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背水の陣


※オチがなくなったアホな話です。



俺は、少年探偵団と蘭、園子というメンバーでポアロにいる。
今日は博士の代わりに二人が俺たちの面倒を見てくれるということだ。

「晶太お兄さんだ!」
「あれ…?みんな…?」

皆でわいわいと話をしていると、途中でお店にお兄さんが入って来た。
そして俺たちの顔を見るなり、驚いたような後悔したような顔を見せる。
しかしそれも一瞬のことで俺たちに向かって笑顔で挨拶をしてくれた。
見間違いだろうか。

この森山晶太というお兄さん、あの赤井秀一の大切な人らしい。
付き合っているのかどうか本人たちの口から聞いているわけではないけれど、赤井さんがお兄さんに迫っているところに偶然鉢合わせた事があった。
そのたびにお兄さんは赤井さんを思い切り殴ってから真っ赤な顔で俺に弁解をしていたけれど。
あの赤井秀一に手を上げて、当たり前のように許されるのなんてこのお兄さんくらいなのではないだろうか。

「お兄さんどうしたの?ごはん?」
「あぁ…、ちょっと…気分転換かな……?」

なんとなく質問してみる。
するとお兄さんは自分の腕をさすりながら、俺から目をそらして歯切れ悪く答えた。
どうしたのだろうか。
なにか悩んでいるようだ。何かあったのか聞こうと思って口を開いたけれど、その前にお兄さんに遮られてしまった。

「そういえば、あれから新一君大丈夫…?」
「え…?あぁ…うん。大丈夫だよ。」

蘭に秘密という約束を守ってくれているらしいお兄さんは僕の耳に口を寄せてこそこそと話しかけてきた。
この間、俺は工藤新一の状態でお兄さんに会ってしまったのだ。
お兄さんの前でコナンになってしまうかと思って物凄くひやひやした。
あの時は赤井さんがいてくれなかったら大変なことになっていたに違いない。
赤井さんも、組織の事はお兄さんに教えてないようだから。
蘭に「ないしょばなし?」と声をかけられて困ったようにはぐらかすお兄さんを見つめながらそんなことを思った。
そして、落ち着いたころにお兄さんは僕たちの近くの席に腰を下ろす。


「あれ、晶太くん!」
「あ。安室さんこんにちは。」

お兄さんは安室さんの声にぱっと反応すると途端に笑顔になってあいさつをした。
少しだけ二人で世間話をした後安室さんから食事やドライブのお誘いを貰って、初めは渋っているけれど押しに負けて結局約束をする。
いつものパターンだ。
おいおい、赤井さんにバレても知らねーぞと俺が呆れた視線を送るまでが一連の流れだ。
お兄さんはなんだか危なっかしいのだ。
気持ちだけは強気のようだけれど、押しに弱かったりと若干無防備なところがある。
それが赤井さんも心配なのか過保護になっているらしく、俺もお兄さんのことを見張るように任されていたりする。
しかし俺がいくら注意してもお兄さんは言うことを聞かないどころかキッド関係には自ら首を突っ込んでいくものだからこちらもハラハラして仕方がなかった。

そんないつもの変わらない日常に、今日は変化が訪れた。
お兄さんの近くに座っていた歩美ちゃんが不思議そうに声を出したのだ。

「あれ?お兄さん首の後ろのとこ虫に刺されてるよ?」
「あ、本当ですね。」
「……へぁっ!?」

無邪気な子供の一声に瞬時に反応したお兄さんは首をバッと隠すと目を見開いた。
じわじわと首まで赤くするお兄さんを見て俺は全てを察した。
それでも無邪気で残酷な子供たちの攻撃はやまないようだ。

「この季節に珍しいですね…」
「にーちゃん、なんか運わりーな。」
「薬塗った方がいいよー?」
「あ…えと…その…そうだね……」

顔が赤いままのお兄さんは少しだけ開けていたシャツのボタンを全部閉めて、襟を正しながらみんなの声になんとか言葉を返している。
灰原はとなりで呆れたような視線を送っていた。教育に悪いとでも思っているのだろうか。

「お兄さん、薬は持ってるんですか?」
「え?…えと…今はないかな……」
「そうなの?ちゃんと治さなきゃだめだよ。歩美が見てあげようか?」
「…え、その…大丈夫!大丈夫だから…!」

顔色を赤から青に変えたお兄さんは子供たちに追い詰められてずるずると椅子にもたれかかっている。
必死に襟を抑えながらぶんぶんと首を振る。
かわいそうになってきたので俺はそろそろ助け舟を出すために口を開いた。

「おい、おめーら……」
「もしかして、キスマークだったりして!」
「え!そうなんですか森山さん!」
「へ…!?ちが…違う!!違います!!」

俺の言葉を遮ったのは園子と蘭だった。
その途端鼻からずり落ちた、伊達であろう黒縁のメガネを外して机に勢いよく置いたお兄さんは泣きそうな顔をしながら否定をし始めた。
赤井さんはいったい何をやっているんだ…。

「森山さんって恋人いたんですか?」
「へ…!?」
「おとなしく吐いちゃいなさいよ。」
「いない!いないから!」

まったく、教育によろしくないわよ。だとか、どんな彼女さんなんですか?という二人の言葉にお兄さんは目を白黒させている。
いつもの強気はどこかに忘れてきてしまったようだ。
恋人が男だとバレるわけにはいかないという顔をしたお兄さんは小さい声で「彼女ができたことがありません………」と謎のカミングアウトをはじめる。
それによって、さらに驚いたらしい女性陣に質問攻めにあって今にも泣いてしまいそうだ。
そろそろ本当に止めに入ろうと立ち上がると、横から肩を掴まれた。…灰原だ。

「なんだよ…」
「面白そうだしあのままでいいんじゃない?」
「……はぁ?」

たしかに面白そうだ。……お兄さん以外が。
俺だって放っておきたかったけれど、赤井さんに頼まれているのもあってなんとなくそのままにしておくことが出来なかったのだ。
なんとか灰原を躱してお兄さんの所に行こうとすると、別のところから声がかかった。

「晶太くん、どうしたんですか?」
「あ…安室さん…!」

ひょこっと現れた安室さんが不思議そうに質問すると、お兄さんは救世主をみるようにパッと顔を明るくする。
そして子供たちをよけるとふらふらと安室さんのところに歩いていって、そのまま安室さんの後ろに隠れた。
蘭や園子からの非難の声を交わしているつもりのようだ。
安室さんはそんなお兄さんを不思議そうな顔でちらりと見ている。

「そういえば、虫刺されがどうとか聞こえましたけど…」
「……へぁっ…」
「失礼しますね。」

途端、彼にとっての救世主は悪魔へと姿を変えた。
後ろに隠れたお兄さんの方にくるりと向きを変えた安室さんは手馴れたようにシャツのボタンを外すとお兄さんの首筋をするりと撫でた。
体を強張らせたお兄さんは硬直して顔を真っ青にしている。

「あー、これはさっきついたばっかりですか?相当な害虫ですね……」
「……ぁ…ぇと……」
「すぐに駆除したほうがいいです。」

これは完全に確信犯だ。
安室さんは楽しそうにお兄さんの首を触りながら、その場をかき回し始めた。
安室さんの言葉から察するにさっき赤井さんにつけられたばかりだということだろうか。
そういえば、ここに来た時のお兄さんの様子がなんだかおかしかったことを思い出す。
あの反応の原因は赤井さんということか…。

顔を赤くしたり青くしたり忙しいお兄さんは、いそいそと乱れた襟を直しながら追い詰められた小動物のように数歩後ろに下がった。
ここに味方がいないことに気付いたのだろうか。
そういえばお兄さんはいつも何か悪い目にあっている気がする。
本当に運の悪い人のようだ。

と、そこでお兄さんの携帯がこの場にふさわしくない軽快な音を出し始める。
ふらふらと携帯をポケットから取り出したお兄さんは、携帯の画面を見た途端顔色を変えて耳に当てた。

「………ふざけんなお前!!なんて嫌がらせしやがる…!お前のせいで俺は…、…は…?さっきのも悪いのは全部お前だ!待ってろ今そっち行くから。覚悟しろよ…!」

お兄さんは、大変ご立腹の様子で電話の相手に怒鳴りつけている。
完全に赤井さんだ…。
電話の話から察するに喧嘩をしてその嫌がらせでキスマークをつけられたということだろうか。
赤井さんってそんなことするのか。

「安室さん…これお金です!俺もう帰りますね!」
「送りましょうか?」
「大丈夫です!」

お兄さんは荒々しく携帯を切りながら自分の荷物を引っ掴むとお金を置いて、青い顔のままそそくさと帰っていった。
後ろでは、学校の友達か何かの嫌がらせだと勘違いしたらしい蘭や園子たちが「つまらない」と肩を落としている。
……こういうのは結果オーライと言うのだろうか。


「あなたも大変ね.」
と大して興味もなさそうな灰原の声を聞きながら、あまり二人の事情に巻き込まないでいただきたいものだと俺はため息を吐いた。