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秘密発覚1


今日は課題でもやろうかと、ポアロという喫茶店に来ていた。

「あれれー、晶太お兄さんだ!」

そして絶賛大後悔中である。

「あ、あれコナンくん。奇遇だね。」

ひくりと顔を引き攣らせる。
正直子供は嫌いではない。好きな部類に入る。しかしこのコナンという少年と会う度に俺はなぜだか事件に巻き込まれるのだ。いや、この少年が悪い訳では無いのだが少なくとも出会った時に起こるのは悪いことの方が多かった。そして何よりも、事件と遭遇した時の少年は、はたして本当に小学生なのだろうかという表情をすることがあり、俺はこのコナンくんをこっそりと恐れていた。
きっと本当にただの少年なのだろう、最近の子供は恐ろしい。
現にコナンくんは子供らしいキラキラした瞳を俺に向けていた。

「どうしたの、珍しいね。」
「いや、大学のレポートでもやろうかと思ってね。」

そして、この少年が俺の恋人である赤井秀一のご執心な「ボウヤ」なのだそうだ。どういうことだかさっぱりだ。
ぐぬ、こんな子供に負の感情を勝手に持つ自分がとても惨めだと思う。
常に綺麗な心で生きていたいものだ。

「コナンくんは?」
「学校の友達と、博士と一緒に来たんだよ。」

ちらりと視線を移すと、少年探偵団なのだとよくワイワイしているコナンくんの同級生たちと、博士と呼ばれる人の良さそうなおじいさんが座っていた。

「いらっしゃいませ、森山くん。」
「あ、安室さんこんにちは」

ふいに声がかけられ、テーブルに水が置かれる。
ニコリ、と微笑まれるので俺も微笑み返してお礼を言った。
会う度にとんでもないイケメンだ、と思う。
いったい何人の女性を虜にしてきたのだろう。童貞の俺には皆目検討もつかないことだった。
そして彼はこのポアロでアルバイトをしているのだが、別で探偵のお仕事もしているのだそうだ。探偵というものがいったいどうやって仕事を探して食べていく職業なのかさっぱり検討もつかなかったが、とりあえず凄いことなのはわかった。
しかし、どうやら彼はポアロの他にも仕事をしているらしい。そんなにアルバイトをしているということはそれなりに生活が厳しい状態なのだろうか?

「課題お疲れ様です。このコーヒーはサービスです、」
「え、本当ですかありがとうございます」

頼もうとしていたコーヒーをサービスとして目の前に置かれ、いったい何を頼めばいいのかわからなくなり、前にコナンくんにオススメされたサンドイッチを注文しておいた。

「あれ、安室さん目の下に隈が」
「あ、えっ……」

やはり探偵という職業は想像よりもハードなのかもしれない。
疲れが彼の瞳から充分に伺えた。
目の下の隈を見て、自分の恋人を思い出した。爽やかイケメンの安室さんがああなってしまうと思うと心配だ。
そういえば安室さんは、秀一のことを毛嫌いしていていてよく喧嘩を売っているだとか風のうわさで聞いたことがある。

「寝不足なんですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」

いや、まさかこんな爽やかなイケメンに限ってそんな秀一に喧嘩を売るわけないだろう。噂は噂だな、と自分の中で完結させて安室さんの瞳に手を伸ばし、隈を撫でてみた。

「ちゃんと休んでくださいね。」
「……へ、」
「あっごめんなさい急に触ってしまって」

呆けている安室さんに気づいて俺はぱっと手を離す。
すると安室さんが俺の手首を突然掴んだ。

「森山くん、良かったら今度ドライブにでも行きませんか」
「え?」
「僕の気分転換に付き合ってくれると嬉しいです。迷惑でなければ、」
「そんなことでいいならもちろん大丈夫ですよ。お酒も飲みましょう。」

心配した俺を気遣ってこんなセリフがぱっと出てくるとは、なんてかっこいいんだ。
さすがイケメンだ。
ただのドライブだし、男同士でやったって何もおかしくない。
こんなに疲れている人を放っておくことはできなくて俺は快く了承した。

「本当ですか!また連絡しますね。」

目の前でコロコロと表情を変えた安室さんは止めていた仕事を再開し、パタパタと走っていった。
その時機嫌が有頂天にあった俺は、横にいるコナンくんから呆れたような視線が送られていることには気づいていなかった。

しばらく、一人で黙々と課題をやっていると、隣のコナンくんやその同級生たちの席から気になる話題が聞こえてきて俺はぴくりと反応して手を止めた。

「キッド……?」

思わずぽつりと呟き視線をそちらへ移す。

「お兄さん、キッド好きなんですか???」

そばかすの男の子が聞いてくる。

「キッドがまた予告状を出したんだって!」

うんうん女の子は元気なのが一番だ。って、

「え??そうなの??」
「うん。また予告状が届いたみたい。知らなかったの?珍しいね。」

コナンくんの言葉に俺は目を輝かせた。
何を隠そう、俺は怪盗キッドの大ファンであった。

「え、え知らない。詳しく教えて。」
「にーちゃんにも新聞見せてやるよ」
「わわ、ありがとう!」

ほら、とふくよかな男の子から渡された新聞を一生懸命に読む。
どうやら予告の日は近日のようだ。
頬が緩むのを抑えられない。
きっと今回もすごいマジックを見せてくれるのであろう。

「い、行きたい…その日の予定は、」

ぱらぱらと自分の手帳を開いて予定を確認する。よし、何も無い。
憧れのキッドを生で見ることの出来る機会はなかなかない。少しでも同じ空間にいたいのだ。

「晶太お兄さん、本当にキッドが好きなんだね!」
「好きなんてもんじゃないよ!恋に近いというか、本当にかっこいい、」
「ホー、」

ピシッ。そんな音が聞こえてきそうなほど俺の体は硬直した。
体中から血の気が引いていく。
え、え、お前いつから…

「秀……す、昴さん……?!」
「昴さんも怪盗とか興味あるの?」
「ええ、是非森山くんとゆっくりお話がしたいです。」

詳しい話は聞けなかったのだが、俺の恋人はどうやらヤバイ組織に追われてるとかで、本体とは見た目も性格も正反対の沖矢昴という人間として生活していた。
俺の知る恋人とは違いすぎていまだに慣れない。
コナンくんの質問に大嘘をこく恋人に、顔を引き攣らせた。嘘つけ。興味無いだろうが。
もう今すぐこの場から逃げてしまいたい。

「お話だなんて、俺はちょっとしたファンで、彼の詳しい話はあまり…」
「あれれ?予告状が出たら真っ先に現場に行ったりしてるんじゃなかったの?」

この、ガキ……
小さい子特有の無邪気な笑顔で、コナンくんは俺の気も知らずに俺を置いてこんな事があっただの昴さんにペラペラと喋っている。

「森山くんはその怪盗キッドが好きなのですか?」
「い、いや、好きって言っても本当にファンとしてであってお近づきになれるような存在では、」

冷や汗が止まらない。
背中がすっと冷たくなっていくのが自分でもわかった。
一生懸命弁解していると、あらぬ方向から最後の爆弾が投下された。

「あら、あなた現場でキッドにキスされたことがあるって、そこの探偵さんから聞いたことがあるけれど。」
「……えっ!!」
「……んん゙っ」

今までずっと黙っていた女の子が口を開いたと思ったらその場の温度を下げるような発言をしてくれた。俺の懇親の咳払いも意味をなさなかった。同時に安室さんの驚きの声も聞こえたような気がするが。
何を隠そうこの子も、コナンくんと同様俺が密かに恐れている少女である。とてもじゃないが子供の女の子だとは思えない。しかし子供に罪はない。きっと親の育て方なのだろう。最近の子は本当に怖い。

なんてことだ……キッドのことは恋人には全部黙っていた。そう、隠していたのだ……それなのに全部ばらされてしまうとは……

「……森山くん、是非お話を伺いたいので今からドライブでもどうですか???」
「………………はい。」

俺は恋人の提案に素直に頷いた。
抵抗した方が恐ろしいことを理解していたからだ。
一体どんな言い訳をしようかと課題をまとめながら鞄に押し込んでいると、昴さんは俺の分の会計も済ませて出口に歩き出していた。

とぼとぼと恋人について行っていると、後ろから可愛らしく声がかけられた。

「晶太お兄さん、頑張ってね!」

本当に後で覚えていろだとか、お前に会うと本当にろくなことがないだとか言ってやりたいことは多々あったが、「ボウヤ」の眩く輝くような笑顔に負け、俺は力なく頷いた。