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優しい嘘



どうしてこんなことになったのか、俺は何故かこの工藤邸の主人の息子である工藤新一くんとソファで向かい合わせに座っている。

ここに至るまでの経緯を思い出す。
そもそも今日俺の恋人である赤井秀一は、沖矢昴の格好で大学に行くとかで出掛けているのだ。
あ、本当に通ってるんだ、と少しだけ驚いたのは内緒である。そもそも歳をごまかすとかどういうことなのか…この日本は大丈夫なのだろうか。たまに心配になる。

そして、ちょうど俺がたまたまふらっと遊びに来た時に昴さんは出かけようとしていて、なるべくすぐ戻るから家にいてくれ。そう言われて俺はソファにだらんと身体を預けて携帯をいじっていた。
もうまるで自分の家だ。
…………人の家だけれど。

「……ん…?」
すると、その時玄関からガタガタと物音がしたのだ。
はじめは忘れ物をした昴さんが戻ってきたのかと思ったのだが、どうやらそういう様子でもない。

もしかしたら泥棒かもしれないと思い、俺は瞬時に部屋の隅に逃げた。
泥棒だったら降参した振りをしながらこっそり警察に連絡しなければ。
どうやら泥棒は一直線にこの部屋に来るようで、俺は必死に息を潜めて緊張しながら携帯を握りしめた。

「……あ、」
「…………え??」

ガチャリという音を立てて、ゆっくりと開く部屋のドアにドキドキとする心臓を抑えながら構えていると、写真で良く見かけたことのある整った顔の少年が姿を現した。
どうやら向こうもこちらを警戒していたようで、俺の顔を見ると途端にぽかんとしたまま固まっている。

この状況を一体どうしたらいいのか。
昴さんならこの家にいてもおかしくないけれど俺がここにいたらいたら完全に不審者だ。
下手したら通報されるかもしれない。
とりあえず誤解だけでも解いておこうと俺は下手くそに笑いながら口を開いた。

「は、はじめまして…?良かったらソファ、どうぞ。」
「あ、どうも……?」

テンパり過ぎて家に住んでいる本人にソファを勧めてしまったけれど、どうやら向こうも納得してくれたようだ。


「あ、あの、工藤新一くんだよね?俺、森山晶太って言います。あやしいものじゃなくて、昴さんとは、その…」
「あ、大丈夫ですよ。コナンから話はよく伺ってます。工藤新一ですはじめまして。」
「本当?良かったー!通報されたらどうしようかと思っちゃった!コナンくんに後でお礼言っておかなきゃ。」
「はは……」

あまり不審者だと思われないようにおずおずと自己紹介をすると、新一くんはイケメンな笑顔で俺に挨拶をしてくれた。
どうやらコナンくんは新一くんとよく会話しているようだ。
俺は彼の乾いた笑いを聞きながら安心してソファにもたれ掛かった。
本当に通報されるかと思った……
それにしても笑い方がコナンくんにそっくりだ。

「そう言えば、晶太お兄………晶太さんはどうしてここに?」
「へ??いやぁ…、昴さんに会いに来たら、ちょうど大学に行くところだったからここで待つように言われたんだ。」
「そうだったんですね。俺も昴さんに用があったんですが……。」
「あ、それならなるべくすぐ帰ってくるって言ってたよ!ここで待ってれば会えるんじゃないかな?……あ、そうだ。ごめんね気が利かなくて…。紅茶かなにかいれてくるね?」

言うと、俺は席を立った。

紅茶を持って帰ってくると、新一くんはソファに座ってなにやら考え事をしているようだ。
そう言えば蘭さんもコナンくんも、新一くんにしばらく会ってないと言っていた。
どこで何をしているのかもわからないと。
特に蘭さんはいつも新一くんの心配をしていたのだ。ちゃんと会いに行ってあげたのだろうか。

「ねえ、新一くん。」
「はい?」
「蘭さんとコナンくんには会いに行ってあげたの?心配してたよ?」
「あ、ぁあ。蘭たちにはまだ…」
「そっかぁ…」

蘭さんが会ってないのにどうして俺が新一くんに会ってしまっているのか。
俺は蘭さんの悲しむ顔を見るたびにいつもやるせなかった。
彼女にはなんだか幸せになって欲しかった。
だから俺は工藤新一に会ったらガツンと言ってやろうと思っていたのだ。
でも本人に実際会ってみると会えない理由がありそうで、やっぱり人間は難しい。そう思った。

「新一くん。蘭さん本当に心配してたから、たまに連絡だけでもしてあげてね。」
「えっ……?」
「きっと新一くんにもなにか訳があるんだと思うけど、あんまり蘭さんのこと悲しませないであげて。女の子なんだから。」

過去に彼女が1人もいない身でこんなお説教みたいなことを言うのはものすごく恥ずかしいのだが、やっぱり蘭さんが心配だったのだ。

「……でも、本人の幸せのためにどうしても言えないってことも、あるんですよ。」
「そっか。それもわかる気がする。」
「え?」
「俺のよく知ってる奴も、すぐ隠し事するんだ。それは全部俺のためってことわかってるから気にしてないし何も言わないんだけど、」

それに、俺はもう成人してる大人なのだ。

「…………」
「でも、蘭さんは女の子で、まだ高校生なんだから。君がちゃんと守ってあげなきゃダメだよ。たまにはそばにいてあげてね。」
「……はい。」
「急にお説教みたいなこと言ってごめんね?蘭さんが可哀想だったから。でもなんか新一くんも悩んでるみたいだし。本当は君に会うまで殴ってでも蘭さんに謝らせるつもりだったんだ。」
「……はは……」

俺がいくら言ったところで新一くんの行動は変わらないのだろうけど、なんだか言ってやったらすっきりした。
次悲しませたらガツンと言ってやる。

「晶太さん、」
「ん?」
「ありがとうございます。」
「うん。」

やっぱり彼は蘭さんの彼氏だ。
とってもいい子だ。
あとコナンくんに似ている。

「そう言えば、新一くんは昴さんに何の用があったの??」
「あ、それはですね。……ゔっ…」
「え?!新一くんどうしたの?!苦しいの?」

俺が新一くんに話しかけると、彼は突然胸を抑えて苦しみ始めた。
どうしたのだろうか。もともと病気を持っていた?
でも彼が病弱なんて話俺は聞いたことがなかった。

「……うっ……うぅ…」
「ど、どうしよう…救急車?蘭さんに連絡……?」
「大丈夫です……。蘭にも救急車にも連絡しないでください……うっ……」
「ダメだよ!新一くん死んじゃうって!!」

俺がテンパりながら新一くんに確認すると、そんな否定の言葉を言いながら彼は床にうずくまった。
もう突然のことに泣きそうだ。
さっきまであんなに偉そうに年上ぶっていたのに、もう冷静でいられなかった。

「新一くん。新一くん!!汗がひどいよ。やっぱり、病院に行かないと。」
「ダメです。やめてください……」
「そんなに病院嫌いなの?大丈夫だよ。今より楽になるって……」

どうしても病院を嫌がる彼を俺は説得する。
こんなに苦しそうなのに行きたくないなんて、病院に恐怖症でも持っているのだろうか。
俺は半分以上泣きながら彼に話しかける。
俺では彼を持ち上げることが出来なくて、ベッドに運んであげることもできない。
とりあえず彼が楽になれそうな体制で床に寝かせる。

「う……ぅうう……」
「新一くん、やっぱりダメだ俺救急車呼ぶよ!携帯は……うわっ?!」
「ダメです…お願いします。」

彼が本当に死んでしまいそうなくらい苦しむのでこのままじゃ蘭さんに合わせる顔がないと思い、俺は携帯を探し始めた。
すると彼が突然俺の手を引っ張って胸に頭を抱き寄せた。
これでは携帯を取ることが出来ない。
どうしようもない状態にパニックで涙が出てきた。

「森山くん?!どうしたのですか?!」
「ぁ……昴さん……新一くんが…!!!助けて!!…新一くんが」
「とりあえず落ち着いてください。あとは僕に任せて。」

新一くんの腕の中に捕まって泣いていると、そこに昴さんが帰ってきた。
あまりの騒ぎにはじめは驚いていたようだけど、状況を把握したようで新一くんを持ち上げるとベッドに運びに行ったようだ。
何故だか秀一も救急車を呼ぶことはしなかった。
やっぱり病院に行けない理由でもあるのだろうか。
その後、俺は秀一に博士に連絡をするように言われ隣の阿笠邸に走ったり、水やタオルを用意して秀一に渡したり必死に動き回った。

時間が経ってすっかり落ち着いた頃、俺は控えめに新一くんの部屋のドアをノックした。
すると秀一がすこしだけドアを開けて出てくる。
入るな、見るなという事だろう。

「新一くん、大丈夫?」
「ぁあ。問題ない。お前ももう寝た方がいい。」
「うん…。俺、なんにもできなくてごめん…。」
「気にするな。彼も感謝していた。」
「そっか……」

しょんぼりしていると秀一に頭をなでられる。
新一くんには偉そうにしたくせに、これじゃただの子供だった。


次の日、目が覚めると何故か新一くんはいなくなっていて、秀一は帰ったと言っていた。
昨日あんなに苦しんでたのにどんな回復力だよ。

そして後日コナンくんに
「新一兄ちゃんが感謝してたよ。僕からもありがとう。」
と可愛い笑顔で言われながら、実際は何もしていない罪悪感に駆られることになるのだ。

「それと、蘭姉ちゃんには秘密にしといてって。」
……もう彼に蘭さんのことでガツンと言うことは出来ない……。と、途端に年上の威厳というものが崩れていくのを感じながら俺はコナンくんに苦笑を返したのだった。