×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

★ ☆ ★




「そろそろ一緒に住むか」

それは、俺が景光と付き合い始めてから1年程経ったある日のことだった。
いつもと同じように、どちらかの家に泊まってゲームをしていた時だっただろうか。
突然彼から放たれたその一言。
ゲームで対戦しながら、まるで明日の夕飯でも決めるみたいに言うものだから反応が遅れてしまった。

「…へ?」

思わずコントローラーを動かしていた手が止まった。
ソファーに座る俺と違って、ソファーを背もたれにして床に座る恋人の方を見た。
けれど、まっすぐテレビの方を向いたままで表情を読み取ることができない。
見下ろした恋人の髪の毛が、扇風機の風によってふわふわと動いた。
その後ろ姿を呆然と眺めているとテレビ画面から俺が操作していたキャラクターが倒されてしまった音がする。
…しまった。
一気に現実に引き戻されたような気分になった。

「よっしゃ、俺の勝ち」
「え…!ちょっと待て!卑怯だぞ」

テレビ画面を見ていた俺の視界の端で、恋人がガッツポーズを決めたのが見える。
この野郎。
少しだけ頭にきた俺は、すぐに恋人から目を逸らすと持っていたコントローラーを強めにソファーに置いた。
勝負の世界は厳しいけれど、こんな汚い手で負けたのが悔しいというのが本音だ。
ゲームから聞こえる明るい音楽は今の俺の気分には似つかわしくない。

「くそ…卑怯な手使いやがって…」
「それで?健人」
「なんだよ」
「…返事は?」
「へ?なんの話?」

突拍子のないその質問に一瞬で怒りが吹き飛んでいく。
しばらく首を傾げていると、突然振り返った恋人がソファーに座る俺の腰に抱き着いた。
驚いて声を出した俺の体に、ぐりぐりと頭を擦りつける。
なんだかそれが大きな子供のようで、投げ出していた手をその頭の上に乗せて優しく撫でた。
触り慣れてしまったその髪に指を通していると、急に先ほどの同棲の話題が思い出されて、そこでやっと質問の意図を理解することができた。

「あ、一緒に住むって話?」
「健人遅いって…俺、結構勇気出したんだけど」
「へっ…いや、なんか…冗談かと思って」

お前が、当たり前のことみたいに言うから。
そう続けようとした言葉は口から出てくることはなかった。
すると不満そうな顔をした景光が顔を上げて俺を見た。
意志の強いその瞳に真っ直ぐ見つめられて、思わず目を逸らしそうになる。

「…嫌だった?」
「嫌、じゃない…嬉しい…ありがと」

なんだか気恥ずかしくて、恋人の頭を撫でていた手をもう一度動かした。
髪を梳かしたり、指で摘んだりしていると、手首が突然掴まれる。
驚いて目を見開いた俺の体が、そのまま恋人の方に引っ張られて前のめりに傾いた。
唇に柔らかい感触がして、同時に体が抱きしめられる。
驚いたなんてものではない。
心臓が止まるかと思った。
自分の身に起きた状況を理解して体中から力を抜くと、息を吐きながらそのままずるずると床に座り込む。

「びっ…くりした…」
「はは、悪い。嬉しくて」
「悪いじゃない!景光くん減点!」

腕の中で騒ぐ俺を安心させるかのように、大きな手が何度も背中を撫でる。
温かいぬくもりがそこから伝わってきて、なんだか気持ちが良い。
頬をすり寄せられると密着した体から景光のいつもより速くなった鼓動が伝わってきて、俺は思わずぴたりと動きを止めた。
恋人の肩に頭を乗せて静かになった俺の耳元で、愛おしそうに笑う声が聞こえてくる。
なんだかしてやられた気がして仕方がなかったけれど、今日だけは許してやることにした。

「健人と一緒にいる時間、増やしたいから」
「うん…あ、りがとう…」

床に座り込んで抱き合ったままのその体制で。
恥ずかしい言葉を素直に受け止めた。

その後これからのことを話しながら、本当に嬉しそうに笑う彼の顔を見ていたら、こいつと一緒でよかった。なんて。
幸せが胸をいっぱいにして、関係ないことばかり考えてしまった。

ちゃんと話を聞いていなかった俺が恋人に減点されるのは、それから数分後のことで。


お宝さがし