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★ ☆ ★




「やっと終わったー!疲れた」
「お疲れ、健人」
「お互いにな」

引越しも終わって、ある程度片付いた部屋の中。
持ち込んだソファーに寝転がった健人はそのまま手足を投げ出した。
窓から見える空はゆっくりと、確実に暗くなり始めていた。
2人で選んだカーテンが、外から吹き込む風で動き続ける。

「腹、見えてるぞ」
「もう動けない。景光、しまって」

いつの間にこんなにわがままに育ってしまったのだろうか。
あまり日に焼けていない肌を晒したまま、動こうとしない健人を見てため息を吐いた。
眠そうに瞬きを繰り返す恋人を見ながら、今日の夕飯は出前でも取った方がいいかと思考をめぐらせる。

「仕方が無いな」
「やった!好きだぞ」
「はいはい」

俺の返事を聞くと、悪戯が成功した子供のように笑う。
恋人が寝ているソファーに近づいた俺は、その近くに膝をついて座った。
それにしても、相手が俺になると途端に警戒心がなくなるな。
目の前に無防備に出された腹を見ていたら急にいじめてしまいたくなって、さらけ出された肌に、わざと髭が当たるように顎を乗せた。

「ぎゃっ!」
「ん…どうした?」
「どうしたじゃない!ひっ、髭…くすぐったい!やめろっ!!」

色気のない悲鳴と共に、急に俊敏に動き出した健人は上半身を起き上がらせると俺の頭を掴んだ。
全力の抵抗にも一切構わずに、力の入ったその腹にキスを落とす。
すると、くすぐったいのか笑い出した恋人は手足をばたつかせながらもう一度ソファーに沈んだ。

「も…や、やめ…!笑い死ぬ!」
「まだ終わらないぞ!これでもくらえ!」
「ぎゃー!やめろ!」

追い打ちに脇腹を掴んでやると、足をぴんと伸ばしながら全身に力を入れた。
俺の髪の毛を引っ張っている手の力がどんどん強くなっていく。
これ以上されたら自分の髪の毛も危ない。そう思って手を離してやれば、苦しそうに息を整える健人が真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。

「い、いかげんに…ふ、ざけ…な…」
「相変わらず敏感だな」
「は?普通だろ…」

いい加減にしろよ。
そう言いながら汗を拭う恋人の服を伸ばして、今度こそ腹をしまってやった。
その間も不満そうな視線が刺さるのが気になったので、顔を向けるとあからさまに逸らされてしまった。
心なしか膨れた頬が可愛らしくて、ゆっくりと目を細める。

「どうした?敏感って言われたの、怒ってるのか?」
「違う」
「ほんと?」
「本当だって」

俺の質問を聞いた健人は、手で口元を隠しながら反論する。
恋人が嘘を吐くときにする癖のようなその仕草を見て、下手くそ。なんて心の中で笑った。
それから、その嘘を暴き出すためにもう一度腰を両手で掴んでやる。
すると、力の抜けていた恋人の手足がぴんと伸びた。
それと同時にほんの少しだけ声を漏らしてから、すぐにこちらを睨んだ。

「うっ…」
「ふぅん…何が違うんだ?」
「あー!もうっ!景光、触るの禁止令!」

大きな声が聞こえたのと同時に、髪の毛を両手でかき回された。
触っているのはそっちなのだけれど、これを以上指摘したらもっと怒られそうなので黙っていることにする。
健人の綺麗な指が何度も俺の頭を撫でて、先程乱れた髪の毛を梳かしていく。
引っ越しの疲労感のせいか、なんだか眠ってしまいそうだ。

「嫌いになってやるから…」
「へー…。…本当は?」
「…、…すき」

ソファーに肘をつきながらにこりと微笑んでやると、俺の顔を見た恋人の顔が心なしか赤くなったような気がした。
目を逸らして不満そうに呟いた恋人が可愛くて仕方がなくて。
寝転がったままのその体に思い切り抱き着いた。

「重い!やめろって」
「うん」
「まったく…」

文句を言いながらもしっかり抱き返してくれる恋人を、さらに強く抱きしめた。
温かくて、気持ちが良い。
そのまま人肌に安心した俺たちは睡魔に誘われるままに目を閉じた。

その後、外の景色もすっかり暗くなった頃。
先に目が覚めた恋人に「体が痛い」と少しだけ怒られた後に、二人で遅くなってしまった夕飯を食べた。
これからずっと二人でいられることを喜び合いながら、今後の計画を立てる。
本当に幸せそうに笑う恋人の顔を見ていたら、幸福を分けてもらったような、そんな気分になった。


物が少ないその部屋で