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「キバナ!ストップ、ストップ!」

やっと2人で同時に取れた休日。
それを満喫するべく俺の家に集まった。はずだったのに。
俺は絶賛、目の前のドラゴンに食べられてしまいそうになっていた。
ソファーに押し倒された体をうまく動かす事が出来ないまま、唯一動かせる口で必死に抵抗を繰り返す。
無遠慮に覆いかぶさってきたキバナの体重のせいで俺の家のソファーは可哀想なことに悲鳴を上げ続けていた。

「なっ…映画、見るんじゃなかったのか…?SNSにもそう書いてただろ!」
「お前な…口実に決まってるだろ」
「…う」

当たり前だ。トップジムリーダーの彼が幼馴染とは言え俺みたいな一般人と会ってくれること自体本当は奇跡なわけで。
最後の抵抗で発した言葉は彼の言葉で簡単に一蹴された。
反論できずに口を紡いだ俺を、恋人は愛おしそうに見つめてくる。
こんな顔、ファンの人達が見たら一体どんな声を上げるだろうか。
油断した隙に写真でも撮ってやろうかと思ったけれど、返り討ちにあうことは分かりきっていたのでやめておいた。

「その目、やだ…」
「はぁ!?何がだよ」

きっと自分の顔がどんなに緩んでいるか、彼自身気がついていないのだと思う。
バトルをしている時の鋭い表情が嘘のよう。
それがまた俺の弱い心臓を刺激する。だから嫌なんだ。
俺の言っている意味がわからないのか、納得していない様子のキバナは眉間に皺を寄せながら自分の顔を触っている。
その隙に酷く優しい彼の視線から逃げようと顔を逸らした。
けれど、今度はその視線の先。外に繋がる小さな窓から目が離せなくなった。

「何見てんだ?」
「いや…誰かに見られたら、お前がヤバいって…思って…」

キバナは俺に覆いかぶさったままの体制で不思議そうな顔をしながら俺と同じ方に目をやった。
幸いカーテンはしっかり閉まっていて外からは覗けそうにない。
けれどもし外まで声が漏れてしまったら。もし、キバナのファンが近くにいたとしたら。
考え始めると、悪い方にばかり思考が向かってしまう。
そんな俺のことを見るキバナはいつも決まって、呆れ顔を見せながら「相変わらず心配症だな」と他人事のように笑うのだ。

「んなのオレさまがきちんと見ててやるから」
「…でも」
「だから、お前はちゃんとこっち見ろよ」

そう言うとキバナは力の抜けた俺の手をすくい上げるように持ち上げて、指先に唇を落とした。
それから抵抗を忘れた俺の頬に手の平で触れてから、長い指で唇をなぞる。
たったそれだけの動作が妙に色っぽくて、堪らないほど恥ずかしくて、顔に熱が集まるのを俺はどうしても止める事が出来なかった。

「はは…首まで真っ赤じゃん」
「煩い」

キバナは俺の顔の横に手をつくと、じっくりとこちらの様子を眺め始める。
その指先で俺の首元に触れながらニンマリと笑った。
彼の指は別の生物みたいに俺の肌を滑っていって、ゆっくりと赤くなった皮膚を撫でていく。

「ほんと、すぐ赤くなるよなー」
「見ないでよ」
「肌が白いからか?」

内側から光るような鋭いスカイブルーの瞳が、酷く優しく細められた。
そこにはすっかり負けて真っ赤になった自分だけが映されている。
心臓が握られているように痛くなった。
自由な両手で相手の肩を押したけれど、その抵抗が効いている様子は全くない。

「なに、するの」
「んな怯えた顔すんなって。オレさまが悪いことしてるみたいじゃん」

傷付きましたとでも言いたげなその台詞とは裏腹に、彼の顔は明らかに怯える俺を見て楽しんでいた。
唇に触れていた指が不意に動いて、口を無理矢理割り開かれた。
驚いた拍子に力を入れた足先がピンと伸びる。
キバナは興奮した様子で自身の唇を舐めるとそのまま大きく口を開いた。
二人の距離が縮まるたび、スプリングの軋む音が静かな部屋に吸い込まれていく。
食べられてしまう。
そう表現するのが1番正しいかもしれない。

「や、っ待って…!ダメ!」

唇から覗く八重歯が、赤い舌が。
誘うように動くから恥ずかしくて堪らない。
手を伸ばして動きを止めようとしたけれど上から押さえつけられている以上力で勝てるはずもなく。
俺の無力な両手はキバナの頭についたオレンジ色のバンダナを剥ぎ取る事しかできなかった。
ソファーの軋みが強くなって、嫌な音を立てる。
こうなったら最後の手段だ。
結局俺はその色気に耐える事が出来なくて両手を使ってその大きな口を塞いでしまった。

「っ…おい…それは無しだろ」
「ご、め…でも、ちょっと待って…」
「無理」

流石に抵抗しすぎたのか、キバナは少しイラついた様子を見せる。
煩い俺の両手を軽々と拘束すると、考える隙も与えないまま唇を塞いだ。
すぐ近くから大好きなキバナの香りがする。
思い切り目を瞑っているせいか、恋人の息遣いや布の擦れる音が直接脳に響くみたいだった。

「ん…ぅ…」

鼻から抜けた声が漏れた。
角度を変えて何度も触れてくる唇に思考が持っていかれそうになる。
それでも俺は最後の抵抗に、懸命に口を閉じ続ける。
相手の少し乾燥した指先が確認するように俺の耳についたピアスを撫でた。
いつかの記念日にキバナが開けてくれたものだ。
狙ったように舌が唇に触れるたび心臓がこれでもかと煩い音を立てた。

「うまかった」
「お前…っ、いつも長い、んだって」

やっと解放されたのは、息が続かなくなった俺の体から完全に力が抜けた時だった。
すっかりとろけてしまった視界の中でキバナが満足そうに息を吐いているのが見える。
力の抜けた体をくたりとソファーに預けたまま、真っ暗で何も写っていないテレビに視線をやる。
テーブルの上には借りてきた映画が2本。
俺が気になってたやつと、キバナが見たがっていたもの。
たまには2人でのんびり映画見るの、せっかく楽しみにしていたのに。

「今日は、しないから…」

最後の抵抗に、膨れながらそう答える。
鬱陶しそうに手袋を外そうとしていたキバナはその俺の言葉を聞くと、すぐに動きを止めてぱちぱちと不思議そうに瞬きを繰り返した。
そのまま口元に指を当てて何か考えるような仕草をする。

「その言い分、今までオレさまが聞いたことあったか?」

簡潔に言って仕舞えば、無い。
慌てて立ち上がろうとした俺の体を、恋人は体重をかける事でいとも簡単に押さえつけた。
ぎらぎらと興奮した様子のその瞳はまっすぐ俺を射抜いている。
逃げられない。それを悟るのに時間はかからなかった。

「でも…俺、キバナと映画見るの楽しみにしてた…」
「ヘえ…?じゃあ見てもいいぜ?」

あれ、取れたらな。
そう言いながら彼が指さしたのは、テーブルの上に置いた映画のディスクだった。
手を伸ばして取れということだろうか。
すぐに反応できずに首を傾げていると、キバナは近くに飛んでいたスマホロトムを慣れた手つきで操作して、その画面をこちらに見せた。
そこには少しずつ減っていくタイマーの表示。
タイムリミットまでの時間。ということだろう。
いつの間にか勝負は始まっていた。

「ほら、早くしねえと」
「っざけんな。せこいぞ!」

肩を強くソファーに押し付けられながら、必死にテーブルに向かって手を伸ばす。
けれど木製のテーブルにぶつかった爪がコツンと乾いた音を立てるだけ。
近く見えるはずのそのディスクは無慈悲な程遠くに感じられた。
手足をばたつかせてもがく俺を見ながらキバナは楽しそうに喉をくつくつと鳴らす。

「力の差、考えろよ!!」
「オレさまはどんな時も手加減はしねぇの」

勝ちを確信した相手の笑顔ほど腹が立つものは無い。
恋人の胸を力任せに叩きながら睨みつけてやる。
そこでイラつきながら視線をずらしていくと、近くの床にモンスターボールが転がっているのが見えた。
いつの間にか落としてしまったようだ。
そこまで考えて、目の前の鬼畜なドラゴンと自分のモンスターボールを交互に眺めた俺は、隙をついて大きな声を出した。

「ストリンダー!助けて!」

俺の必死の叫びが届いたのか、少し遅れてボールが揺れて反応した。
ローの姿な彼はのんびりとボールから出てくると、キバナに押し倒された俺を視界に入れた。
やっぱり俺の相棒は天才だ!救世主の登場に感動で泣きそうになった。
早くこいつを俺の上からどかしてくれ。そういう意味でキバナを指差してやる。
するとストリンダーは「なんだそんなことか」と言いたげに目線を外して、欠伸をひとつ。
その姿勢のまま舌を出して眠り始めてしまう。

「なっ…え?」
「好きにしてくれってよ」
「裏切り者!」

昔は頼まなくても俺たちの間に入って邪魔をしてくれていたのに。
今となっては慣れてしまって何の関心もないといった様子。
両手を振り上げて相棒に喝を入れていると、俺たちの周りを浮遊していたロトムから軽快なメロディが流れ始めた。

「あっ…」
「時間切れ。だな」
「今のはノーカンだろ!?もっかいだ!」

ポケモンバトルの時は乗ってくれるその言葉も、こうなると聞いてはくれない。
八重歯を見せながら目元を緩めて子供のように笑うキバナは、俺に選択肢を与える気は一切無いようだった。
無遠慮に覆いかぶさってくる恋人をあきらめ顔で眺めていると、その長い指に慣れた手つきで顎を固定された。
そのまま近づいてくる整った顔を眺めながら、ぁあ。またこうなるのかと思う。
けれど普段頑張ってる恋人の気が済むのならば、それも悪くは無いのかもしれない。


恋人同士の休日