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秘密発覚2


ポアロで捕まえた恋人の話を聞くため、カーテンを閉め沖矢昴の変装を解いた。
俺達はテーブルをはさんで向かい合わせに座っている。
先ほど火をつけた煙草の煙を吸い込み、大袈裟に吐き出しながら目を閉じる。
目の前に座った晶太がビクリ、と反応するのがわかった。

「…………で?」
「いや、だからキッド様は…」
「……様?」
「………………うっ、」

今まで大きな揉め事もなく、晶太も大体の俺の言う事は素直に聞いたし、俺も許容範囲内で晶太のわがままを聞いてきた。そのため、ほとんど喧嘩や揉め事をしたことがなかったが、今回だけは別だ。
なかなか言いだそうとしないので威圧をかけると渋々といった感じで口を開いた。

「…キッドは素晴らしいマジシャンで、」
「犯罪者、だ。」
「…………うっ、」

ピシャリと言い放つと再び口をつぐんだ。
小さくなりながら俺の機嫌を伺うようにこちらを見る恋人だが、若干反省の色が見えない。
何か他のことを考えているに違いなかった。

「……晶太、今何を考えている」
「秀一、お父さんみたいだな、って」
「…………はぁ…」

今日は何回ため息をつくことになるのだろうか。完全に反省していない。先が思いやられる。

「晶太。俺は、怒っているんだぞ。」
「……ひ、ごめんなさい……」

甘やかしすぎただろうか。
言う事を聞かないため音が出るように机を叩くと、身を縮こませてサッと顔色を青くした。
少し可愛そうだと思うが、今回ばかりはしっかり言って聞かせねばならないと確信している。

「……お前はいつもそうなのか。」
「……何がでしょうか。」
「怪盗の件もそうだが、今日安室くんとしたことだ。」
「いや、安室さんとは普通にドライブの約束を…」

「……はぁ、お前は無防備すぎるんだ」
「え……??」
「安室くんだって男なんだ。ドライブなんて車内で二人きりになるんだぞ。わかっているのか。」
「馬鹿なことを言うなよ。まさか安室さんが俺みたいな奴にそんな気持ち持ってるわけないじゃんか!友達だ、と・も・だ・ち!」
「…………ハァ。いい加減に自覚してくれ。」
「俺に惚れてるのなんて地球上でお前くらいだぞ。」

全く会話にならない。
この目の前で膨れている恋人は、どうやら今まで恋人を作った経験が無いらしく、その童貞であるというコンプレックスからか自分の魅力に全くと言っていいほど自覚がない。
本当に目が離せない。
そして経験が無いということからか、普通に他の男とも仲睦まじくするものだからこちらもハラハラしてしょうがないのだ。

「……まぁいい、安室くんのことは俺が沖矢昴として断っておく」
「ええ?!でもドライブが…」
「ドライブくらい俺がしてやる。……いいな、」
「………………うん。わかった。」

いい加減に俺の機嫌の具合がわかったのか、2度目には素直に従った恋人の頭を、身を乗り出して撫でてやる。

「いい子だ。
で、だ。その怪盗に何をされたと言っていたかな。」
「……んん゙っ」
「俺が忘れたとでも思っていたのか?」

そう、先ほど確かに聞いてしまったのだ。
予告現場で怪盗キッドにキスをされたことがあると。
その話が、最も俺の機嫌を地に落としていた。
俺達は付き合いはじめて、キスも数えるほどしかしたことがなかった。それなのに怪盗にキスをされた、とは。

「いや、話すと長くなるというか……」
「全部話せ。」
「……はい。」

再びの威圧に気圧されたのか、ポツリポツリ、と話し始めた。

「こないだ、キッド様の予告状が届いたんだけどそしたらコナンくんと住んでる女の子…蘭さんの友達のお家が経営してる建物が現場だとかで、一緒に行かせてもらうことになったんだ。」
「また、ボウヤか…」

晶太が事件に巻き込まれた時に話を聞くといつもあのボウヤが関わっている気がする。
気をつけさせねばならないかもしれない。

「それで、警部さんとか関係者と一緒に現場にいさせてもらえて、凄い嬉しかったんだけど、その。お前の大好きな「ボウヤ」が、宝石を俺の口の中に隠したらどうかとか突然おかしいことを言い出してな、何度も断ったんだが」
「……は、?」
「お前のボウヤどうなってるんだ?思考回路がおかしいぞ。
あ、もちろん宝石を直に入れた訳じゃないぞ。袋にだな、」

いや、それよりこいつは今何と言った?
口の中、だと。
まさか口にキスされたわけじゃないだろうな…
しかも宝石を口の中に、と言っただろうか。
もし、触れるだけのキスじゃなかったとしたら、そんな悪い考えが浮かんでは消えた。

「どこにキスをされたんだ。」
「え、いや、その……結局口に宝石突っ込まれたまま予告の時間になったんだけど、そうしたらキッドが俺ごと宝石を奪うもんだから現場もパニックでさ、」
「キッドに触られたのか。」
「いや、まぁ……うん。」

どんどん爆弾が投下される。
その度に心臓が冷えていくのが自分でもわかった。

「びっくりして目を瞑ってたからよくわからなかったんだけど、気づいたら屋上に連れてこられてて、憧れのキッドが目の前にいるのが信じられなくてさ、呆けてたら突然キッドが近づいてくるからびっくりして、そしたら急におでこにキスされたもんだから思わず口開けちゃって、宝石も結局取られたよ。」
「額、か。」
「その後はコナンくんが真っ先に駆けつけて来てくれて、サッカーボール…?で助けてもらったんだ。」

……あまり腑に落ちないが、とりあえずボウヤにはあとでお礼を言っておいた方が良さそうだ。
キスされたというのが口ではなくてひとまずは安心、だろうか。と思考を巡らす。

「それにしても、男の俺にも偏見なくファンサービスしてくれるなんて、かっこいいよなー!」
「……ファンにすることじゃないだろう」
「……な、なんだよ。」

あまりにも無防備すぎ、だな。完全に俺の甘やかしすぎだ。
身に危険を覚えることなくキッドの話をする恋人の座っている向かいのソファーに移動して隣に座った。

「なに、え、ちょ、いだ、いだだだだ!やめろって痛い!何すんだ!わー!キッド様の証が!」
「何が、証だ。もう現場には行くな。わかったな。」

俺は晶太の前髪を手で上げると、自分の服の袖でゴシゴシとこすった。
額を赤くして痛がっているが知ったことではない。
そしてあろうことかキッドの証だのなんだのいう恋人に、おれは我慢の限界を迎えた。

「そんな証、俺が忘れさせてやる。」
「え、あの、秀一さん?お、おちつ……んん……っ」

身の危険を感じたのか後ろに下がる恋人の腰に手を当て逃げられないようにした俺はそのまま唇を奪った。
触れるだけのキスを何度もしていると目をつぶって大人しくなる。
こういうことに不慣れな俺の恋人は、軽くキスをする度に俺の服を握る力を強くしていくのがわかった。
何をしても初々しい反応をするのが可愛らしくてしょうがない、といつも思う。
しかし今回はこの無防備な恋人に男の怖さを教えてやらねばならないのだ。
そう思い、俺は晶太の唇をべろりと舐めた。

「ん゙ん゙…?!」

初めての経験に驚いたのだろうか、ビクッと大袈裟に反応した。
そのまま唇を舐めていると俺の胸を押し、引き剥がそうと必死になっている。
力の差は歴然だ。全く抵抗になっていない。この力の無さも俺の心配事の一つだった。

「んんーー!…ん…む…っ…!」
「口を、開けろ。」

こんなキスで終わらせるつもりのない俺は口に舌を入れようとするが、目も口も固く閉じてしまっている。
仕方なく俺は晶太の背中側から服に手を入れると肩甲骨のあたりを指で押した。

「ひっ……あっ……んむ……?!」

驚いて体から力が抜けた隙に口内に舌を入れる。
深いキスも経験がないのだろう。目に涙をためながら舌をどうするべきかわからないのか控えめに動かしている。
俺は構わずに、晶太の頭の後ろに手を当て、完全に逃げられなくすると舌を絡めた。

「……ん、ん……ふ…、っゃ…」

はじめは苦しいのか俺の胸をドンドンと叩いていたが、もうその抵抗もできなくなったようだ。
目をぼんやりと開けて、俺が舌で歯をなぞる度にびくびくと震えている。
ときおり俺は、晶太の口の端から流れている唾液を拭ってやった。
いじめすぎただろうか。息苦しさが続いたせいか、晶太の体からガクン、と、力が抜けた。それを慌てて支えてやりながら俺は唇を離した。絡まった唾液で、二人の口に糸が繋がっている。

「……は、……はぁ、っ……は」

晶太は俺の腕の中で一生懸命に肺に酸素を取り込んでいる。快感を受け流しているのだろうか。
うっすら開けられた瞳には涙が溜まっており、トロッとした表情で俺を見つめている。
正直、可愛らしくてしょうがない、と思った。
俺は晶太の目尻に溜まった涙を親指で拭ってやりながら優しくソファに寝かせてやると頭を優しく撫でた。

「……は、はぁ……ふ、ふざけ、んな……はぁ」
「ほぉ、もうそんな口がきけるのか。」
「……、るせ……は、……」
「で?」
「……は?」
「怪盗と俺、どちらがよかったんだ?」

意地悪く笑ってみせると、さっきまでの行為を冷静に思い出したのか、耳まで真っ赤にした恋人は恥ずかしさを隠すようにぎゅうぎゅうと首に抱きついてきたので、これだけすればしばらくは安心だろう。と満足して恋人を支えるために腰に手を当て、俺は新しい煙草を口に咥えたのだった。