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番外編


(キッドにキスをされたというお話)

ある日、俺はコナンくん、蘭さん、園子さんと買い物に来ていた。
買い物と言っても女性2人の荷物持ちや付き添いである。
しかし、どうして世の中の女性というものは買い物にこんなに時間がかかるのだろうか。
そもそも、彼女のいない俺にとっては女性の買い物に付き合うという経験自体初めてなのだが、噂は本当だったのだということを実感しながらぐったりと疲れきっていた。

コナンくんもすっかり疲れた様子だ。

「コナンくん、森山さん、ありがとう。」
「そろそろ休憩にでもするとしますか。」
「やったー!」

そこで、女性陣はやっと満足したらしい。
俺達はへとへとでカフェへと入った。
こんなに疲れるなら彼女はいらないかもしれない、と叶わぬ夢の心配をしながら俺はメニューを見る。
いつもならコーヒーを飲むのだが、今日はとても疲れていてなんとなく喉に刺激が欲しくなってメロンソーダを注文した。
本当は最年長らしくコーヒーでかっこよく決めたかったのだが、そんな余裕は残っていない。
きっと秀一や安室さんならかっこよくブラックコーヒーできめるのだろう。
世の中の女性ならイチコロに違いなかった。

「そういえば、どうして園子姉ちゃんは今日晶太お兄さんを呼んだの?」
「あ、それ俺もちょっと気になってた、かも。」

俺はメロンソーダを飲みながら疲れた体を癒した。
炭酸がパチパチと弾けながら喉を通る感覚が心地よかった。

「ぁあ、それね。聞いたわよ。あんたキッド様のファンらしいじゃない。」
「ちょっと園子、森山さん年上なんだから」
「気にしなくて大丈夫だよ。」
「すいません…」

蘭さんが焦った声を出すので、苦笑しながらフォローを入れる。

「次郎吉おじさまのところにキッド様から予告状が届いたから、あんたも良かったらって思って。キッド様ファンとして話もしたかったし。
それで、誘うついでにショッピングの付き添いもさせようって思ってね。」
「え……?!キッド様……え???オレも行ってもいいの?!本当に?!?!」

にやにやとしながら俺にとって最高の誘いをしてくれる園子さんの発言に、俺は今までのすべての疲れが吹っ飛んだように感じた。

すると、横から声がかけられる。

「ちょ、ちょっと晶太お兄さん…!」
「…ん?」
「あんまりそういうことに首突っ込むと赤井さんに怒られるよ?」
「コナンくん、俺の中で今最も重要なことはキッド様に会えるってことなの。だからそんな小さいこと忘れなきゃダメだよ。わかった?」
「…え?う、うん…。」

俺の耳元でコナンくんがこそこそと喋るものだから何かと思ったら。
秀一は何故だかコナンくんに俺のことを任せているらしく、本当に教育に悪いからやめろと俺は何度も口を酸っぱくして秀一に注意しているのだが全く直してくれないのだ。

それから、園子さんとキッド様の素晴らしさについて意気投合させたあとに待ち合わせなどの集合時間を決めた。
もうわくわくしてその日から俺は頬の緩みを抑えることができなかった。


約束の日、俺はすこしだけいつもより丁寧にワックスをつかって髪の毛をふわふわにし、お気に入りのシャツを着る。
リュックもこの日のために新しいものを用意した。

「コナンくん、お兄さんから離れちゃだめだよ?あと、このことは秀一には内緒にしてね?」
「う…うん。」
蘭さんに自分からコナンくんの面倒をみるという仕事を請け負った俺は、コナンくんと手を繋ぎながら上機嫌で予告現場に向かうのだった。


「すげー。めっちゃ高いビルだ…お金持ちだ…」
こんな大きくて高いビルを「うちのビル」とか言えるなんて…なんというお金持ちなんだ。完全に住む世界が違う。

俺たちが予告の現場についた時には警察や関係者の人たちはすでに集まっていた。
俺、本当にここにいていいのか…?
周りを見渡すと警備の人たちがたくさん待機していてものすごく居心地が悪かったけれど、ここにキッドが来るという事実が現実なのだと教えてくれているようで、すこしだけわくわくした。

「これが、今回キッドがねらう宝石なんですか?」
「あ、あぁ。予告状にはそう書いてある。」

宝石の近くにいた警部さんに質問してみる。
宝石はそこまで大きくないけれど緑色できらきらとしていて、とても綺麗だった。
ほんの少しだけ、恋人の瞳を思い出した。
きっと俺には一生かかっても買うことができないような値段なのだろうと思ったし、もしかしたらそんな宝石をこんなに近くで見る機会なんてもうないかもしれない。

「おいどうするんだ!もうすぐキッドの予告時間なんだぞ!?」

「コナンくん、警部さんたちなんか焦ってるみたいだけどなんかあったのかな?」
「なんだか、キッド用の仕掛けがうまく作動しなくなっちゃったみたいで、新しい方法を考えなきゃいけなくなったみたいだよ。」
「え!?それ大丈夫なの!?そんなのキッドが盗み放題じゃないか!」
「そこの坊主!うるさいぞ!」
「ひぃ!?すいません!」

なんだか現場がすごくざわざわとしていたので、コナンくんに聞いてみたら予想外の答えが返ってきたので思わず大きな声が出てしまい、警部に聞こえてしまったのか怒られたので俺は必死に謝った。
それにしても、そんなの事で大丈夫なのだろうか…
もしかしてキッドがすごいのではなくて日本の警察が…なんて悪い考えが頭をよぎったので俺は頭を振ってその考えを消した。


「あのね、僕いい事思いついちゃった。」
「おお、小童。さすがキッドキラーじゃ。聞かせてみぃ。」
「あのね、ここに一人だけキッドに会ったことがない人がいるんだ。ね?晶太お兄さん。」
「へ??俺?」
「もう予告時間のギリギリだし、お兄さんは僕とずっと手を繋いでたからキッドじゃないよ。だから、晶太お兄さんに宝石を持ってもらうのはどうかな?」
「え?無理無理無理!!守り切れないって!」

突然コナンくんが突拍子もないことを言い始めるので俺は全力で否定した。
そんな大役できるわけないだろう。
おれはキッドの現場に来たのは初めてなんだ!

「俺はこんなひょろっこい男にキッドから宝石を守り切れるとは思えないのだが…」
「ですよね!そうですよね。」
「あのね、ただ持ってもらうんじゃなくて、お兄さんの口の中に隠したらどうかなって。」
「うえ!?何言ってんのコナンくん。もうやめようよ。」
「口の中か…それなら奴も簡単には奪えないかもしれないな…」
「え?警部さんまで何を…。俺には無理ですって!」

キッドのマジックショーを見に来ただけなのになんだかとんでもないことになってしまった。
現場の人たちは俺の意見なんて関係がないというように話を進めていった。
なんだか淡々とボディーチェックをされて、俺がいくら断っても準備は進んでいくのだ。

「はい。お兄さん。絶対に飲み込んじゃだめだよ?気を付けてね?」
コナンくんが可愛らしい笑顔で小さな袋に入れられた宝石を渡してきた。
もしかして、秀一の忠告を聞かなかったことを怒っているのだろうか…
俺はコナンくんのまぶしい笑顔に負けて宝石を受け取った。

予告の現場はすこし小さめの個室になっていた。
俺はそこに一人で入れられている。とても心細い気持ちできょろきょろと周りを見渡した。
「森山くん、もうすぐキッドの予告時間だ。宝石を隠してくれ。」

無線で警部からの指示を受けて、俺はしぶしぶ宝石を口に含んだ。
自分なんて比べ物にならない位高価なものが口の中にあるなんて、まったく実感がわかない。

「あと一分」

無線から聞こえる予告時間までのカウントダウンをどこか他人事のように聞きながら、俺は部屋の椅子でぷらぷらと足を動かした。
俺の横のケースには宝石の偽物がいれられていた。

「5,4、3、2,1…」

予告時間になったその瞬間、彼はまるでずっとそこにいたかのように俺の目の前に表れた。
驚いて口を開けそうになる。

「………っ…!」
「こんばんは。お兄さん。初めましてでしょうか?予告通り宝石をいただきに参りました。」

彼の形の良い唇が言葉を紡ぐ。
本来の俺ならもう飛び上がって喜ぶのだが今回は状況が違う。
とんでもない値段の宝石を任されているのだ。
思わず立ち上がると、俺は部屋の隅に逃げる。しかしあまり広くないこの部屋の中ではあまり意味のない行動だったようで、すぐに追い詰められてしまった。

「森山くん!すぐに逃げるんだ!くそ!ドアが開かない!」
そんな焦ったような警部さんの声が何だか遠くに聞こえたように思う。

「そんなに怖がらないでください。あなたを傷つける気はありません。しかし、ここでは聴衆が多すぎるかもしれませんね。」
「……っ!?」
そう言うと、突然キッドに手を引かれて抱き留められた。
一瞬何をされたのか全く理解できなかったが、次の瞬間彼は俺を抱きかかえたのだ。
なんだか怖くなってぎゅっと目をつむった。無線から警部さんやいろんな人の焦った声が聞こえた気がした。

「お兄さん、もう大丈夫ですよ。」
耳元で優しくささやかれてそっと目を開けるとそこはどうやらビルの屋上のようだった。
夜の明かりで周りの建物がきらきら光っている。

彼は俺を優しく地面に立たせると俺の手を引いて腰に手を添え、抱き寄せた。
いったい何が起きているのかわからない。俺の頭はパンク寸前だった。
「……!?……っんん!?」
「あなたの持っているその宝石、私に奪わせていただけませんか?」

キッドは俺の腰に当てているのとは逆の手で俺の顎を持ち上げると親指で唇をなぞった。
完全に宝石の場所がばれている。俺はすこしだけコナンくんを恨んだ。

「ふふ、あまり手荒な真似はしたくありません。
あなたはとても魅力的ですから、私は強硬手段をとって構わないのですが。」
「む…ん…んん!!」
そう言うと少しずつ彼の顔が近づいてくるものだから、俺は驚いて一生懸命彼の胸を押して抵抗したが、まったく通用しない。
もうダメだ。そう思って再び俺は目を閉じた。

「キッドてめーー!!お兄さんを返せ!!……は、」
激しい音を立てて屋上の扉を開けたコナンくんの大きな声が聞こえたのと、俺の額に何かやわらかい感触が触れたのはほとんど同時だった。
あまりのことに俺は目を見開いて口を開けてしまったのだ。

「すこし失礼いたしますね。」
「ん…んん…っ…!」
するとキッドは開いた俺の口に指を入れると少しだけかき回して宝石を奪った。
一生懸命逃げたのだか、腰に手を当てられているためそれは叶わなかった。

「おい!お兄さんから離れろ!!」
俺と同様に、コナンくんも驚いて呆けていたようでハッと我を取り戻すと、突然サッカーボールのようなものをこちらに蹴とばしてきた。
するとキッドは俺を支えたままふわりとサッカーボールを交わして俺を地面におろした。
思わず腰が抜けてその場に座り込む。

「刺激的な夜でしたね。ぜひまたお会いましょう。」
「へ……」
そういうとキッドはへたり込む俺の手をとると軽くキスを落として、いつものように飛んで行ってしまった。

「くそっ……お兄さん大丈夫!!?」
コナンくんは飛んで行ったキッドを悔しそうに睨んだ後、俺を心配して駆け寄ってきた。
俺の顔を覗き込んで、不安そうな顔をしている。

「………っ…」
「どうしたのお兄さん。もしかしてキッドに他になにかされたの!?」
「か、…かっこよかった…。」
「へ…??」
「あんな近くでキッドが見れるなんて思わなかった!話しかけてもらった!俺、キッドに触っちゃった!男の俺にもあんなにファンサービスしてくれるなんて、なんてかっこいいんだ…どうしよう…」
「お、お兄さん落ち着いて?」

コナンくんをドン引きさせていることにも構わず一人で興奮していると、
焦った様子の警部さんたちが屋上に来て、座り込む俺を抱き起こしながら安否を確認する。
危険にさらして申し訳ないと謝られたので、俺は宝石を守れなかったことを思い出して必死に謝ることになるのである。


後日、うっかりした俺はこの出来事を秀一に知られてしまってお説教をされるのだが、隠し事はいつかばれるのだということを、身をもって体験するのだった。