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愛おしい今日


「あーーーー……おわっだ……」

俺は今、血の滲むような日々を抜けて完成させたわが子のようなレポートを教授のアドレス宛にやっとメールで提出したところだ。
救いは学校に行かなくてもいいからギリギリまで粘れたことと、わざわざ早朝にコンビニに走ってコピーする必要がないことだった。
途中、パソコンが固まった時は本当に体中が冷えた。
もうクタクタで一歩も動きたくなかった。そこで俺は自主休講を決め込むことにしたのだ。
これぞ学生の特権。
もう今日はシャワーを浴びて、思う存分眠っておいしいものを食べたい気持ちだった。

「そのために、まずはシャワーだな…」

一人暮らしだと、独り言が多くなって仕方ない。
そう思いながら立ち上がった俺はシャワーを浴びるべく、取り込んだままベッドに積み上げた洗濯物の中からタオルを掴んだ。

ピンポーン……
「……ん??」
シャワーを浴び終わり、ガシガシと頭を拭いていると玄関のチャイムが鳴った。
一体誰だろうか。俺は今から一本だけビールを飲んでそのままベッドで気持ちよく眠るんだ。
どうせ、来るとしたら大学の友達ぐらいだ。すぐに追い返そう。
そう思って俺はタオルを頭にかぶり、ズボンだけ履くと玄関のドアを乱暴に開けた。

「はいはい。どちらさま…は、…?」
「……あ、…晶太お兄さんこんにちは…」
「はぁ……、お前……」
「え…?秀一…?コナンくん……?」

どういうことだ。
玄関のドアを開けたら、呆れたような顔をした秀一と驚いた顔をしたコナンくんがこちらを見ていた。
いや、驚きたいのは俺の方だ。
髪の毛から水が滴って玄関にぽたぽたと落ちていく。
さすがの俺も眠気がすべて吹き飛んだ。


「もー!来るなら来るって事前に連絡してよ!」
「ごめんなさーい!」

俺は、二人をとりあえず部屋に通してカーペットに乱暴に座布団を置いて座らせると、バタバタと部屋中を歩き回って片づけ始めた。
とりあえず、ベッドの上の洗濯物を急いでクローゼットに突っ込む。
そして干してある洗濯物から服を取ってそのまま着るとベッドに腰を下ろした。

「…お兄さんって……」
「なにかな、コナンくん…俺は今日まで寝ないでレポートを死ぬ気で書いていたんだ。何も言わないでくれ…」

あと、流しの食器も、洗濯機の中身も見ないでくれ…
提出期限が近くなると家中がぐちゃぐちゃで、机のまわりも手の届く範囲に資料やペットボトルが散乱していた。
俺はそのペットボトル達を適当にゴミ袋に突っ込みながら、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出した。
コップを二つ出して注ぐと、二人の前の折り畳み机に置く。

「ごめんね。なんにもないや…」
「気にしないで。僕たちも突然来たんだし…」

「……晶太。」
「…はい…何でしょう…。」
「お前はどの口で、普段俺に服を着ろと言っていたんだ…」
「いや、あれは二人が来た時にシャワーを浴びてたからで…」

そう言えば、普段から半裸で歩き回る秀一に注意している気がする。
しかしこの場合はノーカンだ。友達だと思ったわけで。

「お前はシャワーを浴びているときに人が来たら服を着ないで家から出ているのか。」
「はぁ、まぁ…来るのは友達くらいだし…」
「……はぁ…。」

秀一はよくわからないがため息を吐いて不満そうな顔をしている。
俺はそれを見なかったことにしてコナンくんに笑顔を向けた。

「そう言えば、今日はどうしたの?」
心の中で、二人に家の場所教えたっけ?と続けた。

「晶太お兄さんの普段の生活の調査をしようって、赤井さんと…」
「はぁ…?秀一お父さんかよ……」
「だれがお父さんだ。」
「コナンくんもこんな奴に付き合わなくてもいいんだよ?」
「……はは…。」

コナンくんの乾いた笑いを聞きながら、俺は立ち上がって流しに立った。
とりあえずこの食器たちを片づけなければならない。
ガチャガチャと、水を出しながら食器を洗う。
ヤバい時はだいたい食事はコンビニで済ませるので食器は汚れている物は少なかった。

「二人とも、今日はどうするの?」
「え?」
「お昼ご飯は?」
「まだだよ。」
「じゃあこれからスーパー行こうか?簡単なもので良ければ俺がご飯作るよ。」

そう言いながら俺はタオルで手を拭いた。
返事がないのでひょいっと部屋を覗くと、二人は驚いたような顔をしている。
一体なんだというのか。

「なんだよ…」
「お前、料理できるのか…」
「できるよ!あんまりしないけど!」

完全に舐められて腹をたてた俺は買い物用の鞄を引っ掴むと二人を立たせてスーパーに向かった。


「ただいまー!」
あの後、三人でスーパーに向かって食材を買った。
コナンくんにお菓子も買うか聞いたのだが、遠慮したのか断られてしまった。
実は俺が買いたかったのだが残念だ。
しかしお酒は買い足せたので少しだけ満足した。

「秀一、荷物持ってくれてありがとう。」
「あぁ。ここに置いていいのか?」
「うん。あとは俺がやるからコナンくんと休んでて。」

そう言うと俺は買ったものを冷蔵庫に突っ込んでいった。
使う野菜は出して、切る前に米を炊くことにする。
作れると威張ったが言うほど料理をするわけではないので、二人にはカレーで許してもらうことになったのだ。
普段沖矢さんをしている秀一が作っている物と全く変わらないが、正直こういう料理が楽だしお腹にたまる。
だが俺は別でサラダも作るので秀一とは違う。
そう思いながら野菜を切り、炒め終わって、今はもう煮込んでいるところだった。

「おい、晶太…は、っ…、」
「あ、秀一どうしたの?」
「……それ…」
「あ、エプロン?どうだ。似合うか?」

すると、部屋から秀一が出てきて俺を見て固まる。
普段、料理するときにエプロンなんてつけることはないのだが、今日は見栄を張ってエプロンをしていた。
驚いて固まったままの秀一の前でくるりと回って見せた。

「あぁ…、……似合う…」
「なんだよその間は……!あれ、そういえばどうしたの?」
「煙草なんだが…」
「あぁ、吸ってもいいよ。灰皿ならここにもベランダにもあるし。あ、ここで吸うなら換気扇の下で吸ってね。」

鍋を確認しながらそう答える。
そういえば秀一はいつも狂ったように煙草を吸っていたけれど、今日は吸っていなかったようだ。
俺に気を使っていたけれど結局我慢できなかったというところだろうか。

「晶太、お前煙草吸うのか?」
「いや、吸わないよ?友達が勝手に置いてったの」
「……そうか、」

一時期、俺の家に入り浸っていた奴も煙草を吸っていたのだが、ずうずうしくも灰皿を二つ買ってベランダとキッチンに置いて行ったのだ。
そのまま面倒くさくて処分はしていなかったけれどこんなところで役に立つとは思わなかった。

すると俺の背後に立った秀一が何を思ったのか覆いかぶさってきて、するすると服に手を入れてきた。

「はっ…ちょ…なにすんだ!」
「……その『友達』とは何にもないんだろうな…」
「はぁ!?ないよ!は、離せ…危ないってば…」
「………エプロン、興奮するな。」
「馬鹿!!変態!離せコラ。」

さわさわと体を触ってくる秀一の手を懸命にはがそうとする。
この変態おやじが。
そもそも煙草を吸うためにここに来たのではないのか。

「赤井さん?お兄さん…?………あ。」
「へ???あっ…こ、コナンくん!?」
「…う"っ……」
「これは、違くて!この大馬鹿が!!」
「お兄さんお兄さん!鍋!鍋!」

そこに、突然やってきたコナンくんに完全に見られてしまった。
変態が俺の服に手を入れているところを…。
俺は顔を真っ赤にして秀一の腹を思い切りぶん殴ると、コナンくんに慌てて言い訳をした。
それに対してコナンくんは鍋の心配をする。
もうパニック状態で何が何だかわからない。
とりあえずお隣さんごめんなさいと言いたい。



「それじゃあ、お兄さんお邪魔しました。」
「コナンくん、本当に一人で帰れるの?」
「うん。お兄さんは赤井さんとゆっくりしてね。」
「へ!?待ってコナンくん!!違…」
「じゃあね!バイバイ!」

あれから、三人で仲良くご飯を食べてお昼寝をして、もうすっかり夕方になる頃、コナンくんは家に帰っていった。
完全に見られた上に完全に気を使われている。
小学生に気を使われるホモとか最悪だよ………。
秀一はどこまでもコナンくんの教育に悪いことをするのだ。
あとできつく言って聞かせようと思いながら俺は家の中に入った。


部屋に入ると、秀一はベランダで煙草を吸っていた。
夕焼けを背景に背中を向けて手すりに寄りかかる恋人は、絵になりすぎてものすごくムカついた。
暫く見つめていると、煙草を吸い終わったのかこちらに気付いて部屋の中に入って来た。

「どうした?晶太」
「おまえなぁ、コナンくんにあんまり悪いもん見せんなよ…」
「あぁ、ボウヤか…大丈夫だ。」
「はぁ!?何が大丈夫なんだよ。小学生だぞ…」

俺がぽこぽこと怒っていると、秀一はそのまま俺に近づいて顔を覗き込んでくる。

「なんだよ…」
「疲れてるのに、悪かったな。」
「別にいいよ。俺も楽しかった。それに秀一の事そろそろ家に呼ぼうかと思ってたし。」
「そうか。」

それに、コナンくんと三人でいるのはなんだか家族になったみたいで楽しかったのも事実だった。
また三人でどこかに遊びに行きたいな。
今度は少年探偵団のみんなを誘って出かけるのも悪くないかもしれない。
その…昴さんと。

「お前、隈すごいぞ。今日は早く寝た方がいい。」
「はは。秀一とお揃いだな。」
「はぁ、あんまり無理をするな。」

秀一があまりにも心配するものだから、いつもと同じ冗談を返した。

「ごめんごめん。あ、もう布団敷いちゃう?」
「いや、ベッドでいいだろう?」
「はぁ!?お前の家のベッドと違うんだ。狭すぎるだろ。」
「それも悪くない。」

言うと秀一は俺の瞼にキスを落とした。
俺が寝れないんだ!と文句を言ってやると布団を敷くことになったのだが、結局秀一に押し切られて二人で寝ることになるのだった。
疲れ切った俺には関係なかったようですぐに眠りにつくことが出来た。

本当に、こんな日も悪くない。