこくこくと喉を動かして水を飲んでいるようだ。
全部飲み終わると、恍惚とした表情の恋人が嬉しそうに口を開いた。

「しゅういち…たりない。もっと、欲し…」
「それ、どこで覚えてきたんだ。」
「みず…んんっ……、」

素直な晶太も可愛くてしょうがないのだけれど、まれに安室くんの前で飲んで酔っ払って帰ってくるのを思い出して不安が押し寄せる。
まさか彼の前でもこんなことをしているわけではないだろうな。
いつもの恋人なら絶対にあり得ないことだろうけれど、酔っ払っているとこいつは何をするかわからない。
だからいつも酒は控えろと口を酸っぱくして言っているのだ。
別のことを考えていたからだろうか、水を送り込む量を間違えてしまったらしい。

「…げほっ…うっ…ごほ…っ」
「すまない。大丈夫か?」
「……ん…あれ……」
「どうした…?」
「……待って…今ので冷静になってきた…」

ベッドに倒れて咳き込む晶太の背中をさすっていると、まだ舌足らずだけれど意識が少し戻ってきたようだ。
いつもの口調を取り戻している。
と思ったら、うつ伏せに倒れ込んだまま動かなくなった。
気を失ったかと思って慌てて抱き起そうとすると弱々しく手を払いのけられる。

「待って…本当無理…何やってんだ俺…」
「無意識か。」
「意識あったらあんなことしてない…なんで秀一来たの…信じらんない…本当ごめん…」
「構わないが…呼んだのはお前だろう?」
「え!?知らない…」

両手で顔を覆って転がる恋人が絶望的な声を出している。
恥ずかしがっているのだろうけれど、もともと赤い顔なのであまり大差なかった。
携帯の画面を向けて恋人からのメールを見せると、驚いたように起き上がるので慌てて正面から抱きしめて体を支える。
酔っ払いにあまり激しく動かれると心配なのだが。

「くっそ…あいつ…」
「誰かいたのか…?」
「大学の友達とここで飲んでた…。俺、すごい飲んだから…勝手に連絡したっぽい…ごめん…」

途端に謝り出す恋人は、意識ははっきりしてきたようだがいまだにふらふらしている。
まだちゃんと体に力が入らないようだ。
どうやら呼んだのはこいつではなく友達だったらしい。
こちらに寄りかかりながら申し訳なさそうに謝られる。
それよりも、俺はその友達とやらが気になるのだが。

「俺の話をしているのか?」
「してない…でも、誰に連絡すればいいか聞かれたような…気が…」
「あまりむやみに他人に携帯を渡すな。」

今回は良かったものの、あまりいい事ではない。
こないだの安室くんがいい例だ。あの時は本当に心臓が止まりそうだった。
呆れたように注意すると、腕の中でクスクスと笑われた。
こちらは真面目に注意しているのだが。

「ふふ…秀一…またお父さんみたい。」
「あのな…、お前はお父さんにキスをせがむのか?」
「…うわぁあ!その話はやめろっ!」

お父さん扱いされるのが気に入らなくて、無理矢理唇を奪ってやる。
悪い子だ、と笑いかけると俺の口元を両手で押さえながら恋人が暴れ出した。
先ほどのことを思い出して恥ずかしがっているのだろう。
さっきの晶太も可愛かったけれど、やはりこっちの方がしっくりくるな。

「もっとして欲しいんだろ?」
「…るせ…やめ…盛るな変態…んっ…」
「その気にさせたのはお前だ。」
「やだ、今日はしたくな…ぁ、…隣に聞こえる……嫌…ん」

腕の中にいた恋人をベッドに押し倒してキスをすると、顔をそらされたのでそのまま首に吸い付いた。
服に手を滑り込ませると、ぴくりと体が反応する。
酒の影響からか、いつもより体温が高い。
耳や首に何度もキスをしていると、恥ずかしそうに口を開きながら弱々しく胸を押された。
どうやら隣人を気にしているようだ。
確かにここでは壁が薄くてすぐにばれてしまいそうだ。

「お前が声を抑えればいいだろう。」
「や…できな…おねが…しゅういち…」
「……あんまり煽るのはやめてくれないか。」
「っんん…ふ…、ねが…いや…ぁ」

俺の胸を押して涙を瞳にいっぱい溜めながら首を振って懇願する恋人が可愛らしくて、自分の中の理性が失われていくのを感じる。
泣きそうな恋人を無視して服を胸の上まで捲り上げて体に吸い付くと、今度は自分の口を両手で押さえて声を懸命に我慢しているようだ。
胸に吸い付きながら下半身に手を伸ばすと、びくりと両足に力が入るのがわかった。

「っひぁ…!ふ、ぇ…ばか…」
「な…っ、お、おい…どうした…」
「うるさい…お前がやめてくれないから…うっ…」
「わかった…俺が悪かった。泣くな…頼むから。」

ちらりと恋人の顔を見ると、瞳からはらはらと大粒の涙を零していて思わずギョッとして手を止めた。
まだ完全に酔いが醒めたわけではないようで自分でうまく感情をコントロールできないようだ。
まったく、酔っ払いはめんどくさい。
抱き起して膝の上に乗せ、背中をあやすように撫でてやるけれど泣き止んでくれない。
何故だか俺はこいつの泣き顔にはすこぶる弱いのだ。
泣かれるとどうしていいかわからなくなる。

「もう…眠いって…ば…」
「わかった。もう寝よう。」
「ばか……でも、秀一の家なら…しても良い…かも」
「……えっ」

そう言い残したまま腕の中でこちらに寄りかかってすやすやと眠る恋人に呆然とする。
主人に待てをされた犬の気分だ。今すぐ家に持ち帰って抱いてやりたい。
そんなことをしたら後が怖いから、明日になったらすぐに持ち帰ることになりそうだ。
自分の言ったことには責任を取ってもらう。
それと、酔っているときの晶太が危険なことを身を持って体験した。
安室くんとだけはもう絶対に飲ませないようにしなければ。